金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

保険の必要・不必要

2007年09月14日 | うんちく・小ネタ

先日会社で保険のことがちょっと問題になった。どういう保険か?というと今まで社員が業務出張する時、航空機に搭乗する場合は会社が死亡傷害保険をかけていた。金額は大したものではないが、これをやめようという提案が総務からあった。理由は「同じ場所に飛行機で行くと保険が付保され、新幹線で行くと保険が付保されない」「他の関係会社でも止めている」といったものだ。結局止めることにしたが、その決定をした時私は最近読んだ「運は数学にまかせなさい」(ローゼンタール著 早川書房 2,000円)の中の文章を思い出していた。

保険について真っ先に言えるのは、保険会社は普通、莫大な利益を上げているという事実だ。・・・火事やさまざまな損害や保険料について統計データを調べたりしなくても、保険に加入するのは平均すれば採算が合わないと、自信を持って結論できる。平均すると、保険金としていつか取り戻せる額よりも、自分が支払う保険料のほうが多いのだ。・・・・それほど深刻でない損害に関しては、保険に加入するのをやめて、自分で自分の「保険代理人」になり、いざという時には自腹を切って穴埋めする方がよい。

もっとも著者は火災保険のような保険については、自腹を切ることができないので入るべきだと言っているのでご注意。

さて飛行機搭乗時の保険については「飛行機は危険」というバイアスがあって特別な保険をかけるという習慣があるのではないだろうか?例えば出張中に「飛行機が墜落する確率」と「自動車事故に巻き込まれる確率」あるいは「スリップして駅の階段から落ちて骨折する確率」はどちらが高いのか?という点は興味ある問題だ。ただはっきりしていることは、飛行機事故は致命的な事故になるという可能性が高いので「飛行機は危険」という漠然とした偏見があることは確かだ。

先程の本の中に米国とカナダの死因ごろの死者と割合がでていた。それによるとカナダの場合、一番高い死因は心臓血管疾患で34.1%、転倒・転落は0.79%、民間航空機事故はなんと0.0009%だった。母集団の問題があるので、これをもって航空機が極めて安全だということは早計だが、出張の場合も早朝深夜に及ぶ無理なスケジュールを組まない等健康管理に留意する方が、飛行機搭乗時の保険をつけるより大事であることは間違いなさそうだ。

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格付の意味あるいはムーディーズの昔日

2007年09月12日 | 金融

サブプライムローン問題に端を発して、格付機関が批判されたり監督官庁からヒヤリングを受けていることは周知のとおりだが、『格付』の意味というものは意外に知られていない。FTが上手くまとめた記事を書いている(書き手は固定利付債ブローカーの役員)のでポイントを見ておこう。

  • 不幸なことに多くの投資家と大部分の評論家は格付が何を意味するのか?格付機関はどのように活動しているのか?ということを理解していないことが明らかになってきた。
  • 基本的なことの第一は「格付は信用リスクを反映する」ということだ。信用リスクとは債務を返済する能力と意思のことである。格付は対象債務の流動性、潜在的価値、ボラティリティを含んでいない。従って格付だけをベースにした投資は誤りである。

流動性とは換金性である。たとえ高格付の債券でも発行総額が少ないと流動性は低く換金リスクが伴う。

  • 大部分の人はAAA/Aaaは絶対安全、BBB/Baaは多少のリスクを示し、CCC/Caaはトラブルを意味すると考えるが、実際はもっと複雑である。最初に信用リスクを測定する方法は沢山ある。次のS&Pとムーディーズでは信用リスクを測定するのに異なったアプローチを取っている。

S&PのBBBとムーディーズのBaaは同格だと言う方は、金融マンの間でもかなり一般的だが正解には二大格付機関で定義が異なる。従って二大格付機関の格付が一致するとは限らないのだが、実際には相関関係はきわめて高い。不思議なことだが。

  • 更に混乱を招くことはS&Pの格付は債務不履行を起こす可能性を基準にしている。例えばBBBの格付を持つ10年のCDOは7.1%の債務不履行の可能性を示している。一方ムーディーズの格付は期待損失を反映している。期待損失とは「債務不履行の可能性に実損率を乗じたもの」である。
  • これらの観察から我々はどんな結論をることができるか?対象クレジットの格付自体は意味がなく、鍵となるのは分析の背後にある一連の仮定である。幾つかの仮定は健全であるが、それ以外のものは健全性が少ない。従って格付を額面どおり受け取ることは賢明なことではない。
  • 最後の重要な点は格付機関が恐らく規制当局が意図する以上の力を持っていることである。債券が投資適格であるかどうかは決定的に重要である。非投資適格銘柄になるとあるタイプの投資家は強制的に売却する必要がでるからだ。

FTは今後格付機関に関する監督強化が検討される時次のようなことがトピックになると述べている。

  • 固定利付債の市場はその性格からしてグローバルなものである。従って誰が格付機関を監督するのか?
  • 規制当局は何を監督するのか?アナリストが採用する格付手法を規制するのか?
  • 現在の時点で格付をベースにして必要資本額を決めることが安全なのか?
  • 規制当局が信用リスクを測定する共通の基準を定めて、格付機関はその物差に従って自分の格付を位置付けるべきなのか?

最後に「格付機関は必要な役割を演じており、政府機関がそれに置き換わることがあればそれは悲劇だろう」と結論付けている。

これを読んで分かることは「格付を正しく使うには相当な金融知識と統計学の造詣が必要だ」「格付は投資意思決定の一つの重要な参考指標だがそれが総てではない」「格付機関を規制することはそう簡単な作業ではないし、それがプラスかマイナスかも即断しにくい」ということだろう。

10年位前つまり邦銀がムーディーズの格付に振り回され、資金吸収等に苦労した時はこのような整然とした格付に関する問題点の指摘を見ることはなかった。あの頃はムーディーズが教祖か絶対君主の様な力を振るっていて、格付の意味を深く理解しない人達がAとかBとかの記号だけを見て現金を抱えて銀行の窓口から窓口へ走り回っていたことを思い出す。

最近はムーディーズさんの力もかなり落ちた様だが、それはそれで多少の寂しさを感じない訳ではない。

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安倍辞任で国民と世界の信頼を失う

2007年09月12日 | 政治

今日の昼に安倍首相が突然辞任するというニュースが入った。少し前にブログで「テロ活動特別措置法に政治生命をかける」と宣言したのは背水の陣の表明だが危険だと論じた。しかし敵が攻めてくる前に自ら逃亡する様では背水の陣も何もあったものではない。富士川の戦いで水鳥の音に驚いて逃げた平家の軍隊並みの話である。

安倍首相の辞任の背景には「週刊現代」が脱税疑惑で追求していたことがあるというニュースを見た。健康問題云々というテロップも流れていた。理由は何であれ国会で所信表明演説をしたり、海外で「自衛艦の派遣継続に職を賭す」などと発言してその舌の根が乾かぬ内に辞任するというのはほとんど前代未聞だろう。

「自爆テロだ」と言っていた霞ヶ関の官僚がいるが、テロリストが怒るであろう。テロリストを擁護する訳ではないが、テロリストには持続する意思がある。

リーダーにはこの「持続する意思」が必要だ。塩野七生の孫引きだがイタリアの教科書にはジュリアス・シーザーを評して「持続する意思・肉体の健全・類まれなる寛容・知性・説得力、これらを兼ね備えたものは古来シーザーしかいない」といってリーダーの徳目を上げている。

安倍首相はこれらの内、幾つの徳目を持っていたろうか?持続する意思の欠如は国民の信頼を深く裏切るとともに、国際社会での日本人政治家の面目と信頼を失うものではないだろうか?

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ポールソン、市場の混乱の長期化を予測

2007年09月12日 | 金融

FTによると米国のポールソン財務長官は11日、今回の信用危機は過去20年間の金融ショックより回復に時間を要するだろうと述べた。以下そのポイント。

  • 今回の市場の混乱は90年代のアジア通貨危機、ロシアのデフォルトや80年代のラテンアメリカの債務危機より長引くだろう。
  • 従来の金融危機よりも混乱が長引く第一の理由はグローバル化が進んでいるため、米国のモーゲージが小刻みにされ世界中にばら撒かれているからである。第二に複雑さのレベルの問題である。

米国の当局によるとサブプライム住宅ローンの評価については、多くのローンの金利が高いレートにリセットされる2年後までかかるかかる可能性があると述べた。

実際に現場で過去の金融危機を経験した元ゴールドマンザックスの会長ポールソン氏の発言だけに、この予想に同感する人は多いのではないだうか?

人は往々にして安心感を与えるため、問題の大きさを小さく評価する場合がある。例えば参院選の前に自民党が言った年金記録不備の整備に要する時間だ。為政者が問題を過小に評価して国民に示して、解決が予定通り進まなかった場合一度に信頼を失う。問題は小出しにしてはいけないのである。

その点今回のポールソン氏の発言は、問題の深さを直視していて信頼が置けそうであると感じだ。

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北朝鮮、イラク、自衛艦派遣の連環

2007年09月11日 | 国際・政治

日本のマスコミや政治家の国際問題に関する欠点は断片的事実(間違いも多いが)を国民に語ることはあっても、国際情勢の全体像と日本の利害を明確に示せないことである。例えば日本の外交上重要な「米国が北朝鮮との和解を急速に進めている」「テロ対策特別措置法の延期を求め、自衛艦の給油活動の継続を求めている」という問題がイラク問題と緊密に絡んでいることを国民に示していない。

ポイントは米国がイラクで抱える問題の大きさであるが、そのことを論じる前に最近のファイナンシャルタイムズの日本・北朝鮮の外交交渉に関する記事の紹介から始めよう。

  • 先般のウランバートルでの両国の会談が始まる前に、東京は北朝鮮に緊急援助を送ることを考えるかもしれないと言った。加えて東京は日本の朝鮮半島の植民地的占領に対する賠償について討議することに同意するかもしれないと述べた。
  • これは「現金」を意味する。1965年の日韓国交正常化に際してソウルは賠償金として3億ドルを受け取った。これは現在の貨幣価値で60億ドルから100億ドルに相当する。
  • 安全保障問題の専門家である東京テンプル大学のデュアリックDujarric教授は日本が軟化しているのは二つの理由があると述べた。一つは北朝鮮の核問題の解決で迅速な動きを示す米国の動きにより日本が孤立する懸念である。二番目は北朝鮮の拉致問題で政治的キャリアを確立した安倍首相が参院選で大敗して影響力を弱めていることである。このため官僚達が北朝鮮との妥協点を求めだしたことである。これは米国が日本から離れると日本が孤立するという懸念から出ている。

この様に見てくると朝鮮と日本の関係というのは「政治家レベルの強硬意見と現実的対応を迫られ小細工を弄する官僚」というパターンを繰り返す歴史という一面が見える。官僚レベルで小細工をした例の最たるものは文禄の役の後、日本・明双方の官僚がお互いに相手が降伏したと偽りの報告をして終戦を図ろうとしたことである。ここで官僚を責めるつもりはない。責められるべきは無益の侵略戦争を起こした秀吉である。小細工という意味では朝鮮通信使の応対に当たった対馬藩も幕府・朝鮮双方のはざまで度々苦労をした様である。

話が横道にそれた。本題に戻すと前出したデュアリック教授が次のようなことを言っている。

  • 9・11事件そしてイラク戦争後米国は、軍事力を極東から中東にシフトしている。それは不幸なことながらイラクに多くの軍事力を必要とし、規模は小さいもののアフガニスタンにも軍隊を展開しなければならない。米国の負担はきわめて重く、北朝鮮問題を早期に解決する必要がある。

以下は私の解釈だが、大統領選挙を控えてブッシュ大統領は「外交・軍事面の成果」を必要としている。そのためには極東を安定化させイラク・アフガニスタン問題でも解決の糸口をつけなければならない。アフガニスタン復興には日本の協力が必要であり、インド洋での自衛艦の給油活動が必要となるわけだ。

ここで米国の基本的な戦略を理解しておく必要がある。それは産油地域であるアラビア沿岸を安定させ、石油の安定的な供給源を確保するとともに、その運送経路であるインド洋からマラッカ海峡・東シナ海のベルト地帯の安全を確保することである。そしてこれは日本の経済権益とも一致するところである。

北朝鮮による拉致問題を軽視する訳ではないが、それに固執して北朝鮮問題の解決に米国や韓国と足並みをそろえないと日本は孤立する恐れが出てきた。

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