先日山仲間とキャンプに行った時ある女性から「将来インフレが進むのではないか?と不安です。資産防衛のために株を買いたいのですがどんな株が良いですか?」という質問を受けました。その時の私の答はシンプルで「マイクロソフト株が良いですよ」というものでした。
でもあまりにも素っ気ない答なのでもう少し補足説明をしてみたいと思います。
まず今後もインフレは進むのでしょうか?
現在アメリカで起きているインフレの原因は次のようなものです。
- コロナ一段落の後、我慢していた消費需要が爆発的に増加しました。今年5月にニューヨークに行った時タイムズスクエアや五番街に人があふれていました。海外からの旅行者はあまりいませんが、コロナ期間中アメリカ国内で旅行や観劇を我慢していた人がニューヨークに殺到している感じでした。余談ですがこの抑圧された需要をPent up demandと言います。日本人は慎重でおとなしい気質ですからあまり抑圧された需要が爆発しているとは思いません。それでもキャンプ場に行くとかなり利用者が増えたなぁと感じます。
- アメリカではコロナ感染を警戒して対面で仕事をすることを警戒する人もいて就業者総数はコロナ以前の水準に戻っていません。つまり求人数が求職者数を上回る状態が続いています。このため失業率は過去最低レベルまで下がり、賃金の上昇が続いています。
- 食品・原油などコモディティ(汎用品)と言われるものの値段は、ロシアのウクライナ侵攻によるロシア・ウクライナからの輸入の滞りなどで高止まりが続いています(原油価格は少し下がってきましたが)。
- また「世界の工場」中国のゼロコロナ政策による物流供給チェーンの滞りにより色々なものの値段が上がっています。
このようなアメリカや欧州の物価高に伴う輸入価格の上昇、円安による輸入価格の上昇、一部の業種における人手不足などで日本でもジリジリと物価は上昇しています。
問題はこのインフレ傾向は短期間に鎮静化するのか持続するのかという点です。コロナについては私は専門家ではありませんので、論及は避けますが、グローバル化が進む中、パンデミックPandemic(感染症の広域での大流行)という現象は今後も起こりうると考えておいた方が良いと思います。
ウクライナ問題のような大きな紛争は今後発生する可能性が高いと考えています。理由は世界には異なる価値観を持った国が多く存在しかつ力を着けてきている一方、アメリカは「世界の警察」を止めると宣言して以来戦争抑止能力が低下しています。パックス・アメリカーナ(アメリカの平和)という言葉が死語になったとは思いませんが、アメリカがロシアや中国の暴発を抑止できるかどうかは慎重に考える必要があるでしょう。
私は長期的にはインフレ傾向は続く可能性が高いと考えているのですが、その理由の一つは地球温暖化に伴う農水産物の収穫の不安定化や温室ガス抑制のためのエネルギー価格の上昇などがあります。これに加えて日本の場合は労働力不足による賃金上昇圧力が高まる可能性が高いと考えています。
なお社会保障や雇用構造の点から見ると日本の社会は米国などに較べて、インフレ抵抗力が非常に低いと言わざるを得ません。わかりやすい例は公的年金です。日本の公的年金はマクロスライド制という仕組みのため、インフレ分だけ年金が増えるということはありません。むしろ今年の年金改定のように物価が上昇しているのに年金額は減ったということが起きています。これに較べてアメリカの公的年金は完全物価スライドです。
また雇用という点ではアメリカでは現在1年間で30%位の人が転職し、より高い給料を得ています。これに較べて日本の転職率は8%程度です。転職が当たり前の世の中になると、優秀な社員には会社は給与アップで引き留めを図りますから従業員の給与はあがる可能性が高まります。雇用構造の上からも日本社会はインフレ抵抗力が弱いと言わざるを得ませんね。
次にインフレヘッジにマイクロソフトなど米国優良株が良いという本題についてです。
少し硬い話をすると一時話題になったピケティの「21世紀の資本論」の中に出てくる「利益率>成長率」という説があります。これは資本家が投資によって得られる利益率は労働者の賃金の成長率(所得はGDPと並行して伸びる)より高いので格差が拡大するという説です。説を支持するかどうかはさておき、コロナ禍の中の株高などを見ると投資のリターンは大きいと感じます。
つまりもしピケティの説を正しいと思うなら資本家的に振る舞う=株を買うのが良いということになります。
次にどのような株式投資をすれば良いのか考えてみましょう。
下のチャートはマイクロソフトと米国の代表的株価指数S&P500と日経平均の過去5年の株価の推移を示したものです。
このチャートから次のことが分かります。
- 米国株市場平均は日本株市場平均よりパフォーマンスが良いがこの5年に限っては日本株もかなり健闘している。
- マイクロソフト株のパフォーマンスは市場平均を圧倒している。
なおこのチャートだけでは分かりませんが、他のデータを合わせて考えると次のようなことが言えます。
「アメリカ株全体のパフォーマンスは日本株より高いが、アメリカ株のパフォーマンスを押し上げているのは、マイクロソフト、アップルなどIT銘柄であり、IT銘柄を除くと日米の株価インデックスにそれほど差はない」
ということは過去を参考にすればマイクロソフトやアップルの株を買うのが株価上昇が期待できインフレヘッジ効果があるということになります。
その中で敢えて私が一銘柄ということであればマイクロソフトを選んだ理由はアップルより配当性向が高いという点です。もっとも両社の過去の株価推移はほぼ同じようなものでどちらを買っても長期的には同じでしょう。
また私はiPhoneユーザーではなく、それ程アップル好きでないということもマイクロソフトを推奨した理由です。マイクロソフトとアップルもトリプルAという最高の財務格付を持っている会社ですから安心して長期保有できると思いますよ(もっとも株のことですから値段は上下しますが)。
参考までに世界的なプロの投資家の最近の行動を見ると、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイ社は株式市場全体が下がった今年第2四半期にアップル株を大きく買い入れました。またサウジアラビア王室につながるファンドは同じ時期にマイクロソフトやテスラ株をかなり仕込んだそうです。
私の話はこれでおしまいです。多少なりとも参考になれば幸甚です。