昨日門前仲町で「ちゃんこ鍋」を食べ、ご主人(元関取)と「五月場所を一緒に観に行こう」と約束した。すっかり相撲づいたなぁと思っていたら、エコノミスト誌が時津風部屋事件を取り上げ、日本の相撲問題を分析していた。
時津風部屋事件というのは昨年6月同部屋の序の口力士斉藤さんが、暴行の結果死亡したと疑われている事件のことだ。ところで相撲部屋のことを英語でstableという。Stableには家畜小屋という意味もある。Life in the stable is gruelling
(相撲部屋の生活はとてもひどい)などという文章を読むと外国の読者は相撲部屋にどのような印象を持つだろうか?と気にならなくはない。又同誌は「12月に行われた調査によると、9割以上の部屋で棒で力士を叩いていた」とも報じている。
エコノミスト誌は「相撲協会は各部屋に力士一人当たり2万ドル以上の手当てを支給しているので、逃げた力士を連れ戻すインセンティブがある」と述べていた。2百数十万円のために斉藤さんが激しい暴行を受けたとするとなんとも痛ましい話である。
エコノミスト誌は「相撲協会は1927年に設立されて以来、スキャンダルを起こしがちscandal-proneだという。私はその一つの原因を全体として下級力士の報酬が極端に低いことにあると考えている。現役引退後「年寄株」を手に入れることができると経済的に安定するが、さもないと他の世界で収入を得ることを考えなくてはならない。年寄になるには「小結以上を一場所以上つとめる」または「幕内通算20場所以上」または「幕内・十両通算30場所以上」という条件を満たさないといけない(ただし例外がある)。 年寄になると相撲協会の委員等に就任し、15百万円程度の収入を得ることができる。エコノミスト誌は「年寄株は2百万ドルから4百万ドルで取引されている」と報じているが、これは過去の話で現在は1億円以下で取引されているようだ。
また年寄の数には105という制限がある。従って年寄になることは容易ではない。
「年寄制度」を初めとする相撲協会という仕組みは年寄そしてその予備軍である一握りの上位力士が自分たちの権益を守るためのものであり、関取になれなかった力士には厳しい世界だ。
現役時代の給料も関取(十両以上)とそれ以下では雲泥の差だ。十両になると年収15百万円位が支給される。しかし「力士用成員」と呼ばれる幕下以下の年収は1百万円にも満たない。
プロスポーツの世界は総て強者に極端に厚く、弱者には極端に薄いものである。しかしレッスンプロになって生計を立てる等のつぶしがきかない相撲において報酬の低さは過去から問題になっていた。1932年に起きた「春秋園事件」(天竜事件ともいう)では、待遇改善を求める天竜達多くの関取が相撲協会を離脱するという事件があった。この事件についてはウイキペディアを参照したが、それによると当時力士達は場所毎に支払われる手当では暮らしていくことができず、親方からの前借でしのぎ、養老金で返済していたほど困窮していた。
相撲界が他のプロスポーツに比べて異常な点はプレーヤーである現役力士に比べて、コーチであるべき親方の力が異常に強い点である。
これは親方という仕組みが引退後の収入を保証する制度であることと密着に絡んでいる。大相撲の世界では現役時代に生涯ゆっくり暮らせるほどの稼ぎを揚げることは難しそうだ。
ところで相撲協会は自分の力で組織を浄化して、暴行事件などの不祥事を根絶できるだろうか?という点について私は余り明るい見通しを持っていない。
何故なら現在の制度は協会の理事達の権益を守る制度であり、彼等が自分の利益を損なうような改革を行うインセンティブはないからである。しかしもう少し透明性を高め、日本の若者が入りやすい業界にしないと相撲界は衰退し、協会幹部達も根腐れしてしまうかもしれない。もし協会幹部がそこまで思い至るなら、改革に向かう望みはあるのだが。
それにしても「ちゃんこや」を開き、繁盛させている力士さんは恵まれた人である。店を成功させるにはそれなりの土俵経歴や技が必要だからだ。どこの世界も楽ではなさそうだ。