金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

これで分かるモノライン問題

2008年02月21日 | 金融

モノラインという金融マン以外には馴染みのないモノが、米国の金融界を揺さぶり世界の株価を揺さぶっている。このモノラインとは一体何者でどうしてこんなに問題になるのか?ということを2月20日のFTの記事などを踏まえて簡単にまとめてみた。

ここ10年間程の金融システムは複雑になり過ぎて、投資家や政治家達の理解を超えている。日本の株式バブルの頃私は株式ファンドマネージャー達の隣にいたが、ファンドマネージャー達の投資行動は彼等の上司や投資家達~当時日本に本当の投資家がいたかどうかは別問題として~の理解を越えていた。バブルはいつも常識人の理解を超えたところで発生する。モノライン保険会社は30年程前に地方公共団体の発行する債券(以下地方債)のデフォルトリスクを投資家に対して保証する会社として発足した。この保証業務は平凡だが堅実な収入をもたらした。だが会社というものは平凡な収入では満足できないものらしい。過去10年の間にモノライン保険会社は新しい収入源を求めて、住宅ローン債券の保証などストラクチャード債券の保証という新しい領域に仕事を拡大していった。

最近までモノライン保険会社は「副業のストラクチャード・ファイナンス業務は本業の地方債の保証業務と同様安全な業務である」と主張してきた。しかし昨年サブプライムローンのデフォルト率が~エコノミスト達の推測によれば~2005年以降に引き受けたものについては25%に達している。これは先例のない不良債権の発生比率である。

サブプライムローンのデフォルトにより欧米の大手銀行は1,200億ドルを超える償却を行っている。アナリスト達はモノライン保険会社は最終的には保証履行の結果として、最終的には340億ドルの損失を被ることになると計算している。損失は将来の長い年月にわたると予想される。この損失に対してモノライン保険会社の手持ち資金は480億ドルである。つまり保証履行能力が疑わしいことがはっきりしてきた。そこで格付機関は規模の小さいモノライン保険会社の格下を既に行い、最大手のAmbacとMBIAについても格下の懸念が高まっている。

Creditsightという債務分析会社は「モノライン保険会社の自己資本は2003年から2006年にかけて29%増え220億ドルになったが、この間のストラクチャード・ファイナンスの保証は175%増え、1兆6千億ドルに達した。業界は貪欲になりすぎた」と言っている。簡単にいうと保証履行能力を超える保証を行ってきたということだ。昔日本では恒常的に預金不足に悩んでいた相互銀行が企業が他の銀行から借入を行う時の保証業務で利益を稼いでいたことを思い出させる。景気が悪くなると、企業倒産が増え相互銀行の損失は急速に拡大した。これがため寿命を縮めた相互銀行も少なくない。

モノライン保険会社の急激な業績悪化により、彼等の株価は急落して株主は損失を被った。しかしより大きな影響は銀行に出ている。モノライン保険会社の格付がリスクフリーと考えられていたトリプルAから急転直下格下されたことで、彼等保証していた債券を保有していた約20の大手銀行は、70億ドルから300億ドルの範囲で償却を強いられたとムーディズは推測している。

モノライン保険が機能しなくなったことで、米国の地方債市場は麻痺してしまった。米国の地方債市場の中心をなしているのはオークション・レート証券市場(ARS)だ。これは1988年にゴールドマンが作り出した商品で、期間の長い債券(10年~30年)を地方公共団体が発行するが、金利の更新(リセット)は一週間とか一月という短い期間で行うというものだ。この債券はトリプルA格のモノライン保険会社に保証されていたので、機関投資家にとっては信用リスク・金利リスクの面でリスクが極めて低く人気が高い証券だった。

ところが、モノライン保険会社の格付が低下すると、地方債の信用リスクが問題となってくる。投資家は今までのように低金利で入札しなくなるので、地方公共団体にとっては資金調達コストが跳ね上がったり、場合によっては資金調達が出来なくなる。このオークション・レート証券には、債券が発行出来なくなった時、銀行が短期的な資金融資を行う流動性補完が付いていないので、地方債の流動性リスクが高まる訳だ。これがモノライン問題の根幹である。

この救済策として出ているには、モノライン保険会社を「地方債を保証する会社」と「よりリスクの高い債券を保証する会社」に二分割するという構想だ。これは地方債の格付悪化を阻止するという短期的な効果はあるだろうが、ストラクチャード・ファイナンスなどリスクの高い債券については将来の損失が一層拡大することになる。

例えばモノライン保険会社は企業の倒産リスクをヘッジする手段であるクレジット・デフォルト・スワップの引き受けを行っている。ところが保険会社の債務履行能力に懸念があると、デフォルト・スワップ市場は大混乱に陥る。(国際スワップ・デリバティブ協会はスワップ契約は担保で保全されているので、大きな懸念はないと主張しているが・・・)

どうしてこのようなことが起きたのだろうか?ということについてバンクオブイングランドは「米国の住宅融資市場と企業融資市場は貸出基準が近年崩壊していた」という。崩壊・・・ユルユルになっていたということだ。融資姿勢がユルユルだったのは米国だけではなく、欧州・日本も同様だ。米国で特に問題が大きくなったのは「証券化によりリスクを多数の投資家にばら撒くことができたので、より多くの融資が実行された」ことである。

ゴールドマンザックスは「一年前にサブプライム問題が発生してから、総てのタイプの融資で貸出条件が引き締められている。このインパクトは第一四半期の成長率を1.25%減少させ、第二四半期の成長率を2.5%減少させる」という見方を発表している。

モノライン保険会社を二分割して地方債市場を救済するのは、現在では最良の作戦かもしれないが、ストラクチャード債券の問題を残すことになる。結局貸出バブルで儲けた人達がその儲けを吐き出す程の損失を出さないとこの市場混乱は収まらないのだろうか?

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ご指摘ありがとうございました

2008年02月21日 | 金融

先日ブログでみずほフィナンシャルグループのLBOローンの開示に関する記事を書いたが、私の調査不足をご指摘頂くコメントを貰いました。どうもありがとうございました。正確な記事を書こうと思っておりますが、時間不足等で至らないこともあるかと思います。今後とも皆様のご意見をお待ちしております。

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貧乏は毒だ

2008年02月21日 | 社会・経済

米国大統領予備選挙で民主党はオバマ候補の勢いが増してきた。今の米国を変革したいという人々の思いが「オバマ信仰」を作り出しているのだろうか?

さて18日のニューヨーク・タイムズに著名な経済学者ポール・クルーグマンが「貧乏は毒だ」という小文を投稿していた。ポイントは次のとおりだ。

  • 週末のファイナンシャルタイムズに、幼少時の貧困は脳の発達に障害を与えるという記事があった。貧困ゆえに社会的に隔離され、それが言語、記憶能力の発達を阻害するという。
  • 第36代ジョンソン大統領は44年前に「貧困との戦い」を掲げ、貧困層の削減に努めた。彼が大統領に就任した1963年に23%を占めた貧困層は彼が大統領を辞めた1969年には14%に減少した。
  • しかしその後米国の政治は右傾化し、貧富の差が拡大し2006年には貧困層の比率は17.4%になっている。
  • 民主党候補のヒラリー氏やオバマ氏は貧困問題に対する政策を掲げている。しかし貧困対策は政策の中心問題になっていないし、対策規模も中程度のものだ。
  • もし民主党候補が選挙で勝つとすれば、それは貧困層救済策によってではなく、中間層の不安を取り除くことによって彼らの支持を得るからである。彼らの政策のプライオリティは貧困問題ではなく、ヘルスケア問題である。
  • しかし究極の課題としては、今なお多くの米国人にとって有害な貧困を終焉させる政策を取ることを希望する。

リンドン・ジョンソン大統領についてはオリバー・ストーン監督による映画「JFK」の影響もあり、ケネディ暗殺の黒幕ではないか?という疑念があり、好印象を持っていなかった。しかしジョンソンは内政については上記のように大きな功績を残している。

大統領選挙を通じて米国の社会はどのように変わっていくのだろうか?

その度合いの程は不明ながら、私は貧富の格差縮小に向かうことは間違いないと考えている。貧困は毒であり、それを撲滅することが究極の政治課題だというクルーグマン教授の主張は明快である。

望むことは米国が自国の貧困を減らす努力を世界にも向けることである。いや先進国がもう少し世界全体の貧困を減らすことに努力をすれば、色々な紛争や緊張は緩和されるのである。

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