金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

まだ続く米銀の償却損失

2008年02月20日 | 金融

サブプライムローン問題に端を発する金融の混乱がどこまで続くのか予想することは難しい。従って何時どのような方法で混乱が収まっていくのか予想することは更に難しい。
しかし震源地の米国のアナリスト達やマスコミが問題を直視して、含み損を過小評価しない姿勢を保っていることは評価して良いだろう。

19日のニューヨークタイムズ(NT)は、大手銀行の償却がまだまだ続くという見解を示している。それは評価損がサブプライムローン以外のローン、具体的にはLBOローンなどに広がっているからだ。
私は日本の金融機関全体がこれらのローンをどれ位抱えているか正確には把握していないが、数兆円のエクスポージャーを持っていると判断している。例えば「みずほグループ」を例にとると、米国証券取引委員会に提出しているForm 6-Kの中で「9月30日現在86百億円の販売用ローンを抱えていて、その大部分は米国のLBOローンである。そしてこのローンに関して240億円の引当をした」と明記している。
ところがこのような情報を日本語の資料で見つけることは出来なかった(これは私の探し方が悪いのかもしれない)
実はForm 6-Kにしろ日本語のディスクロージャーにしろ頭から読み込んでいる訳ではなく、目次や検索機能で探しているのだが、 英語の資料では比較的簡単に見つけられる。もし外人投資家には重要な情報を提供して、日本人投資家には明示的に開示していないとすると日本人投資家を舐めきった行為といわざるを得ないがどうだろうか?

私はアナリストでないので、このようなことを調べても一銭の得にもならない(既にみずほの株ではかなり含み損こそ抱えているが)ので、この辺りで調べるのは止めるが、日本の金融機関も数兆円のLBOローンを抱えていると考えて良いだろう。

本題に戻ると、NTはこのLBOローン、商業用不動産を担保にしたローン、学生ローンなどの市場価値が急激に低下していると報じている。

このことはサブプライムローンで既に1,200億ドルの償却を行っている米銀に更に償却負担がのしかかることを意味している。オッペンハイマー社のアナリストWhitney氏は、「大手金融機関は2千億ドルの企業向けローンを抱えているが、今年の第一四半期に100億ドルから140億ドルの償却を迫られるだろう」と述べている。このことは保有ローンの5%から7%の引当をするということだ。
先に紹介したみずほの引当率が2.8%程度だから、みずほも倍以上の引当を迫られる可能性がある。

UBSのアナリスト達はもっと悲観的な見方をしていて、大手銀行は最終的に1,230億ドルから2,030億ドルの追加償却を迫られると予測している。もっともこれはモノライン保険会社が破綻するという前提に立っているので、悲観的過ぎるかもしれない。

どうしてこのようなローン価格の下落が起きるのか?というとローンの最終的な投資家がいないからだ。通常のマーケットでは大手銀行はLBOローンを引き受けて、ヘッジファンドや投資信託に販売する。しかし現在はこれらの機関投資家がそっぽを向いているのだ。
このためLBOローンの価格は額面100に対して88まで下落している。これはデフォルト率が8%を越えた2002年以来始めてのことである。

現在のデフォルト率はもっと低いので、ここまでLBOローンの価格が下落することは経験に照らすとおかしいのだが、買い手がいなくてはしかたがない。

引当の結果大手銀行の資本勘定が減少すると、銀行は貸出を抑制して自己資本比率を維持しようとするので貸し渋りが起きる。
米国では住宅ローンの新規実行やクレジットカードの発行に関して、審査が格段に厳しくなっているが、これもその一環だ。

日本でも大手行が中小企業ローンから撤退するなど、中小企業向けの与信パイプが急速に細くなっている。これは銀行独自の事業判断だけではなく、監督官庁の示唆(例えば引当率を引き上げる等)が働いているとみるべきだろう。

ローンの流通市場が回復するためには、バリューファンド(割安ファンド)のような度胸のある投資家が現れて妥当な値段でローンを買うことが必要だろう。米国の金融市場の懐は深いので、いずれはそのような投資家が現れるのだが、今のところ私の目にはそれが何時なのかまでは見えてこない。

コメント (1)
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