金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米国の消費回復はスロー

2009年05月08日 | 社会・経済

エコノミスト誌は米国関連の記事を一番多く取り上げているが、やはり英国の雑誌である。今回「米国消費者は借金漬けなので、消費回復はスローで痛みを伴うだろう」という記事があり、そのタイトルはOff the trolleysだ。Trolleyはトロリーバスのトロリーでここではショッピングカートの意味だ。カートは米語で、英国ではTrolleyという(そうだ)。Off the trolleyは「ショッピングカートを離れて」という程度の意味だろう。

さて記事の概要だが「昨年後半急激に落ち込んだ個人消費は、今年の第1四半期に消費支出は上昇した。消費は再び伸びるかもしれないが、弱い所得の増加、保有資産価値の低下、信用の引き締めにより抑制されたものとなる可能性が高い」というものだ。

エコノミスト誌は米国の消費ブームを振り返る。それによると80年代初期から家計の支出はGDP成長率を上回っていた。これが米国と世界の成長エンジンであり、2006年には消費支出はGDPの76%に達していた。これは1947年以降最高のレベル。この結果家計の貯蓄は低下し、所得に対する債務金額は上昇した。ただ金利水準が低下したことから、家計の金融負担(支払利子、家賃など)は80年代と90年代には一定レンジに留まっていた。

2000年に転換点がおとずれた。所得の伸びが鈍化する中で債務は急成長を続け、所得に対する債務の割合は94%から2007年の133%に増えた。2003年から2006年にかけて、家計は二番抵当ローンと借り換えによるキャッシュアウトで2兆ドルを手に入れた。

住宅市場の暴落で今家計は逆コースをたどっている。昨年米国の家計の資産価値は18%金額にして11兆ドル減少した。この「逆資産効果」は今年の消費を2%押し下げるとマクロエコノミック社は予想している。

家計は収入と住宅価格の低下に対応するべく、借金の返済を進めると予想されるが、多くの要因が絡むので、その度合いを計量化することは困難だ。弱気のアナリストは債務比率と貯蓄率は1950年代の水準まで戻ると主張しているが、他のアナリストは2000年レベルまで戻ると十分だと判断している。

借金返済のプロセスは今後消費の伸びを所得の伸びより低く抑える。仮に債務レベルを2000年レベルまで戻すとすると、家計は3兆ドルの債務返済をする必要があるが、これはほとんど不可能だ。悲観的な見方をするBCAリサーチ社は2009年から13年の消費支出は1.3%の伸びに留まると予想している。

話は変わるが、最近米国在住の日本人の方から米紙のヘッドラインニュースの邦訳を毎日送って頂いている。その中に「景気後退を受け、アメリカ人はクレジット・カードよりデビッド・カードを選好し始めた。ビザカードは同日に行なった決算発表にて、200810-12月期のデビッド利用額が2060億ドルとなり、クレジットカード利用額を初めて追い越したと発表。取引自体も50.4%と過半数を占め、2003年の40%から上昇したという。景気後退の影響でカード会社がクレジット利用額を引き下げているほか、利用者がクレジット・カードの手数料を嫌気したためと見られる。」という記事があった。

実際今年第1四半期カード会社の勧誘メールの数は昨年の4分の1にまで減少している。

行動心理学的な分析を加えると、モノを買う時現金や預金残高が直接減るデビッド・カードで支払うとクレジット・カードで払うよりも「心理的な負担」が大きい。米国人がクレジット・カードを敬遠するとますます消費が減りそうだ。

日米の株価はこのところ急速に上昇してきたが、一歩下がって経済環境を見るとこの米国の消費支出の動向などチェックするべきことは沢山ある。

コメント
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