金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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ガイトナーと王岐山、あるいはは新しい米中関係

2009年05月21日 | 国際・政治

ニューヨーク・タイムズに「米国のガイトナー財務長官と中国の王岐山副総理が定期的に電話で会話を行っている」という記事があった。ガイトナーへのインタビュワーで記事の書き手のLeonhardt氏はガイトナーに「あなたの中国語力は通訳を必要としない程十分なものですか?」と質問すると、ガイトナーは笑いながら「私が中国語を教えていたのは随分昔のことですよ」と答えた。

ティモシー・ガイトナー、父の仕事の関係でタイに暮らしていた彼はダートマス大学に入学して、中国語を学ぶ。彼は後に政治学とアジア学を専攻するかたわら、お小遣いを稼ぐために北京語基礎クラスで講義を行っていたという。

オバマ大統領がガイトナーを財務長官に任命した理由については主に彼の財政手腕を見込んでのことだ。だが中国にファイナンスを依存する米国として、困難な時期に彼を任命した理由の中には彼の中国語力があるかもしれない。「消防士」のあだ名を持つ王岐山とガイトナーは高級エコノミストで実用主義者という共通点を持つ。

ニューヨーク・タイムズによるとガイトナーと王の話題は両国間の貿易や消費の不均衡問題ではなく、両国が世界経済を刺激するために何をしてきているか?ということだ。現在米国の対中政策について、ニューヨーク・タイムズは「魅力攻撃」Charm offensiveの一種だと説明する。これは相手の嫌がるところを攻めずに実益を引き出す戦術と考えてよい。実際米国財務省は4月の年次報告で「中国は為替操作を行っていない」と結論付けた。

一方中国は米国に対して攻撃的な姿勢を取っているかのように見える。だがこれは沿岸部工業地帯に数千万人の失業者を抱える中国政府が国民感情の矛先をかわすためにはーオポジションを取っている部分が多い。

このような背景を踏まえて、ニューヨーク・タイムズの別の記事を読んでみた。記事は「中国はドル資産の個別選択性を高める」という内容だ。

記事によると、2年弱前まで中国政府は新発市場と流通市場を合わせると米国政府が起債する以上の米国債を購入してきた。しかし金融危機対策等で米国債の発行額が増えたことや、米国民を含む世界中の投資家が米国債購入に動き出したことで、3月までの1年間では中国政府の米国債購入額は新発債の6分の1以下になっている。

両国政府の統計を見ると、中国政府はニューマネーを投入しないで米国債の保有高を増やしている。これは中国政府がファニーメイなどを売却して国債を購入している可能性を示唆しいている。また中国政府は長期債から短期国債へシフトを強めている。これは中国政府が米国に国債増発でインフレが起きることを懸念していると解されている。

また中国政府の動きの中で目立つものは、輸出でドルを稼いだ民間企業に海外投資を容易にするべく法改正を行いつつあることだ。中国企業による海外投資が加速する可能性があるだろう。

ガイトナーと王岐山が本当のところ何を話しているかは分からない。しかし二人の経済通がドルの暴落を避けつつ、貿易と消費のアンバランスを解消する方法を模索しているとすれば歓迎するべきことだろう。もっともこの経済危機の後、米国と中国の力が高まるとともに親密さが増すことを日本が手放しで喜ぶべきかどうかは別問題だが。

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