今日(5月22日)の日経新聞朝刊に「世帯所得19年ぶり低水準」という記事が一面に出ていた。内容は次のとおりだ。
- 厚生労働省が21日に発表した国民生活基礎調査によると、2007年の一世帯あたり平均所得は前年比1.9%減の556.2万円。これは1988年以来19年ぶりの低水準。
- コスト削減を目的にした企業が非正規社員の比重を増やしたことで所得水準が低下。
- 高齢者の単身世帯の増加も世帯あたりの平均値を押し下げた。
- 所得額別に世帯割合を診ると、年間300万円-400万円未満が13%で最大。平均所得額を下回った割合は約6割を占めた。
この中の「コスト削減を目的にした企業が非正規社員の比重を増やしたことで所得水準が低下」という部分に注目してみる。5月20日のニューヨーク・タイムズに「日本では雇用確保にコストがかかる」と記事があった。その中で同紙は雇用確保の問題点を指摘している。ポイントは次のとおりだ。
- 今週発表された第一四半期GDPは年率換算15.2%の減少と1955年以降最悪の数字。しかし日本では米国や欧州に較べると失業者は少ない。日本の4月の失業率は4.8%、米国・欧州は8.9%。
- これは日本では「終身雇用」が生きていることと政府補助が大きな役割を果たしている。景気が悪化した場合会社は最初にバッファーを取り除く。
バッファーの説明はないが、社交費・出張旅費などの営業経費などと考えてよいだろう。私の会社もそうであるが、読者諸氏の会社でも「出張を電話会議に代えよう」などという通達が出ているのではないかと思う。
- 次に日本の会社では派遣社員を減らし、残業を減らし、ボーナスを減らす。そしてサプライヤーを締め付ける。日本の会社は雇用に手を付ける前にあらゆる手段を講じる。
- 日本の大企業で正社員のレイオフを考えているところはない。これは韓国企業の39%がレイオフを考えていることと較べると対照的。
- 正社員の雇用確保に政府助成金が果たす役割は大きい。会社は時短を行うことはできるが、法律で時間あたり賃金の6割は支払わなければならない。政府はその半分を支援してくれる。3月に約4万8千社が238万人の雇用者のために助成金を求めた。政府は今年600億円の予算措置を行っている。専門家によるとこの政府助成金がないと日本の失業率は2%上昇するという。
ここでニューヨーク・タイムズは日本総研の山田氏の言葉を引用して問題点を指摘する。「余剰人員の雇用を続けることは、競争力を失った会社の延命を続けるというリスクを抱える。これは長期的には雇用を傷つける可能性がある。必要なことはより構造的な改革である」
企業は正社員の雇用義務があるので、正社員を減らし、賃金が低く福利厚生面でも劣り解雇しやすい臨時社員を増やす行動を取ってきている。その結果これら臨時社員の比率は労働力の3分の1を占めるに至っている。
この結果日経新聞が報じたように世帯所得が大きく下落した。所得の減少は消費の低迷を招き企業売上は下落する。売上が下落するので、企業は新卒者など若年層を正社員で採用することをためらう。その結果派遣社員が増えて、所得水準が下がるという悪循環。
付け加えるならば、政府の助成金は税収でまかなわれる。しかし財政赤字の折、これは国債という形で次世代の借金に繰り越される。今のような状態が続くと若年層の可処分所得は低下傾向を続ける。
ニューヨーク・タイムズは「日本の企業は今回に景気悪化局面でほとんど正社員の解雇を行っていない。しかし大量のレイオフは切迫しているが、求められる程の早さでは起きないだろう」というアナリスト・ウエインベルグ氏の言葉で記事を締めくくっている。
正社員の解雇が正しい解決策かどうかは難しい議論だ。
だがやがて景気が回復するにせよ、日本の労働者は中国やインドの労働者と持続的に労働市場で競争していかねばならないという厳しい現実は直視せねばなるまい。日本企業の労働生産性を高めていくしか解決策はないのである。もしレイオフやゾンビ企業の淘汰が国民経済上不可避であれば、タブー視することは問題の悪化を招くことになる。