月の後半になると気が重くなる時がある。何故かというと毎月寄稿している小雑誌に書くテーマが決まらないことがあるからだ。経済・金融面で不確実な状況が続く中、雑誌が発行される時期でも風化しないテーマを書くことは時として気が重い話である。また不景気の中取り上げるテーマが暗いことも気分を重くする。
今月は余り得意分野ではないが、失業率の問題を取り上げることにした。具体的には失業率とセーフティ・ネットの問題および失業率と長期的な競争力の問題について若干の考察をすることにした。
話の一つのスタート点は米国とEUの失業率がほぼ拮抗してきたことにある。90年代の中頃米国の失業率が5%だった時EUの失業率は10%だった。2000年代に入って両地域の失業率の差は縮小して2-3%程度になっていた。ところが08年以降米国の失業率が急上昇して両者の差は縮まり、今年の3月には両者は8.5%で並んでしまった。
ニューヨーク・タイムズは「長年米国の失業率がEU諸国よりも低い理由は米国の雇用システムは柔軟で、EU諸国よりも従業員の採用・解雇面で容易だからより多くの雇用を創出してきたという主張がある。しかしもはやこの議論は成り立たないだろう」と述べている。
4月の米国の失業率は8.9%になった。EU諸国の失業率は集計中だが、米国の失業率がEU諸国を上回る可能性が高い。これはEurostatという調査機関が1993年にデータ収集を開始して以来始めてのことだ(失業統計は国によって定義が異なるため、比較データを作りには調査機関による調整が必要)。
米国男性の失業率は昨年12月に既にEUのそれを上回っていた。EUでは男性の失業率が8.4%女性のそれは8.5%とほとんど差がないが、米国(3月の統計)では男性の失業率が9.5%で女性の失業率は7.5%である。
景気後退局面でEUの失業率が米国のように急上昇しない理由はEUは時短手当などのセーフティネットが充実しているからだ。もっとも景気悪化が持続するとEU諸国の政府補助にも限界が出てくると思われる。もう一つの理由は多くのEU諸国は米国のような好景気を経験しなかったので、その反動としての雇用調整が少ないとニューヨーク・タイムズは説明する。
過去の景気下降局面で米国の失業率が大幅に上昇しなかった理由の一つは、人々が景気の悪い地域から景気の良い地域へ新しい仕事を求めて移動することで、産業構造の変化に対応することができた。しかし今回の景気下降局面では住宅価格の下落が激しいので、住宅ローンやホームエクイティローンを抱える人々は自宅の処分ができず、労働力の流動性が落ちていることが指摘されている。
ということは米国の柔軟な雇用システムを下支えしたのは、右肩上がりが持続した住宅市場ということができるだろう。
ところで日本の失業率は4.8%で、米国やEU諸国の平均の約半分だ。日本の低失業率は時短手当など政府補助金に支えられるところが大きくもし補助金がないと失業率は2%上昇するといわれている。
政府補助金が競争力の低下した非効率な業種の存続を可能にするので、国民経済上好ましくないという議論があるが、これについては後日検討しよう。
EU諸国で日本より失業率が低いのはオランダだ。オランダの労働慣行についてちょっと調べたところ、新卒者がすぐに正規雇用されることはまずないよいうことだ。新卒者は大体期間1年の臨時雇用からスタートする。これがオランダの低失業率につながっているかどうかは不明である。しかし「日本で正規雇用者の解雇が難しいことから派遣社員が増え、その結果勤労世帯の所得低下が起きている」とすると、雇用慣行のフレキシビリティを高めるような議論がなされても良いと思われる。
だが米国の失業率が急上昇している中、このような議論が多くの支援者を得ることは難しいだろう。取りとめのない話になったが、2,3日後には自分の考えがもう少し煮詰まることを期待している。