クオリティ・ペーパーつまり信頼できる新聞で「北朝鮮の崩壊は遠くない」などと明言している新聞はない。従って「北朝鮮の崩壊は遠くない」というのは私、一市井のアナリストの極めて主観的な予想である。
「あること」というのは、先月突然の爆発で沈んだ韓国の哨戒艦・天安が北朝鮮の魚雷により爆破されたという明確な証拠がでることだ。韓国の金国防相は25日記者団に「魚雷(爆発)による気泡が(原因として)最も近いと考えているが、ほかの方法も調査し検討中だ」(日経新聞)と述べている。
今のところ韓国政府は北朝鮮が犯人だという確証を見つけていないかあるいは見つけていても公表を控えているかのどちらかだと考えるのが妥当だろう。何故「見つけていても公表を控えている」可能性があるのか?というと「北朝鮮が犯人だ」と公表すると何らかの制裁を行う必要があるからだ。何らかの制裁を行わないと韓国世論が納得しないだろうし、G20を今秋に控え国際世論の支持も得難いだろう。
「見つけていても公表を控えている」と仮定すると、韓国政府は米国と場合によっては中国を含めて、経済制裁の効力とその結果について協議を行っていると考えることができる。過去の例から見て、中国が参加しない経済制裁の効果には限界がある。中国は北朝鮮を米中対立の緩衝地帯と見ているので、北朝鮮への経済制裁に消極的であった。しかしもし天安爆発が北朝鮮の攻撃によることがはっきりすると、中国も経済制裁に参加せざるを得ないのではないか?と私は見ている。そして中国の経済制裁が加わると北朝鮮の金正日政権は崩壊すると私は見ている。
中国が北朝鮮を見捨てるかどうかは、中国が「北朝鮮という緩衝地域なくして米国と対峙できる」と判断するかどうかにかかっていると私は見ている。中国としては北朝鮮を緩衝地帯として確保したいところだが、金政権の自壊が視野に入る場合は別の対応を選択せざるを得ないだろう。
金正日の話題で頭に浮かぶのは、健康状態と後継者問題だ。後継者に一番近いと言われているのが三男の金正運だ。彼は謎の人物で北朝鮮以外では11歳の時の写真しか知られていない。ただニューヨーク・タイムズが報じるところでは、先月北朝鮮の新聞に金正日が正雲らしい男を連れてスチール・プラントを見学した写真が掲載されたということだ。写真の人物が正雲とすると、金正日は三男を後継者としてアピールするため公の場に連れ出したということになる。
ところで天安爆破の真犯人を北朝鮮だと仮定すると、その動機は何か?ということが問題になる。昨年の遭遇事件による死者2名に対する報復だとする考え方もあるようだが、私は「金正日の後継者選びに関する軍部への譲歩(韓国に対する軍部のハードポジションを容認)」か「金正日の健康悪化等による統制力の乱れを付いた軍部の独走」ではないかと考えている。
現在の北朝鮮の食糧・エネルギー事情が極めて悪いことは周知の通りだが、注目しておいて良いことは、インターネットの普及などでかなりの国民が外国の良い暮らしぶりを知っているということだ。
北朝鮮が昨年突然実施したデノミネーションも失敗で国民の金政権に対する不満が高まっているという見方も出ている。
話を整理すると「韓国側は対応策が固まってきたところで北朝鮮に対する諸国協調の経済制裁を行う」「中国も参加する経済制裁に北朝鮮は猛反発する」「しかし北朝鮮が下手に出て、原爆の完全放棄などを誓わない限り経済制裁は続く」「北朝鮮政府が前面降伏をしようとすると軍部の猛反対が起きる」「軍部の意向を尊重すると制裁が続き、一般市民からの反発が強まる」「いずれの経路を辿っても金政権は非常な困難を避けることができない」
また北朝鮮の武力示威の背景が不安定な後継者問題にあるとすれば、金正日の健康状態の悪化が進んでいると考えることができる。近い将来、彼に万一のことがある場合、政権禅譲の準備が進んでいないので、『金王朝』は崩壊する」と私は考えている。
私の推測を荒唐無稽と判断されるか、ある程度の蓋然性のある話と受け止められるかは皆様次第である。ただ私はこのようなリスクを抱えた隣国があることを日本人は少しシリアスに考えた方が良いと私は思うが如何なものだろうか?