金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

経済政策を対症療法から原因療法へ

2010年06月08日 | 社会・経済

昨今のマーケットを見ていると振幅が激しい。より正確にいうと良いニュースへの反応は小さく悪いニュースへの反応は非常に大きい。何故こういう状態が続くのかをいうことを暫く考えていた。「悪いニュースへの過敏な反応は弱気相場の典型だ」といってしまえばそれまでだが、投資家特に短期的な利益を狙う投資家が景気の回復を先取りしようとして、ポジションを作り、その期待が裏切られそうになると慌ててポジションの解消するため振幅が大きくなっているのだろうと私は解釈している。一部の投資家は経済の特効薬を求め過ぎている。

この他にも幾つかの原因が考えられる。その一つは世の中で「信頼できるもの」が少なくなったことがあげられるだろう。例えば少し前まで「ビッグスリー」という言葉があった。ビッグスリーでまず思い出すのはアメリカの三大自動車メーカーだが、これは金融危機と前後して消滅した。また格付機関にもムーディーズ、S&Pそしてかなり小さいがフィッチという3大格付機関が存在する。こちらは存続しているが人々の信頼は相当薄くなったのではないだろうか?

産業界においても絶対的な強者というものは少なくなってきた。IT業界を例に取ると業界の巨人と呼ばれたマイクロソフトは時価総額でアップルに凌駕され、OSのデファクトスタンダードだったウインドウズにもマックのOSやリナックスあるいはアンドロイドのようなライバルが登場している。

政治の世界でも人々の信頼は揺らいでいる。先進国の政権与党は概ね支持率の低下に悩んでいる。支持率の回復を狙って人気取り的な政策を遂行してきたが今そのツケを払う局面を迎えている。

例えばリーマンショック後先進国も中国など発展途上国も財政支出を拡大して景気刺激策に走った。だが「ない袖」は何時までも振れるものではない。ギリシアなど財政基盤と資金調達基盤の弱い国を中心にソブリン債務の問題が表面化し、二番底のリスクさえささやかれ始めている。これに対しドイツは緊縮財政に舵を切り始めた。

このような状況を見て「短期的な景気刺激策も緊縮財政策もどちらも間違いなのだ」と警告を発している学者のエッセーを読み、私はかなり共感するところがあったので少しその話をしてみたい。

著者はコロンビア大学のJeffrey Sachs氏でファイナンシャル・タイムズにTime to plan for post-Keynesian eraという投稿をしている。

その中の印象に残る部分を紹介しよう。「政府は経済政策で短期的に質の高い仕事を創出することはほとんどできないことを説明するべきだし国民はそのことを学ぶべきである」「良い仕事は良い教育、先端的な技術、信頼できるインフラと適切な民間資本投資の結果である。それは長年にわたる政府と民間の投資の結果なのである」「経済再生の合言葉は景気刺激よりも投資でなくてはならない」

このエッセーで「対症療法」とか「原因療法」という言葉は使われていないが、私には二つの治療方法がアナロジーとして浮かんだ。対症療法とは例えば血圧の高い人に降圧剤を処方するような治療方法で、原因療法とは高血圧の原因になっている食事の問題や運動不足などから改善を図る治療方法だ。

ところが現在の日本では原因療法を真面目に指導してくれる医者は少ない。何故なら原因療法は時間がかかる上お金になりにくいからである。

このアナロジーを経済問題に適応してみよう。緩い規制とリスクへの慢心あるいは財政赤字による社会保障などは、謂わば運動不足と暴飲暴食で肥満になり高脂血症などになった状態だ。これに対する対症療法は「財政赤字拡大覚悟の景気刺激策」だが、この刺激策はどうも高脂血症の対症療法(例えばメバロチンの服用)よりも副作用が激烈だ。

そこでこんどは過激なダイエット療法を取ることにした。これはドイツ流の緊縮財政政策。ところが体力のある人にとって適度なダイエット療法は有効だが、下手をすると自分の筋肉まで消費し体を壊してしまうリスクがある。つまり適度な運動と漸進的な食事療法を行わないといけないのだ。

私にはSachs氏は「筋肉強化を伴う適度な食事療法を薦めている」と思われる。これはまさに正論なのだが、問題は原因療法が日本の医者にとってお金にならないように、経済の原因療法は政治家にとって票にならないのではないかという点だ。

だが今政治家や識者と呼ばれる人は原因療法の必要性を説く必要があるだろう。対症療法だけを続けると体は常により強い薬を求めるようになるそうだ。そしてより強い薬はより強い副作用で体を蝕むからである。

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メルケル首相、赤字削減策を発表

2010年06月08日 | 国際・政治

昨日(6月8日)ドイツのメルケル首相は800億ユーロを越える財政緊縮策を発表したとFTは報じている。

今欧州の財政に関する記事を読むと目に付くのが、Austerityという言葉だ。質素(な生活)とか緊縮財政を意味する単語だが、数ヶ月前までは余り目にすることがなかった。ALCの英和辞書を見るとレベルが「11」になっている。これは1が一番良く使われる平易な単語を意味し、点数が増えるほど難しい単語ということを意味する。12点が一番難しいレベルだから11点は相当レベルの高い単語だ。http://www.alc.co.jp/eng/vocab/svl/index.html

だがこれだけ「緊縮財政」が話題になるとその内Autterityのレベルも下がるかもしれない。

余談はさておき、4年にわたる財政緊縮策は連立政権内で2日間集中的に議論されて承認された。それによると2016年までに構造的な財政赤字をGDPの0.35%に抑えるというものだ。

支出削減は初年度が111億ユーロ、2012年が161億ユーロ、2013年が257億ユーロ、2014年が324億ユーロとどんどん増えていく。

2011年については社会保障費を50億ユーロ、公共団体の費用を30億ユーロ削減する。公共団体の費用削減の中には公務員1万5千人の削減が含まれている。

この財政緊縮計画では所得税の引き上げと年金給付の切り下げはぎりぎりのところで見送られ、社会保障費と失業者への給付が切り下げられた。

特に失業者の補助金交付審査のための家計収入調査(means-testという。この言葉もこれから頻繁に使われるだろう)の導入や親が失業している子供への子供手当て見直しや失業者の年金拠出補助の削減が注目されるところだ。

この緊縮財政案に対してドイツ社会民主党のガブリエル党首は「最貧層の負担を増やすもの」と直ちに非難を行った。

メルケル首相は「他のEUメンバー国や米国政府がドイツに現在の景気回復を維持するため支出を増やし、貿易黒字を削減することを求め続けている」ことを認めながらも、現在の景気刺激政策から緊縮財政策へ転換することは合理的で必要なことだと主張している。

「空の旅」に対する税金や原子力発電所に対する税金が導入される見通しだ。また金融取引に対するなんらかの課税も検討されているが、メルケル首相は世界レベルで金融取引課税が認めれる可能性が少ないことは認めている。

またメルケル首相は徴兵制度の廃止決定は延期されているが、ドイツ連邦軍は支出削減のため根本的な見直しを迫られるだろうと述べている。

☆      ☆     ☆

ドイツが緊縮財政プランを具体化させつつあることは周りの国に色々な影響を及ぼす。まずドイツを中心にユーロ圏の経済成長率は低いレベルで推移すると考えるのだ妥当だ。それでもドイツのように産業基盤がしっかりしていて輸出競争力のある国は持続的なユーロ安に助けられて景気と雇用の維持が可能かもしれない。しかし競争力の弱い南欧諸国にとってドイツが緊縮政策を取ることは痛手でそれらの国の景気回復と財政再建は大きく遅れるのではないか?

一方Austarityについてドイツが一つの見本を示したことで、投資家は財政規律の緩んだ国に赤字削減の具体策を求めるようになるだろう。

日本では菅政権が発足したところだが、財政再建の具体策策定についてピッチを上げる必要があるだろう。鳩山政権時代に一律的な子供手当ての導入などバラマキ政策を取った民主党もそのようなことで国民の支持率を維持することができないということは分かったはずだ。財源を増やしながら、社会保障支出は本当に必要とする人に絞り込んで行うという政策転換が今求められているのだ。

Austerityは日本の政治家・官僚の辞書の中でも必須単語にするべきだろう。

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二つの「同期」に取り組んだ週末

2010年06月08日 | うんちく・小ネタ

自分がマメな人間であるかどうかは分からない。だが時々山登りの会の幹事などを任せられるので他人は僕のことをマメと見ているのかもしれない。あるいは便利なので上手いことを言って僕に仕事を押し付けているのかもしれないが。

さて幹事といえば高校の同期会の幹事を引き受けてしまった。もっともこれは複数の人でやるのでそれ程の手間はかからない。またパソコンやインターネットの力を借りると簡単に済むことも多い。例えば検索エンジンに「同期会 案内状」と入力すると案内状の見本が出てくるので文案を練る手間もない。また幹事のメールアドレスをグループ化しておくと、ワンクリックで複数のあて先に一度にメールを発信できるので連絡の手間も知れたものである。

とにかくこれが第一の「同期」だ。

次の「同期」はパソコンと携帯電話(スマートフォン)のスケジュール管理の「同期」だ。会社のパソコンやネットワークはマイクロソフトのアウトルックをベースにしている。アウトルックの予定表を共有することでお互いのスケジュールをチェックしたり、会議予定などをメール経由で自動的に書き込むことができるから慣れると便利なツールだ。

だが会社のアウトルックとスマートフォンのスケジュール管理機能はリンクしていない。これをリンクさせることをシステム用語で「同期をとる」というそうだ。スマートフォンのスケジュール機能はグーグルをベースにしているので、解決策はアウトルックとグーグルカレンダーの同期を取るということである。

検索エンジンに「グーグル アウトルック 同期」と入力して調べていくと、グーグルが「Google Calendar Sync」というアプリケーションを作っていることがわかった。Google Calendar Sync: Getting Started

これをダウンロードすると簡単にアウトルックとグーグルカレンダーの同期を取ることができた。つまりアウトルックに新しいスケジュールを書き込むとグーグルのカレンダーも自動的に更新される(10分程度の時間差はある)。また逆も同じように自動的に更新される(一方通行つまりアウトルックの更新だけをグーグルに反映させ、グーグルの更新はアウトルックに反映しないというような設定も可能)

これで会社の予定表・スマートフォンの予定表・自宅のPCの予定表が同期をとって更新されるようになった。これでスケジュール管理の問題はなくなった。

問題があるとすればそれ程先進的なスケジュール管理をしなければならない程忙しくない・・・ということかもしれない。

ともかく二つの「同期」に取り組んだ週末だった。

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