エコノミスト誌はDouble-dip dramaというタイトルで米国住宅市場の回復の遅さが二番底のリスクを想起させていると報じていた。
ケース・シラー指数は昨年の底から5ヶ月上昇したものの、その後半年間は下落を続けている。5月の新規住宅販売数は4月に較べて33%の減少。これは住宅バブル崩壊後最悪の下落幅に近い。
これに対し政府は、デフォルトを避けるため銀行に対して返済が困難な住宅ローン借入について条件変更することを後押ししている。また連銀は住宅ローン証券を購入することで金利の引き下げを図っているし、議会は新規物件取得者に税金優遇措置を講じている。
だが期待した効果は上がっていない。住宅ローンの条件変更について、インセンティブはあるものの銀行は実施を見合わせている。それは余りにも多くの借入人が後でデフォルトを起こすからである。政府の計画では3百万から4百万件のローンが条件緩和される予定だったが、実際にはその1割程度の40万件程度が実施されたに過ぎない。
問題はネガティブ・エクイティ(住宅価格が住宅ローン借入額を下回っている状態)であるとエコノミスト誌は指摘する。ネガティブ・エクイティの場合、失業した債務者にはデフォルト以外の選択肢はない。また実際には払うことができても、ネガティブ・エクイティの場合、ローン弁済を続けずに自宅から退去する人の数が増えている(米国の場合、住宅ローンは事実上ノンリコースなので、自宅を代物弁済すると残債務を帳消しにできる場合が多い)。
これらの結果担保流れ住宅が確実に増えている。過去15ヶ月間毎月15万件以上のペースで担保流れ住宅が出ていて、これを処分して正常状態に戻るのに8年以上かかると推測する人がいる。
エコノミスト誌は「持続的な住宅市場の改善は金利水準などより雇用の伸びに依存する割合がはるかに大きい」ことをハーバード大学の新しい研究が示したと報じている。
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日本でも金融円滑化法の施行により住宅ローンの返済条件緩和の申し込みは増えている。私の前の同僚で返済緩和の窓口を担当している人の話によると、申し込みについて極力応じる方針で対応(金利を減免せずに返済額を抑制するため、返済期限が長くなるケースが大半のようだ)ということだった。
日本でもネガティブ・エクイティの状態に陥っている人は多いと思うが、住宅ローンがノンリコースでない日本の場合、それが理由でデフォルトや代物弁済が急増することはない。このことは金融業の業績安定には貢献しているが、ネガティブ・エクイティの状態では住宅の買換えが進まず、住宅市場が低迷するという点では米国と同様だ。