福島原発事故に関して、何とも歯切れの悪いのが放射能漏れが人体に与える影響に関する政府のコメントだ。「どうして安全だとか危険だとかはっきり言えないのか?」と疑問を感じている人も多いと思う。私もその一人だったが、ニューヨーク・タイムズのRadiation is everywhere,but how to rate harm?という記事を読んでその疑問に一つの回答を得たので紹介したいと思う。
まず結論からいうと、放射線被曝による人体への影響予想は、広島と長崎で原爆被爆後生存した20万人(タイムズによると4割以上が生存中)に関する研究をベースに行なわれている。この問題を研究しているDouple博士は「原爆の被爆者は全身に一度に放射線を被曝するが、原発事故による被曝は全身の被曝ではなく、水中や空気中の放射性物質を少しづづ吸収するものである。この少量被曝によるリスクを原爆による大量被曝の延長で推定して良いかどうか疑問が残る」と述べる。
米国では放射線の被曝量の単位としてレムremを使う(1ミリシーベルト=0.1レムである)。
米国環境保護庁によると、人間は自然バックグラウンドから毎年0.3レム(3ミリシーベルト)の放射線を受けている。もし一万人がこれに加えて、1レム(10ミリシーベルト)の放射線を生涯受け続けると、環境保護庁は5ないし6のガンによる超過死亡を引き起こすという。一万人のグループでは通常約2千人が放射線が原因でないガンで死ぬだろうが、それに加えて5,6人が放射線が原因のガンで死ぬという意味だ。
放射線は確かにガンを引き起こすリスクを高める。しかしそのリスクは一般に予想されるより低いと前述のDouple博士は述べる。
原爆被爆者の中に最初に出現するガンは白血病で、一つの研究対象グループの12万人の内219人が1950年から2002年の間に白血病で死亡している。しかしその内98名つまり45%だけが、放射線被曝により白血病で死亡した「超過死亡」である。
ただし被曝量と白血病の関係を見るとリスクは被曝量と相関していることは明らかだ。100レム以上の一番高い被曝量を受けた人の86%は放射線による白血病で死亡した。これに較べて10レムから50レムの被爆者の白血病による死亡率は36%で、0.5レムから10レムの被爆者の死亡率は5%に過ぎない。
10万人の研究対象者について、肺がんなどの固形ガンで死亡した人は7,851名だった。この内放射線によりガンになったと推定される人は850名11%だった。
Douple博士は被曝量が極めて少なくなると、ガンにかかるリスクも極めて低くなる。しかしこれ以下なら安全という「閾(いき)値」はないという。もっともこれには反対意見を述べる人もいるようだ。
いずれにせよ、少量の放射線被曝が人体にどのような影響を与えるかは、前例が極めて少ない領域なので、専門家の間でも一致した見解が出ていないところがあるということだ。例えば福島原発から400mの地点では1時間当り0.1レム(1シ-ベルト)の放射線が観測され、研究者達は4日間その被曝を受けるとガンのリスクが高まるという点で一致しているが、幾人かの人はもっと短い時間の被曝でもガンのリスクが高まるだろうと主張している。
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福島原発事故以降、各地で放射線の量は増えていることが観測されるが、それでも中国の都市で観測された放射線量より低いそうだ。何故中国の放射線量が多いかというと、核実験の影響だという説がある。
摂取しないことに越したことはない放射性物質。これ以下なら安全という閾値がないことに不安を感じるか、安堵を感じるかは受け手のものの考え方によるだろう。