金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ニューヨーク・タイムズがユーロ崩壊危機を簡単に解説

2011年12月01日 | 金融

ニューヨーク・タイムズが一般の読者を想定して「ユーロ崩壊危機」を簡単に解説していた。題はEurope's Finacial Crisis, in plain English。直訳すると「欧州金融危機」だが、一部の国の通貨離脱問題に焦点をあてて紹介するので、掲題とした次第。書き手はポッドキャストのライターだが、ニューヨークタイムズが通貨崩壊リスクをどう見ているか?がうかがえて興味深い。

最初にずばっと切り出した想定質問が「ユーロは生き残るか?」というもの。

記事は「これは大声でたずねるには危険な質問だ」と書き出す。「何故なら、もしギリシャ政府がこの上厳しい条件の救済パッケージを受け入れるより、ユーロ離脱を画策しているという確かな噂がギリシャ国内に広がれば、平価切下げを懸念して同国の預金者は預金をドイツの銀行のような安全性の高い銀行にシフトし、ギリシャの銀行システムは崩壊するだろう」と解説する。

そして「ギリシャの経済は小さいので、ギリシャが崩壊しても欧州大陸全体に大きなダメージを与えることはない。そしてギリシャに加えてアイルランド、ポルトガルが崩壊しても、欧州が倒れることはないだろう」と続ける。「懸念はギリシャの銀行取付騒ぎがスペインや更に悪い場合はイタリアに広がるかどうかという点だ。そうなれば欧州の金融システムは転覆する。」「恐らくそれゆえにユーロの協定はある国がユーロを放棄(離脱)することに減給していないのだろ。また欧州の指導者達は危機が始まって2年になるが、今年の秋まで(少なくとも公には)ユーロ離脱の可能性についてほとんど言及することがなかった」

ユーロ離脱が恐ろしいことだとすれば、何故誰かが離脱しようとするのだろうか?

記事は「総て悪いことばかりじゃない」と書き出す。「ユーロ離脱により、その国は他の欧州諸国のリーダーの要求を無視することができるだろう。そして単純に債務の弁済を拒絶するだろう。短期間の苦痛の後、欧州のじゃくしょう国は長期にわたる利益を得る可能性がある。ギリシャやポルトガルが、各々ドラクマやエスクードに戻ると、貨幣価値が落ちるので輸出コストは落ち、外国からの観光客を増やすことができるだろう。離脱しないと次の10年間、一つの裕福な国(ドイツのこと)に縛られて貧困を続けることになる」

危機克服に対して欧州連合にはどのような選択肢があるか?

記事が示すのは2つの選択肢。オプション1は「ユーロを維持し、ユーロ圏の統合を一層高める。このことは全面的に「欧州合衆国」になることを必ずしも求めないが、個々の国はブラッセルかフランクフルトの官僚に国家の歳出権を委ねることになるだろう。欧州中銀はパニックを止めるために、必要なことは何でもすると約束するだろう。一方より貧しい国々は賃金の下落を含めて、数年にわたる困難な経済調整を耐え忍ぶことになる可能性が非常に高い」

オプション2は「問題を抱えるギリシャと幾つかの周辺国がユーロを去るというもの。ギリシャの離脱は欧州の夢に強い挫折感を与えるかもしれないが、必ずしも致命的ではないだろう。恐らくそれにより、欧州の指導者達は残りのユーロ圏を守るためにより強い動きを取ることができるだろう。しかしイタリアが離脱するとなると話は違う。イタリアの離脱はユーロ圏全体の貿易や金融システムの大混乱を引き起こすだろう」

☆   ☆   ☆

以上のQ&Aを読むとニューヨーク・タイムズは「ギリシャと他の幾つかの国をユーロから離脱させてスペイン・イタリアを含む残りのユーロ圏を守れ」と主張しているように見える。

ひょっとするとそのようなarrangementが水面下で進められているかもしれない。だがQ&Aにあったように、ある国の離脱の情報が広まると巨大な資金シフトが起こり、それが銀行システムを麻痺させる可能性が高い。とすれば密かに準備を進めて一気呵成に断行するしかないのである。敵を欺くにはまず味方を欺くようなことが起きているのだろうか?

中々興味深い問題である。

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日米欧中銀の協調もバンドエイドか?

2011年12月01日 | 株式

昨日(11月30日)日米欧の主要中央銀行は市場にドル資金の供給を拡大する協調対応で合意した。株式市場は素直に好感し、S&P500は4.3%上昇した。日本株も今日(12月1日)2.4%程上昇している。米国株の上昇幅は09年3月23日以降最大だ。

だがこのラリーも長続きしないのじゃないか?という疑心暗鬼の声が聞こえる。

ニューヨークタイムズは「08年の年末から4%を超える株価の急上昇が8回あったが、同じ幅の下落が10回起きている。今回は違うと言えるのか?」と懸念を示す。

米国株で上昇が目立ったのは金融株で、モルガンスタンレーは11%以上も上昇した。

ニューヨークタイムズは明言していないが、昨今の株価の急落と急上昇(たとえばバンカメの株は一昨日3%以上下落して、昨日は7.3%上昇した)を見ると、空売りを含めて投機筋の荒っぽい動きが透けて見える。

中央銀行が協調策をアナウンスして市場をなだめている間に、来月9日に予定されている欧州首脳会議に向けて、欧州諸国は具体的で力強いソブリンリスク対策を打ち出せるだろうか?

「これは欧州債務危機を解決するための時間稼ぎなんだ。基本的にはバンドエイドである」とLPLフィナンシャルのチーフインベストメントオフィサーのWhite氏は述べている(タイムズ)。

バンドエイドでは治療できないのが今回の欧州の債務危機。出血を一時的に止めている間に痛みを伴う外科手術ができるかどうかにかかっている。

抜本的対策が打ち出されない時の市場の失望は大きいだろう。

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