会社の新しい山仲間など雪山登山未経験者から「雪山に必要な装備は何ですか?」と聞かれることがある。個別に答えることは時間的な限界があるので、ブログにまとめてみた。最初に言いたいことは雪山と一言に言っても千差万別だということだ。また同じ山に同じ時期に登ったとしても雪山の状況は千差万別である。経験は重要だが時として先入見をもたらす危険があるということを最初にお断りしておきたい。
さて雪山と一口に言ってもかなり幅が広い。ここでは大雑把に次のように分けてみた。
登山のレベル・装備 | ウエア | 靴 | アイゼン |
---|---|---|---|
奥多摩・奥武蔵程度の雪山 | 速乾性下着・防風上着 | スリーシーズン | 4本爪または六本爪 |
北八ヶ岳程度の雪山 | 速乾性下着・防風防水上着 | スリーシーズン | 六本爪以上 |
赤岳クラスの急斜面の雪山 | 速乾性下着・本格アウター | ハードシェルの冬靴 | 十二本爪 |
上の表では大雑把に「登山対象の雪山」を分類してみた。最初の奥多摩クラスの雪山は「1~3月にかけて50cm未満程度の雪が積もることがある」という雪山だ。次の北八ヶ岳クラスの雪山は岩場がなく、1m前後の雪が降るが、概ね踏み跡がはっきりしている」という雪山だ。最後の八ヶ岳赤岳クラスの雪山というのは岩場ありかつ相当の雪が積もる雪山・・・ということで日本の雪山のトップレベルを想定している。
我々の山の会では「赤岳クラス」の雪山は対象外としているので、ここでは「奥多摩・北八ヶ岳」クラスの冬山装備を説明する。
【ウェア】
冬山のウェアは「アンダーウェア」「ミドルウェア(中間着)」「アウター」の3層重ね着を基本とする。これは重ね着により空気の保温層を作ることで体温の維持をはかるからだ。
寒い時のアンダーウェアとして最近注目を浴びているのが、ユニクロなどが作っている「ヒートテック」というアクリル系繊維だ。この「ヒートテック」は肌から蒸発する水分を繊維と反応ささせて発熱させる効果がある。一見雪山向きだが、発汗量が多いと汗が冷えて体を冷やす危険性がある。一方モンベルが販売しているポリエステル100%のジオラインという素材は速乾性に優れている。雪山遊びといっても発汗の激しいクロスカントリー系から穏やかなハイキングまで幅は広い。同じ素材でも厚さの異なる下着が販売されている。専門店で自分の登山スタイルや発汗量などを伝えた上で適した下着を選ぶのが良いだろう。因みに私は写真右側のモンベルのジオラインの「中」を使っている。
写真左はユニクロのヒートテックでゲレンデスキーのように汗をかくことが少ないアウトドア遊びでは有効なウエアだと考えている。
中間着について私は余りこだわりを持っていない。空気層を含むフリースであれば、登山専用でなくとも十分だろう。たまたま私は登山道具屋で購入した写真のジップアップ型のウエアを着ることが多いがユニクロなどのフリースでも十分だと思う。
雪山のアウターとしてはゴアテックスの上下が欲しい。ただしミドルウェアに保温性の高いものを着ることを前提とすれば、中綿の入っ冬山用アウターでなく雨具でも大丈夫だと私は思っている。もっともこれは気温がマイナス5度程度を前提とした話だ。北八ヶ岳のように2,500m前後の山でも吹雪が予想される場合は、しっかりした冬山専用のアウターを準備したい。
【靴と靴下】
登山靴は私達の学生時代と較べると格段に進歩した。北八ヶ岳クラスの冬山に私は写真のスリーシーズン靴で登っているが冷たさを感じたことはない。靴のポイントはゴアテックスか同等の防水透湿素材を使っているかどうかという点だろう。ごアテックスの威力はすごく、並の雪山で靴が濡れることはない。また足からの発汗も上手くさばいてくれる。スリーシーズン靴と冬山専用靴の違いはむしろシェルと底の硬さにあるのではないか?と私は考えている。12本爪のアイゼンを着装することを前提した冬山専用靴は底もシェルも非常に固い。無論保温性も優れている。一方アイゼンをつけない時の歩行性はスリーシーズン靴に劣る。12本爪を使わない中部山岳の雪山はスリーシーズン靴で大丈夫だというのが私の実体験による判断だ。
写真は私のスリーシーズン靴だ。
最後は靴下。結論からいうと私は夏も冬も同じ厚さのウールの靴下を使っている。夏にウールの厚手の靴下は暑いような気がするが足の保護とクッションを考えると厚い靴下の方が良い。また今の登山靴は靴下1枚履きを前提にしているから冬山まで想定して靴を準備するなら厚手の靴下で靴のサイズを選ぶことになる。
なお本題から外れるが、登山&スキー兼用靴では薄手の靴下を履く。プラスチックブーツではそれでも足が冷たくない。登山道具は進歩したものだとつくづく思う。
【アイゼン】
冬の雪道、特に余り潜らない硬い雪を歩く時はアイゼンは必携だ。岩場など傾斜がきついところでは、靴のつま先をカバーする10本爪以上のアイゼンが必要だが、北八ヶ岳クラス以下では6本爪で十分だろう。気を付けないといけないことは、スリーシーズン靴に12本爪アイゼンを着装しようとすることだ。靴のシェルと底が柔らかいスリーシーズン靴の場合、12本爪アイゼンは外れやすい。また靴底が柔らかいので12本爪の前の爪(出っ歯)に乗ることは非常に危険だろう。
以上非常に簡単だが雪山歩きの道具を説明した。