登山経験の多いベランと初心者の違いは持ち物を見るとわかることが多い。一般に初心者は不必要なものを沢山ザックに詰め、必要なものを詰め忘れることが多い。不要な持ち物は荷物を重くするし、狭い山小屋やテントの中で居住空間を狭くしたり、パッキングに余計な手間がかかるという負担をかける。
私が今まで見たところでは不要な荷物の筆頭は衣類である。山の気象の変更の激しさを考えると色々な衣服を用意すると安全性・快適性が増すと思いがちだが、衣服が多くなると荷物が増えて負担になる。また厳しい気象条件化でどれだけコマ目に衣服を着替えることができるか?ということも考えなくてはならない。
これに対する私の答えは「できるだけ質の高いものを少量持って行く」ということに尽きる。たとえば冬山であれば、少々値が張っても信頼のできる下着(汗をかいても身体を冷やさないもの)をはじめから着込み、その上にフリースの中間着程度を着て登り始める。更に上に登って風雪が強くなれば、ゴアテックスの上下を着る。また岩稜のように動きが少なく更に身体が冷える場合や万一のビバークに備えて羽毛服を持って行くというものだ。
山では値が張っても重くない・嵩張らない・着通しても負担にならない衣服を選択することがポイントである。
これを人生に当てはめると「安いものを数持つよりも良いものを少し持ち長く使え」ということになると私は思っている。
私の好きな作家の藤沢周平に次のような言葉がある。「私は所有する物は少なければ少ないほどいいと考えているのである。物をふやさず、むしろ少しずつ減らし、生きている痕跡をだんだん消しながら、やがてふっと消えるように生涯を終えることが出来たらしあわせだろうと時どき夢想する」(周平独言)
私は藤沢周平のように生きてはいないし、これから先も生きることができるかどうかは分らない。むしろ年をとってもごちゃごちゃしたものを身の周りにおいて暮らしそうな気がする。だが人は矛盾に満ちている。
だから時々周平独言を思い出し断捨離に励むのである。
登り降りを合わせて、山も人生も本当に自分の必要なものだけを持って歩くことが出来たら本当に快適だな、と思う。そのためには経験を積み、少量の良いものを持つことを心掛けるべきなのである。また山では一つのものを幾つかの用途に使いまわすことも多い(雨具を防寒具にするなど)。持っているものを極限まで利用するという生き方も山登りから学ぶことができそうである。