6月初め頃、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が資産配分を見直し、国債運用比率を下げ、株式運用比率を上げるというニュースが流れてから日本株が上昇を続けている。昨日は利食いに押されて、日経平均は129ポイント(0.85%)下落したが、私の小さなポートフォリオを見ていると、相場上昇を牽引してきたベータ値の高い株が売られて、出遅れていた株が買われているようだった。しばらくこのような動きで株価を固めていくのではないだろうか?
GPIFの資産配分変更は当然のことながら外国人投資家の関心も高い。それは単にGPIFが126兆円の年金資産を運用する世界最大の年金基金というだけでなく、日本の企業年金のポートフォリオの一つのモデルになっているので、GPIFが資産配分を変えると企業年金が追随する可能性が高いからだ。
株式市場は先取りを常とするから、GPIFの資産配分変更が日本株を押し上げる効果は既にある程度先取りしたと見るべきだろう。
GPIF運用委員長の米澤氏はWSJのインタビューに次のように答えている。
- 個人的には新しいポートフォリオを9月か10月に構築する必要があると考えている。遅らせる理由は何もない。
- 資産配分比率の変更は、日本国債の比率を現在の60%から40%に減らし、国内株・外国株(各々12%)を17%に増やし、外国債券を11%から16%に増やし、新たに代替投資を5%入れるというのが試案だ。ただし今後運用員会での検討をへて変わりうる
- 資産配分比率を変更する目的は「年金基金のリターンを高め年金支払いの確実にする」「成長企業に資金を流し込むことで国内におけるリスクテイクを刺激する」
GPIFの資産配分変更については色々な批判がある。たとえば「株式運用にシフトすると株価が下落した場合、税金で穴埋めするリスクが高まる」「株高で支持率を維持してきた安倍内閣だが、春先の株価下落・集団的自衛権問題等で支持率が下落している。内閣の支持率低下のために国民の金である年金基金を株式投資に振り向けるのは問題だ」「米澤委員長は学者だが運用の素人だ。素人に国民の年金基金のかじ取りを任せて良いものだろうか?」などだ。
GPIFの過去7年間(2013年3月まで)の平均運用利回りは年1.99%。国債運用比率が6割という比較的保守的な運用によりリーマンショックの影響を緩和することができたと厚労省等は判断している。
だが米澤氏は「デフレの時代は日本株に投資することは必ずしも良いことではなかった。しかしアベノミクスにより日本企業の株式リターンは高まっているし、コーポレートガバナンスの強化にシフトしている。今はインフレヘッジに注目するべきだ」
批判はさておき動き始めたGPIFの資産配分変更。既に初期の影響は6月初旬の日本株の株価上昇に織り込まれたとして次なる影響は何か?
一つは私はGPIFがどのような日本株をピックアップするか?ということにあると判断している。「成長企業に投資する」「コーポレートガバナンスがしっかりした会社に投資する」ということであれば、そのような個別企業をピックアップする必要があるが、国民の年金を運用するGPIFが個別企業を選別することは難しい。そこで考えられるのが、優良銘柄を束ねたJPX日経400のようなインデックスだ。
年金基金が成長戦略を取るということは、資産配分を通じて企業に優勝劣敗を迫っていくということでもある。安売り戦略で生き延びてきた企業は退場を強いられる、ということだ。その結果価格決定力のある企業が生き延びて、インフレ基調が持続するという訳だ。
日本経済がデフレを脱却してインフレに向かうとすれば、GPIFがインフレヘッジ力のある株式比率を高めることは合理的な判断である。だがもしそのシナリオが崩れた場合のリスクは大きい。我々はインフレに対して大きな駆けをすることになる。