昨日(6月5日)欧州中銀ECBは中銀預金金利をマイナス0.1%にすることに決定した。これに加えて4千億ユーロの流動性供給措置や資産担保証券の購入を検討することも発表した。株式市場はECBの金融緩和政策が世界経済に与える好影響を好感し、米国・欧州とも上昇。米国株式市場では主要株価指数が最高値を更新した。
日経平均先物も夜間取引で80ポイントほど値を上げているので、東京市場も小高く始まることは間違いない。
だが冷静に考えると欧州中銀のマイナス金利政策はどれほど奏功するのだろうか?主要中銀でマイナス金利を採用するのはECBが初めてだが、過去の例ではデンマーク中銀が2012年に0.2%のマイナス金利を採用したことがあったが、市中銀行の貸出促進や経済活動の活発化に関して目立った効果はなかった。
ニューヨーク・タイムズが分りやすくマイナス金利政策のプラス面・マイナス面を解説していたので紹介しよう。
【マイナス金利の意味と期待する効果】
政策金利が通常(ゼロ以上)の場合、商業銀行は中央銀行から求められる準備預金額を超えて中央銀行に預託しておく。しかし中央銀行に預託しておくだけで、金利を払わなければならないとなれば、市中銀行には中央銀行に預託する以外の運用方法を選択したいというインセンティブが働く。またマイナス金利が口座維持手数料のような形で市中銀行の預金者に転嫁されるならば、国際的な投資家にとってユーロ預金の魅力は逓減し、他通貨に対しユーロ安となる。ユーロ安は欧州の輸出業者の競争力を回復させ、経済成長につながる。
【マイナス金利政策は有効なのか】
中央銀行がマイナス金利を採用した場合、市中銀行はそのコストを預金者に転嫁する、最低でも転嫁しようと試みる。対応方法は預金金利をゼロにし、口座維持手数料を徴求することだ。もっともマイナス金利の金利が極めて低い場合は市中銀行は顧客離れを回避するため、損失を飲み込むこともありうる。
ところで市中銀行がマイナス金利を預金者に転嫁しようとするとどのようなことが起きると想定されるか?預金者はマイナス金利を銀行に払う位なら、預金を引き出し現金を自宅に保管することを選択する可能性がある。
つまり現金が銀行システムから引き出され退蔵されてしまうリスクがある。中央銀行が意図する景気刺激のための金融緩和とまったく逆の効果になってしまう。従ってECBを含めて多くの中央銀行は大幅なマイナス金利政策をとることに消極的なのである。
【ECBの限られた選択肢】
米国や日本の中央銀行は、長期国債等期間の長い債券を購入することで、金融システムに流動性を供給してきた。いわゆる量的緩和政策だ。だがECBの場合、欧州諸国の国債を購入することは、ECBの設立目的から外れるのではないか?という政策面のリスクがあり、国債購入は難しいという問題がある。また欧州の国債以外の債券市場は米国に較べると未発達なので、ECBが米連銀のように大量に住宅ローン担保債券を購入することは難しいと判断される。
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以上のことを踏まえて考えると、ECBのマイナス金利政策の実効性には疑問は残るが、米連銀が債券購入を縮小し、日銀が当面これ以上の量的緩和を行わない姿勢を示す中でECBが金融緩和姿勢を打ち出したことを市場は好感した。
PIMCOの前共同CEOのエル・エリアン氏はCNBCのインタビューにECBの政策を「沢山の小さな弾丸」とコメントしていた。中央銀行による長期債購入をバズーカ砲という表現が一時流行っていたが、それに比べると小玉ということだろうか?
しかしバズーカ砲がなければ小玉でも沢山打つ方が良いだろう。