安倍政権が成長戦略の中核に掲げる「女性の活躍」。政府は2020年までに指導的立場にある女性の割合を3割程度に引き上げることを目標に掲げている。
現実はどうか?というと今週日曜日のNHK討論を見ていると、女性で課長職以上を目指すという人の割合は1割少々だった(男性は6割)。討論者の意見を聞いていると女性が管理職を希望しない理由は、管理職になると際限なく仕事を押し付けられることを警戒しているようだ。
私はこの問題の根幹には、「総合職のオプション売り構造」にあると見ている。総合職のオプション売りという言葉は私が勝手に作った言葉なので、まず意味を説明しよう。
ここでいうオプションとは「会社が総合職に転居を伴う転勤を命じる権利」「会社都合で担当職務を変更する権利」などを指す。オプションを売るということは、それらの権利を会社に与えるということで、オプションを売る側は対価としてプレミアムを受け取る。仮に地域限定型総合職と全国型総合職の区分がはっきりしている会社があるとすれば、このオプションプレミアムは「全国型総合職の年収ー地域限定型総合職の年収」と同程度となるだろう。
会社はオプションプレミアムを払うことで、業務の必要に応じて迅速に担当職務の変更や転居を伴う権利を確保しているから、柔軟に業務の拡大(場合によっては業務の縮小)に対応できた訳だ。もっともこのような制度により、長期雇用契約が維持されてきた面があるので、勤務者側にもメリットはあった。少なくとも右肩上がりの時代や大きな構造改革が起こるまでは。
このような「総合職のオプション売り構造」は、かなり日本固有のものだろう。たとえば米国では「会社に就職する」のではなく「ある特定のポストに就職する」から、オフィサー(総合職)に対して、違うポストへの移転を命じることはできない(相談することは可能だが本人の同意が必要)。まして日本の会社のように辞令一つで海外まで転勤を命じることなど全く不可能である。
このような「総合職のオプション売り構造」は、経済が拡大している時は企業の競争力を高める効果があった。総合職側にしても、オプションプレミアムとして高い給料を得るというメリットに加えて、転勤・担当職務の変更を経験しながら組織の階段を昇っていく(可能性がある)というメリットがあった。
しかし当然マイナス面もある。まず専業主婦が多かった時代は一家そろってダンナの転勤先についていくことが可能なケースが多かった(子どもの学校によっては無理なことも多いが)。しかし共働きが増えてくると妻がダンナの転勤先について行くことは不可能になってくる。また共働きの女性が「指導的立場」に立つと転勤を命じられることもあるだろう。この場合もダンナが妻の転勤先について行くことは普通は不可能だろう。
このように考えると「総合職のオプション売り構造」は女性の活躍の一つのネックになっていると思われるのである。
ある時代に強みの源泉となった仕組みは世の中のパラダイムが変わると足かせになる場合がある。
会社としては命令一本で「どこへでも転勤する社員」を確保しておきたいところだろうが、コスト面や人材確保の観点から見直す必要があるのかもしれない。
オプションを売る総合職側にとっても、転居や単身赴任の経済的・非経済的負担が受け取るプレミアムに見合うものかどうか見直す必要があるだろう。