今年の一般社団法人 日本相続学会の研究大会(第3回目)は11月12日(木)-13日(金)に、愛知県犬山市の日本モンキーセンターで開催します。
ところで「なぜ相続学会をモンキーセンターで開催するの?」と疑問に思われる方がいると思います。
その理由の一つは「昨年の研究大会からの流れ」です。昨年の研究大会では霊長類研究者の第一人者・松沢哲郎京都大学霊長類研究所教授(日本モンキーセンター所長)から「人間とはなにか」ということについて貴重な講演を頂きました。その流れで今年はモンキーセンターをお借りしてさらに「相続の原点を追究する」ことにしました。
ここまでは学会の「研究大会開催要項」に書いてある公式見解です。
以下は私の個人的な見解ですが、モンキーセンターと相続問題をつなぐキーワードはエンリッチメントだ、と私は考えています。
エンリッチメント正確にいうと環境エンリッチメントEnvironmental Enrichmentとは「飼育動物の異常行動を減らし、動物の福祉と健康を改善するために飼育環境を改善する工夫」を指します。
最近NHKのBSプレミアムでチューリッヒの動物園を取り上げている番組を観ました。この動物園はエンリッチメントに力を入れています。その成果はオランウータンなど絶滅危惧種で繁殖が増えているという形で実り始めています。飼育環境が改善し、動物たちが健全に暮らし始めると繁殖活動が活発になってくるのですね。
ではチューリッヒ動物園はどのような工夫をしているのでしょうか?
私が一番感心したのは「動物が簡単にエサを食べることができないようにする」という工夫でした。オランウータンに与えるエサは細長い隔壁のついたケースに入れて与えられます。隔壁には穴が開いていて、オランウータンはケースの上のスリットから木の枝を指し込み少しづつエサを出口に運ばないとエサを食べることができません。でもオランウータンは喜んでその作業をしているように見えます。飼育係の人の話では「動物を退屈させることが一番いけない」ということでした。
エンリッチメントという言葉は人間については、ジョブ・エンリッチメントという言葉で使われます。これは従業員に与えられた仕事をさせるのではなく、自らアイディアを実務に反映させるプロセスを取り入れることで、従業員のモチベーションを高め、会社の業績を良くしていくという考え方です。
これを相続争い問題に繋げてみましょう。ある種の相続争いは、極論すると私は「ひまを持て余した人間によって引き起こされる」という仮説を立てています。もう少し丁寧に説明すると「相続争いに時間と神経を使うより、他にお金儲けの手段や人生を楽しむ術(すべ)を知っている人は、相続争いを程々に切り上げて、有効に自分の資源を使う」という仮説です。
飼育動物の場合、飼育環境が悪いと異常行動を取ることが多い、といいます。仮に「相続争い」を一種の異常行動だとすれば、相続争いの背景には、本人が意識していない精神的な環境の悪さがあるのではないか?と私は考えています。
大人になった人間は誰かに飼育されるものではありませんから、自らを育てていく必要があります。しかし自らを育てる努力が不足していると健全な生き方ができず、相続争いを引き起こす可能性があるのでしょう。
自らを育てる生き方とは、少し不自由をするということです。自分に高い目標を課すなどの方法で負荷を高める生き方ということです。その不自由さにチャレンジし、何かを得た時人は一回り大きくなれるのでしょう。このような自分自身の知的能力や精神面を高めるプロセスをセルフ・エンリッチメントと呼ぶことがあります。セルフ・エンリッチメントができた人は相続争いを起こさない、ということが実証できれば、私の仮説は定説に昇格するのですが・・・・(笑)
日本モンキーセンターの公開カレンダーを見るとエンリッチメント体験(ゴリラ)などというスケジュールが出ていました。来月下見に行く時、同センターのエンリッチメントの方針や具体策を聞いてみたいと思っています。
そして自分の仮説が正しいかどうか再考してみたいと考えています。