金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

8月にはドルが下がる

2006年08月03日 | 金融

ウオール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、例年8月には米ドルは対円で下落しているが、今年はその下落がいつもより少し早く始まるのではないか?ということだ。ちょっと記事の順番を入れ替えながらポイントを紹介しよう。

  • 過去8年の間、8月にドルは毎年1.9%から5.8%の範囲で下落している。これは主なドルの買手である日本の投資家が夏休みを取るからである。と同時にドルを持っている日本の輸出業者は夏休み中にドルが下落することを恐れて先物でドルを売る。このため例年8月に米ドルは円に対して弱含む。
  • この8月に同じパターンが繰り返されるという保証はないが、毎年繰り返す他の2つの為替のパターンは今年も見られた。それはゴールデンウイークにドルが売られ、7月にドルが強くなるというもので7年連続して同じパターンが見られた。
  • 米国の景気がスローダウンしているという連銀レポートが先週出ているので、連銀が金利引き上げを一休みするのではないかという観測が広がっている。第一生命経済研究所によれば、ドル金利と円金利の格差が今年末か来年早々に縮まることを見越してドルは年末に105円に下落すると言っている。

大怪我をしない程度でこの種のアノマリーを利用して、為替で遊んでみるのも面白いかもしれない。

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ETF、投資の主流にシフトする

2006年08月02日 | 株式

ETFつまり上場型投信が投資の本流にシフトしてきたという記事がウオール・ストリート・ジャーナル(8月1日)に出ていた。ETFは数年前にはエキゾチックな投資対象と考えられていたが、今や米国では主要な投資家に保有される投資の本筋商品になったということだ。

私は今ある雑誌に連続して「日本は何故金融で米国に勝てないのか?」という記事を書いているが、ETFが米国で急成長してきたことに問題を解く一つの鍵があるのではないか?と考えている。そのことは後段で書くとしてまず、記事のポイントを見ておこう。

  • 誰がETFを保有しているかというデータを得ることは困難で、総ての数値は推測ベースではあるが、市場で大きなシェアを占めるファンド運営会社によれば、ETFの投資家は機関投資家から個人投資家にシフトしている。もっとも双方とも保有残高は伸びている。
  • 6月末の米国のETF残高は3,351億ドルで過去1年間で38%残高が増加した。因みに日本のETF残高について一覧的な統計は見つからなかった、概ね3兆円程度である。(野村アセットの日経225ETF1兆173億円や同TOPIX8,983億円等大口ファンドを足し上げた)。1ドル115円で換算すると米国のETF残高は38兆5千億円で日本の10倍以上の市場規模である。ただしETF残高の伸びについては野村アセットの日経225は昨年12月から半年で27%も残高が増えている。
  • 米国のETF市場で半分以上のシェアを持つバークレーズ・グローバル・インベスターズによれば、同社が組成するETFの個人シェアは2,3年前の5割から現在は6割に増加している。
  • 残高ベースで個人のウエイトが高まっているが、日々のトレーディングの8割は機関投資家によるものだ。機関投資家の中でもヘッジファンドがETFの一番のユーザである。
  • ETFはインデックス型投信に似ているが株式と同様証券取引所で取引される。ETFは透明性、取引のしやすさ、低コストが取引メリットになっている。

日本の上場型投信の状況を概観すると、日経225型やTOPIX型の残高は増えているが、個別セクター型(コア30、東証銀行株連動等)のETFの残高は横這いから減少、また廃止になったETFもある。流動性つまり何時でも公正な市場価格で売却できるかどうかということになると、日経225型かTOPIX型以外は注意しておく必要があるだろう。

一方ETFに較べて信託報酬等が高いインデックス投信ファンドは残高が横這いないし減少気味である。これから判断するとパッシブ型の投資においては、インデックス投信からETFにシフトが起きていることが推測される。しかしETFのメインプレーヤーが機関投資家なのか個人なのかは良く分からない。

ところで金融機関等投資信託を販売する立場からすると、手数料の少ないETFよりは手数料の多いインデックス投信、さらにはアクティブ投信に個人投資家を誘導したいという誘惑に駆られることは極自然に理解できる。しかし顧客の利益を考えるとインデックス投信よりはETFを勧めることが妥当であることはいうまでもない。ここに利益相反の問題が内在する。もっともアクティブリターンを追及するアクティブファンドと個別のアルファを追求する訳ではないETFを同列に論じることはできない。しかし歴史的に見てアクティブ投資が、その高い手数料を正当化するほど高いリターンを上げているかどうかということについて販売業者は個人投資家にきちんと説明しておく必要がある。

私は個人投資家が「取引コスト」や「流動性」あるいは「透明性」「アクティブ・リターンの限界」といったことに注意を払う様になるとETFの残高が伸びると考えている。つまりETFがどれ程個人投資家に受け入れられているかどうかということが、個人投資家の金融リテラシーを測定する指標となると考えられる。

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大手銀行株は買い時だ

2006年08月01日 | 金融

昨日大手銀行の四半期決算発表があった。金利上昇局面なので債券トレーディングで一時的な損失を出している銀行もあるが、注目しておいて良いのは三菱UFJとみずほで手数料収入が相当伸びていることだ。

三菱UFJは金融商品の個人向け販売と投資銀行業務による手数料収入が24%伸びて26百億円になった。みずほは投資信託や変額年金の販売および海外でのMBO業務を含む投資銀行業務による手数料収入が前年比12%伸びて12百億円になった。みずほでは伝統的銀行業務の収入に比率が最大で、粗利益4,760億円の内2,560億円となっているが、収入額は前年度とほとんど変わっていない。つまり収入増はリテイルと投資銀行業務によるところがほとんどといって良い。

以前から私は株式投資の観点でみずほGを注目しているのだが、それは顧客基盤の広さと投資銀行業務における血筋の良さによる。今後日本でもM&AやMBOが盛んになってくることは間違いないが、メガバンクの中でも投資銀行業務に強いみずほにより収益チャンスがありそうだ。

ということを書いたところで、日経金融新聞に眼をやると「大手銀行の株が相場を牽引する」といった記事が出ていた。その記事の中でアナリストと称する評論家達は三井住友の株を特に推奨していたが、私は既に述べた理由などからみずほの株に期待している。まあ、評論家が勝つか野武士が勝つか暫らくはマーケットを見ていよう。

とこで今日の本題は直近の利益額でトップにたったバンクオブアメリカ(BofA)の話題をエコノミスト誌の記事で見ながら、大銀行の行方というものを考えることにある。まず記事をざっと見よう。

  • この第2四半期の利益(55億ドル)でBofAは、世界で最も収益の高い金融機関になった。また1年前では較べるのもおかしい程開きがあったシティとの時価総額の差も急速に縮まっている。しかしシティの方が収入は大きく、多くの新興市場にプレゼンスがあるので将来の成長性も高い。
  • 離れたところから見るとシティもBofAも同じような創造物である。両社は買収により巨大化した。両社は利益の約3分の1を企業取引から残りの大部分を個人取引から得ている。両社はクレジットカードで大きなシェアを持っている。
  • しかしより近づいて見ると両社は異なったものである。シティは複雑な投資商品を販売し、投資銀行を持ち、多くの国でオペレーションを行い、国内の拠点は小さくカリフォルニア、ニューヨーク、テキサスに集中している。
  • これに対しBofAの批判者は、力強いにせよ、鈍くてぱっとしない将来を予想する。過去10年間の一株当たり利益の年間成長率はたったの6%だった。ミシガン州のフラッグスター銀行やニューヨークのコミュニティ バンコープなどの年間成長率は17%である。これらの銀行は規模が小さく、品揃えの幅も少ない。彼らは住宅需要の強い地域で住宅ローンに大きく依存している。
  • 現在の経営陣等BofAの擁護者は、BofAは少なくとも米国において、強力でかつ分散されたフランチャイズを持っていると反論する。
  • 調査会社SNLファイナンシャルによれば、大銀行は高いROEを上げている。BofAは、大手行の中でも高いROEを上げている。ただしUSバンコープ、ウエルスファーゴ、シティ程高くはない。大手行は小さい銀行より株価収益率が低い。これは小さい銀行が被買収プレミアム(Takeover premium)を持っているかあるいは市場が大銀行の収益性が持続可能かどうか疑問視していることによると思われる。
  • BofAは買収を繰り返し成長を続けた。BofAは3千社の結合物である。連邦法は預金シェアが10%を越える様な銀行買収を禁じているので、BofAの買収戦略は限界に達し、内部的な成長による拡大しか手がないだろう。しかし他社は買収を行なうだろう。アメリカは銀行で溢れており、永久に合併が続く。
  • ではBofAはどこに成長を見出すのか?投資銀行の買収の可能性もあるが、過去の買収結果は良くない。もうひとつのオプションは海外展開だ。しかしこちらも過去の買収過程で小さな海外オペレーションを切り捨てているので殆ど拠点がない。
  • 残る選択肢は内部的な成長である。BofAは人々が絶えず移動する米国内に全国的なフランチャイズを持っている。ある州で口座を開くと引越しをしても新たに口座を解説する必要がない。BofAのウエッブサイトには2千万人の顧客がオンラインで支払を行なうため極めて大きなアクセスがある。巨大な銀行は巨大な資金の貯蔵庫である。今日アメリカ人は銀行預金よりMMFを選好している。しかし彼等は取引のために今まで以上に銀行口座を必要としている。
  • BofAはクレジットカードと銀行口座を通じて54百万の家計とスモールビジネスを取り込んでいる。このためBofAはアメリカの金融トレンドを洞察する機会に恵まれている。この独占的な情報を自己の投資に生かすと高い利益を上げることができる。
  • BofAは銀行業務において規模が利益とともに問題をもたらすことを知っているに違いない。あるポイントを過ぎると規模は逆効果を招くという証拠がある。部外者はBofAが単に大きいだけでなく、より良くなれば喝采するだろう。

この記事の中に銀行業務に関する格言が出ていた。「一つの業務の中で大きくならなければならない。さもなければ止めるべきである」 it has to be a big fish in a business, or not in it at all.

証券化やインターネット取引が進んでいるアメリカにおいて、取引の入り口として銀行口座の必要性が高まっているという点が興味深い。なお米国では信用履歴が預金口座開設に必要なので、州をまたぐ転居をして新しい口座を開く負担はかなり大きいのだ。ここにBofAの強みがあるというのも面白い。

日本の金融界は数年遅れでアメリカをフォローしているから、メガバンクの株は買い時というべきであろう。

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