19日付のFTに「韓国でキャベツの値段が高騰し、主婦はキムチ作りに苦労している」という話が出ていた。タイトルはSouth Korea in a pickle over cabbage price. 面白いのはin a pickleという表現。pickleはピクルスつまり漬物だが、in a pickleは「苦境に陥っている」という慣用句だ。「韓国はキャベツの価格で苦境に陥っている」という意味だが、「漬物(キムチ)」と「苦境に陥っている」が掛詞になっている。
韓国のキャベツ高は例年より雪の多い気候が原因だ。FTによると1個6千ウオン(昨年の4倍)という。為替レートは1ウオン=0.08円だから日本円に換算すると480円だ。日本でも天候不順でキャベツの価格は400円近い値段をつけているから、それほどの差はないように見える。
韓国ではヘッドライン・インフレ(生鮮食料品・燃料を含んだインフレ率)が2%近くになっている。韓国はインフレターゲットを3%に設定しているインフレターゲット国だから、その数値自体は驚く程ではないが、3月に年率換算10-13%上昇した燃料価格と相まって消費者には頭の痛い話である。
FTはキャベツに対する関税の高さや輸入依存度の高さも、価格上昇の要因にあげている。因みに韓国のキャベツの関税率は27%(日本は3%)だ。
ところで韓国ではインフレが進行し易く、日本ではデフレ傾向が続く一つの理由は、「ウオンが実力より安く、円が実力より高い」ということにある考えられる(インフレ・デフレというのは複雑な経済現象なので、原因を単純化することは危険だが)。
例えばCIAのFact bookによると、韓国の購買力平価(PPP)ベースのGDP(2009年)は1兆3560億ドルで為替ベースは8097億ドルだ。日本のPPPベースのGDPは4兆1370億ドルで為替ベースは5兆1080億ドルである。つまり為替ベースで見ると日本経済は韓国経済の6.3倍の大きさがあるが、PPPベースで見ると3倍程の大きさしかないということになる。
一人当たりGDPをベースに計算すると、日本円は購買力平価に較べて1.23倍割高で、韓国ウオンは0.60倍割安になっている。つまり日本円は韓国ウオンに較べて2倍程度割高になっている。これでは韓国企業が日本企業より輸出競争力を持つのは当然の話だ。
「ウオンが安いからインフレが進むのか?」あるいは「インフレが進むからウオンが安いのか?」というと鶏・卵のような話になるが、韓国が安定的な通貨拡大政策を取ることでマイルドなインフレを促進してきた効果はでているようだ。もっともリーマンショックの後、急速なウオン安に襲われたなどという要因もあるのだが。
韓国企業は国内の住み分けが進み、日本企業のように国内で泥沼のような価格戦争を行わないからデフレ化しないという意見もある。また1997年の通貨危機以降IMFの構造調整計画を受け入れ、多額の外国資本が投入されたので、利益重視の外資的経営が浸透したという意見もある。(例えば韓国の大手行にはシティやゴールドマン、スタンダードチャータードなど外国資本が多額に入っている)
デフレの問題はかなり複雑な問題で私は金融の超緩和策だけでデフレが克服できるとは考えていない。しかしお隣の韓国と較べてみると何かヒントがあるかと思ってこのエントリーを書いた次第である。
因みにいうと「現在の日本経済が抱える最大の問題はデフレである」という人がいるが、これは本当に正しいのだろうか?
私はむしろ「購買力平価で見た一人当たりGDPの持続的な低下」ということの方が大きな問題ではないか?と考えている。09年の日本のGDPは32,600ドル(前年は34,300ドル)で、世界42番目である。隣の芝生を見ても仕方がないが、一つ下は国債の債務不履行懸念がささやかれるギリシアである。
ビジネスモデルを変革し、新興国に対し優位性のある分野に進出し、一人当たりGDPの伸びを図れば、結果としてデフレは克服できるのではないだろうか?デフレ克服論を先頭に立てるのは、馬の前に馬車をつけるような気がしないでもない。このあたりは経済学の専門家のご意見を聞きたいところである。