金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

キムチの話から日韓インフレ・デフレを雑学

2010年04月21日 | 社会・経済

19日付のFTに「韓国でキャベツの値段が高騰し、主婦はキムチ作りに苦労している」という話が出ていた。タイトルはSouth Korea in a pickle over cabbage price. 面白いのはin a pickleという表現。pickleはピクルスつまり漬物だが、in a pickleは「苦境に陥っている」という慣用句だ。「韓国はキャベツの価格で苦境に陥っている」という意味だが、「漬物(キムチ)」と「苦境に陥っている」が掛詞になっている。

韓国のキャベツ高は例年より雪の多い気候が原因だ。FTによると1個6千ウオン(昨年の4倍)という。為替レートは1ウオン=0.08円だから日本円に換算すると480円だ。日本でも天候不順でキャベツの価格は400円近い値段をつけているから、それほどの差はないように見える。

韓国ではヘッドライン・インフレ(生鮮食料品・燃料を含んだインフレ率)が2%近くになっている。韓国はインフレターゲットを3%に設定しているインフレターゲット国だから、その数値自体は驚く程ではないが、3月に年率換算10-13%上昇した燃料価格と相まって消費者には頭の痛い話である。

FTはキャベツに対する関税の高さや輸入依存度の高さも、価格上昇の要因にあげている。因みに韓国のキャベツの関税率は27%(日本は3%)だ。

ところで韓国ではインフレが進行し易く、日本ではデフレ傾向が続く一つの理由は、「ウオンが実力より安く、円が実力より高い」ということにある考えられる(インフレ・デフレというのは複雑な経済現象なので、原因を単純化することは危険だが)。

例えばCIAのFact bookによると、韓国の購買力平価(PPP)ベースのGDP(2009年)は1兆3560億ドルで為替ベースは8097億ドルだ。日本のPPPベースのGDPは4兆1370億ドルで為替ベースは5兆1080億ドルである。つまり為替ベースで見ると日本経済は韓国経済の6.3倍の大きさがあるが、PPPベースで見ると3倍程の大きさしかないということになる。

一人当たりGDPをベースに計算すると、日本円は購買力平価に較べて1.23倍割高で、韓国ウオンは0.60倍割安になっている。つまり日本円は韓国ウオンに較べて2倍程度割高になっている。これでは韓国企業が日本企業より輸出競争力を持つのは当然の話だ。

「ウオンが安いからインフレが進むのか?」あるいは「インフレが進むからウオンが安いのか?」というと鶏・卵のような話になるが、韓国が安定的な通貨拡大政策を取ることでマイルドなインフレを促進してきた効果はでているようだ。もっともリーマンショックの後、急速なウオン安に襲われたなどという要因もあるのだが。

韓国企業は国内の住み分けが進み、日本企業のように国内で泥沼のような価格戦争を行わないからデフレ化しないという意見もある。また1997年の通貨危機以降IMFの構造調整計画を受け入れ、多額の外国資本が投入されたので、利益重視の外資的経営が浸透したという意見もある。(例えば韓国の大手行にはシティやゴールドマン、スタンダードチャータードなど外国資本が多額に入っている)

デフレの問題はかなり複雑な問題で私は金融の超緩和策だけでデフレが克服できるとは考えていない。しかしお隣の韓国と較べてみると何かヒントがあるかと思ってこのエントリーを書いた次第である。

因みにいうと「現在の日本経済が抱える最大の問題はデフレである」という人がいるが、これは本当に正しいのだろうか?

私はむしろ「購買力平価で見た一人当たりGDPの持続的な低下」ということの方が大きな問題ではないか?と考えている。09年の日本のGDPは32,600ドル(前年は34,300ドル)で、世界42番目である。隣の芝生を見ても仕方がないが、一つ下は国債の債務不履行懸念がささやかれるギリシアである。

ビジネスモデルを変革し、新興国に対し優位性のある分野に進出し、一人当たりGDPの伸びを図れば、結果としてデフレは克服できるのではないだろうか?デフレ克服論を先頭に立てるのは、馬の前に馬車をつけるような気がしないでもない。このあたりは経済学の専門家のご意見を聞きたいところである。

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長島防衛大臣政務官、武器輸出三原則緩和を求める

2010年04月20日 | 政治

19日付のFTは長島防衛大臣政務官が、同紙に「内閣に武器輸出三原則の緩和を求めていく」と告げたと報じている。

武器輸出三原則とは1967年の佐藤首相の国会答弁により確立された「共産圏向け」「国連決議で武器輸出が禁止されている国向け」「紛争の当事国または恐れのある国向け」の武器輸出を禁じる原則だ。その後76年の三木内閣により、三原則地域以外にも武器輸出を「慎む」ことになっている。ただしこのことを規定した法律はなく、経済産業大臣が輸出の許認可権でコントロールしている。

長島政務官の発言はこのコントロールを緩めることを求めるもので、その背景には、日本の防衛産業(三菱重工業など)の国際競争力を高めるとともに、米国以外の外国との武器の共同開発を促進し、日本の国防費の削減を図るという意図がある。

武器輸出三原則の緩和要請については、1月に北沢防衛大臣も発言しており→ http://www.asahi.com/politics/update/0112/TKY201001120219.html

特段目新しい話ではない。ただし「普天間基地の移転先は当面沖縄周辺になる結論に至りつつある」と述べる同政務官の発言だけに、鳩山内閣の新たな火種になるかもしれない。

それにしてもこの所の鳩山内閣では、閣僚達が実に自由闊達に色々な意見を述べるものだ。

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機会に困難を見出すか?困難に機会を見出すか?(その2)

2010年04月20日 | 社会・経済

先週のエコノミスト誌にThe world turned upside downという記事が出ていた。「世界は上下転倒した」という意味で、記事の主旨は「低コスト労働力の提供者と思われていた発展途上国が実は世界の破壊的革新の源泉になるだろう」というものだ。

記事は80年代の日本が開発した「リーン生産方式」から説きはじめる。土地と資源が不足していた日本の自動車産業は「無駄のない生産方式」で米国のビッグ3を圧倒するまで成長した。弱みを強みに変えた訳だ。

エコノミスト誌は同じようなことが、今中国、インドなど発展途上国で起こりつつあると述べる。これらの国は貧困層が多いとか、インフラの弱さだとか、著作権が保護されないとか多くの問題がある。だが問題は同時に成功する機会の源泉でもある。中国やインドでは数億人の人が向こう数十年の間に中産階級入りすると予想される。年金や医療保険など「レガシーコスト」と呼ばれる負担を背負う会社はほとんどいない。また優秀な頭脳を持った新しい労働力がどんどん生まれてくる。

だがエコノミスト誌が一番着目したのは、発展途上国の楽天主義である。「あなたの国の経済状態は良いですか?悪いですか?」という質問に9割近い中国人が良いと答え、7割以上のインド人が良いと答えている。そこまで行かないまでも、経済状態は良いという人はインドネシアやブラジルで4割を超える。英米仏など先進国で良いと答える人は2割以下だ。中でも一番低いのは日本で約1割程度だ。またインド人の94%、ブラジル人の87%、中国人の85%が自分の生活に満足していると答えている。

発展途上国の企業の中には、インドの鉄鋼メーカー アルセロール・ミタルやメキシコのセメントメーカー セメックスのように先進国企業のシェアを食いあさる強い企業がどんどん出てきている。

エコノミスト誌は「発展途上国はチャーチルの機会の中に困難を見出すよりはむしろ困難の中に機会を見出すという言葉に呼応している」と結んでいる。

少しの勇気と時代の変化を受け入れる柔らかな感性を持って、発展途上国を見る時、困難の中に投資機会が見えると私は思っている。

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たそがれの五日市駅の郷愁

2010年04月19日 | まち歩き

僕は日暮れ時の山里の駅の雰囲気が好きだ

温泉に入りビールを飲んで良い気持ちでたどり着いた始発の駅

沢山いた登山者達も家路を急ぎもう疎らになっている

休日のたそがれの山里の駅には静かな安らぎがある

僕はふとふるさとの単線電車のことを想い出した

山里の駅には郷愁をさそうなにかがある

Stationtoyphoto

写真はオリンパスE-30のアートフィルター・トイフォトを使って撮影した

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機会に困難を見出すか?困難に機会を見出すか?(その1)

2010年04月19日 | 社会・経済

ウインストン・チャーチルの名言に「悲観主義者はあらゆる機会に困難を見出し、楽観主意者はあらゆる困難に機会を見出す」という言葉がある。ゴールドマンザックスが米国証券取引員会に訴追された件を見ているとふとこのパロディ版を思いついた。

「投資銀行マンはあらゆる困難に収益機会を見出し、規制当局はあらゆる収益の中に不正取引を見出そうとする」

投資銀行マンは、借金に苦しむ人の中にもビジネスチャンスを見出す。例えば通常では住宅融資を受けられないような人向けに作られたサブプライム・ローンを証券化することで大きな市場を作り、サブプライム・ローン拡販の原動力となった。

ギリシアのように追加の借金ができなくなった国には、資金調達手法としてのデリバティブを「これは借金ではなくスワップ取引である」と売り込む。モラルの問題は別として、投資銀行マンという人種があらゆる困難の中にビジネスチャンスを見つける努力をしていることは間違いない。時としてそれがモラル・ハザードの問題を起こすことはある~結構大きな問題なのだが~が、一方経済の活性化に大きな役割を担っていることは事実だ。

ゴールドマン・ザックスの訴追について、ことの成り行きを予想するのは時期尚早だ。アイスランドの火山爆発と引っ掛けてエコノミスト誌はA volcanic cloud over Wall Streetという題で、ゴールドマン・ザックスの訴追の影響はかなり大きなものになるのではないか?という見解を示している。ゴールドマン・ザックスが組成したCDOを購入して、大損を蒙った投資家の中には破綻しそうになり国家支援を受けた英国やドイツの銀行があり、これらの国が同社に対して法的措置を求める可能性があるからだ。

さてこのように不安定な材料が噴出したので、金曜日の米国株そして今日の日本株は大きく下げた。これを株価が急上昇していたので、テクニカルなコレクション(水準訂正)の時期に来ていたと見るか、何かファンダメンタルな変化が起きる予兆とみるか、見方は分かれるところだ。前者の立場に立つと、もう少し株価が下げると買い局面という判断が成り立つ。

今の私はやや前者の立場寄りだが、もう少し状況を見たいと考えている。チャーチルの言葉をかみしめながら。

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