「タダより高いものはない」という言葉がある。企業が中々利益を上げることが出来ないこの世知辛い世の中で「無料で点検します」などという話があれば、用心した方が良い。
先日外出先から帰宅し玄関ドアを開けようとすると、中年女性が近寄ってきて「ご主人様ですか?」とたずねてきた。聞くと東京ガスのガスメーターのチェックをしている人で、ついでにガス風呂やレンジの無料点検の御用聞きをしているという。ガス、というとガス漏れが恐いので風呂のボイラーの点検の打ち合わせをワイフと電話で行う様に依頼した。ガスレンジは最近買い換えたばかりなので問題はないが、風呂のボイラーは10年選手なので少し気になったからだ。
数日して東京ガスの点検が終わった。ワイフに聞くと「問題はない」ということだが、「10年経つといつおかしくなっても不思議わありません、念の為に買い替え機種の見積書を置いておきます」といって、早速見積書が届いたという話である。
私は東京ガスは優良業者だ、と思っている。先般のガスレンジの買い替えでも的確な判断と妥当な値引きで取り付けを行なってくれた。レンジの買い替えについては、最初新しくオープンしたイオン東久留米店がレンジ本体の安売りを行なっていたので、取付工事の見積を行なって貰った。ところが見積にきた下請けの担当者のレベルが低く、「設置済のガスの配管が邪魔をして、奥さんがご希望の引き出し式のレンジが導入できない」「私の仕事は設置費用の見積だけでトータル幾らになるかは分からない」というので、不愉快になり東京ガスに見積を依頼してみた。
東京ガスの対応は「配管の問題は簡単に処理でき引き出し式が導入できます」「設置費用はこれこれ、古いオーブンの撤去費用はこれこれです」「近々キャンペーンを実施する予定ですので、キャンペーン価格を適用してお安くサービスするべく上司に相談します」と極めて適切なものだった。
という経験から私は東京ガスは優良業者だ、と判断しているのである。また優良業者だから買い替えの押し売りはせず、見積書を置いていくにとどめたのだと判断している。
もし東京ガスが悪徳業者であり、あるいは万一東京ガスの担当者が不心得者であり「お宅のボイラー、このままですと直ぐにもガス漏れしますよ」なんて言われると、たちまち買い替えを迫られていたことになる。
私は東京ガスのような優良業者は悪徳セールスをしないと信じているが、一方仕組みとして「安全性をチェックする業者」と「新しい商品を販売する業者」が一緒ということにシステム的なリスクを感じていることも事実だ。つまり「新しい商品を売るために、現在使っている商品のリスクを顧客に強調するモチベーションが働く」リスクが制度的に存在する、ということである。
「無料点検」というのは、顧客に売り込む強力なセールスチャンスであり、無料は販売促進費で賄われているのだ、と喝破すべし。優良業者の東京ガスにおいてすら、制度的なリスクを内包しているのだから、世の中の「無料点検」「無料招待」などの無料はリスクの塊と考えておいた方が良いだろう。
先刻ご承知のことだが、ガスレンジのような古い機器の撤去など工事を伴う商品の購入では、商品価格の差より、工事費の差の方が大きくなる場合がある。トータルで幾ら?ということを的確に提示出来ないできない業者に発注するのはリスク(不確定要素が大きいという意味で)が高いのである。またCost overrunしないように釘を打っておくことは言うまでもない。安い見積で受注して、後から追加費用を請求するのも悪徳業者の常套手段だからだ。