IMFは今月15日にHow Inclusive is Abenomics?というワーキング・ペーパーを発表した。
「アベノミクスはどの程度包括的な経済成長に寄与しているのか?」という内容である。IMFはまとめとして「日銀のインフレ2%ターゲット政策は平均的な所得の増加にポジティブな影響を与えるが、所得格差の均衡という面ではネガティブな影響を与える。平均的な所得の増加と所得格差の均衡化という二つの政策目標を達成するには、労働市場の改善等の構造改革が必要である」と結論付けた。
労働市場の改善については、後程私の個人的見解を述べるが、その前にワーキングペーパーから幾つかグラフを拾ってみた。
まず日本はどれほど格差社会であるかを示すG7諸国とのジニ指数比較である(出所OECD)。
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上のグラフは「マーケット・インカム」(市場所得 税金・社会保険料控除前の所得)の不均衡さを示すグラフである。
25年前(2010年から見て)の日本のジニ指数は0.35とG7に較べて相当低かったが、現在は0.5とほぼG7諸国と同じになった。
社会の格差を図る尺度としては、ジニ指数の他相対的貧困率という尺度がある。相対的貧困率というのは、所得レベルの中央値の半分以下の所得層が全体に占める割合を指す。
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日本の相対的貧困率は約16%で、1位の米国とほぼ並ぶ水準で、G7の平均12%より4%高い。
もう一度ジニ指数に戻って、税金・社会保険を控除した所得再配分後すなわち可処分所得後のジニ指数を見てみよう。
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厚生労働省のデータを基にした上記のグラフは「所得再配分前と後の高齢者のジニ指数」だ。このグラフは所得再配分前は0.7と極めて格差が大きい高齢者の所得格差が、所得再配分により0.35程度まで下がり、高齢者層では格差が緩和されていることが分る。
下のグラフは勤労者層の所得再配分前と後のジニ指数のグラフである。勤労者層においても所得再配分効果でジニ指数は低下(すなわち格差は是正)しているが、その度合いは高齢者層に較べると小さい。
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IMFが示唆する日本の労働市場を改善する方策は、女性の雇用機会拡大と労働市場の二重性(正規社員と非正規社員の存在)の改善だ。だが二重性の改善への具体策まで提案はしていないようだ。
そこで私が働いていた経験を踏まえて、どうすれば労働市場の二重性を改善できるか?言い換えると何が労働市場の流動性を妨げているのか?ということを考えてみた。その要因は色々あるが、ここではまず「企業固有のお作法」ということを考えてみた。
「企業固有のお作法」とは、それぞれの企業が持っている意思決定の仕組み、コミュニケーションルール、文章作成基準などである。
どこの国でも「企業はそれぞれのお作法」を持っているが、私の経験では「日本企業のお作法」は他の国に較べて、個別性が強く、お作法になれるのに時間がかかるのである。
具体的な例を2,3挙げてみよう。例えばこれは私が実際経験した例であるが、私が昔勤めていた会社では部長クラス以上は別としてそれ以下のクラスでは「名前で呼ぶ」というのが一般的だった。ところがある日同業との合併が起こり、新しい仲間と一緒に働き始めた時、部下の人間を名前で呼んでいると「私、何か大きなミスでもしたのでしょうか?」と言われたことがある。どうもその会社では「名前+肩書」で人を呼ぶのが、お作法で「名前だけで呼ばれる」のは譴責される時という習慣があったようだ。
その他に箇条書きを作る場合の番号の付け方、決裁印の並べ方(右に起案者が来るか?左に起案者が来るか?)など色々細かいことが、企業によって異なるのである。
就業規則などというのも企業の個別色が強い。
このような「企業のお作法」が一つの見えざる壁になっているのではないか?と私は考えている。もしこれから日本企業が海外からの移住者を含めて、多様な労働力を活用することを本気で考えるなら、まずお作法の見直しを考えるべきだろうと感じているのである。
以上のことは、私が非常に保守的で古い会社に勤めていて感じたごく個人的な体験によるもので、若くて新しい会社では、そんなことはとっくにやっています!というご批判・ご反論があれば、それは非常に心強いことだと思う。
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