金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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銀行ATMというガラパゴスの行方

2015年03月15日 | 投資

昨日(3月14日)WSJは「日本の大手行がATMを外国人が使えるようにする方向で動いている」という記事を書いていた。

記事によると日本を訪問する外国人旅行者が一番悩むことが、銀行ATMから自分の持っているキャッシュカードで現金を引き出せないことだ(セブン銀行など一部の例外はあるが)。

日本の銀行のATMシステムは、日本以外の世界的なシステムから隔離されて純粋日本仕様になっている点で携帯電話と並んで「ガラパゴス」の典型だ。

2020年のオリンピックを控えて、政府は過去数年間銀行に、ATMで外国のキャッシュカードを使えるようにして欲しいと要望を強めてきたが、銀行は中々思い腰を上げなかった。

銀行が腰を上げなかった理由は明快だ。ATM利用料によって、投資を回収することが極めて難しいからである。海外カードを受け付けるようにするための開発コストは「ATM1千台で数十億円かかる」というのが事情通の見解だ(WSJによる)。

それでも大手行は重い腰を上げて、一部のATMで海外キャッシュカードを受け付ける計画を発表している。

WSJによると、三井住友銀行は6千台のATMの内1千台を2017年3月までに海外キャッシュカード対応にすると言っている。また東京三菱UFJは今年8千3百台のATMの内1千台を海外キャッシュカード対応にすると言い、みずほ銀行は5,600台のATMの内今年の早い時期に100台を海外カード対応にすると言っている。

銀行がATMを運用するコスト負担は大きい。恐らく最大のランニングコストは現金の搬送コストだ。銀行ATMは、銀行にとって赤字分野である。

WSJはNTTデータ経営研究所・上条洋マネージャーの「ATM運営は銀行にとってコスト負担が大きいので、銀行はATMをコンビニに任せて自らは撤退しようと考えているだろう」という言葉を紹介している。

ATMはAutomated Teller Machineの略。つまり以前は銀行窓口でテラーに依頼していた業務を、機械を通じて顧客が自ら行えるようにしたものである。日本の銀行ATMが他の主要国のATMに較べて複雑になっているのは、通帳記帳機能だろうと私は考えている。

コンビニエンスストアのように、色々な銀行顧客が使うことを前提にしたATMでは通帳記帳機能がない。だから個々の銀行ATMよりコストは安いはずだ。

銀行が預金業務の管理コストを本気に下げることを考えるならば、普通預金の通帳を廃止し、ステートメント(月次異動明細)の郵送・インターネット取り込み方式に変えることだろう。ネットバンク等元々支店がない銀行では、当然通帳はなく、総てステートメント方式で特に違和感はない。だが店舗を構える昔からの銀行は無通帳の普通預金を導入しているところもあるが、ユーザは多くないと思う。

無通帳預金者にポイント還元などのインセンティブを与えて、あるいは通帳利用者から通帳発行料を取って(これはまず不可能だろうが)、普通預金の無通帳化を進めることが、預金業務のコスト改善の要(かなめ)だろう。

通帳がなくなれば、銀行窓口の仕事はかなり減る。海外ではATMやインターネットバンキングで銀行店舗の閉鎖が増えているというニュースを耳にする。日本の銀行がATMやインターネットバンキングのメリットを最大に活用しようと考えていないのは、銀行の支店を残すことが大事と考えているからなのかもしれない。

 ★   ★   ★

最近出版した電子本

「インフレ時代の人生設計術」 B00UA2T3VK

「人生の山坂の登り方・降り方」 http://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00LYDWVPO/

「英語の慣用表現集」 http://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00LMU9SQE/

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日経平均15年ぶりの19,000円超え

2015年03月14日 | 投資

昨日(3月13日)日経平均株価は15年ぶりに、19,000円を超えて19,254.25円で引けた。現在米国株は、連銀の政策金利引上げ予想やドル高で輸出産業の業績が悪化するとの見通しから、ボラタイルな動きになっている(ドル高→米国株安の逆相関関係は0.9以上)。アジア株もぱっとしない中ほぼ一人元気なのが日本株だ。

理由は明快で、GPIFやGPIPのポートフォリオに追随する年金基金等が国債から株式に資金をシフトしているからだ。

昨年までの株高は主に円安要因によるところが多かったが、今年に入って様相は変わっている。今年に入ってドルは円に対して1.4%の上昇にとどまり、ユーロは円に対して11%下落している。一方日本株は年初来10.3%上昇している。

WSJによると日経平均を押し上げた要因の一つはファナックが自社株買いや増配によって株主還元を拡大すると発表したことで、同社株が13%値上がりしたことだった。またオフィスビルの空室率が20ヶ月連続で低下して、5.31%になったことで、三井不動産や三菱地所の株価が上昇したことも、株価押し上げ要因だった。

日経新聞によると、現在の日経平均のPER(株価収益率)は17.21倍だ。これは米国ダウ30社の平均PER17.3倍とほぼ拮抗する水準だ。証券会社の間では日経平均2万円が視野に入ってきたなどと威勢の良い声が出ている。2万円となるとPERは17.9倍だ。

かなり割高な感じがするが、割高でもついて行くのが、相場に入っている人の心理だ。

WSJはMore people are afraid to sell stocks for fear of either getting left behind or run over.というあるヘッジファンドマネージャーの言葉を紹介していた。

相場の上昇時期は、そのようなものなのだろうが、気になるのは日本人は「過剰に同調する」傾向が強いということだ。

今の株価水準を正当化する具体的な成長戦略を早く見たいと思う。

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身近で起きたオレオレ詐欺(未遂)事件

2015年03月13日 | うんちく・小ネタ

NHK総合チャンネルで毎夕6時40分頃から、橋本アナウンサーが警戒を呼び掛けているオレオレ(振り込め)詐欺事件対策。しかし減らないどころか、被害金額は史上最悪レコードを更新しているようですね。

このオレオレ詐欺、被害に遭うのはご高齢の方か?と思っていましたが、つい最近私より少し若い男性の友人が、もう少しで被害に遭うところだったという話を聞きました。この友人は現役で働いている人ですから、高齢者でなくても、誰しもが被害に遭う可能性があるのだな、と認識を新たにした次第です。

話のあらすじはこんなことでした。

ある日友人の携帯電話に息子さん(と名乗る男)から「上司と衝突して少し落ち込んでいる。落ち込んでいたためか、トイレに携帯電話を落としてしまい、電話番号を変えたので、新しい電話番号に上書きして欲しい」という電話がありました。友人は息子さんの声が少し低いな、と思ったそうですが、落ち込んでいるからなのだろうと判断して、電話番号を上書きしました。

それ数日後、また息子さん(と名乗る男)から、「会社の経理担当の友人と二人で株式相場を張っていたが、損を被り会社の金に手を出してしまった。近々監査が入る見込みなのでそれまでに穴埋めをしたい。親父、少し助けてくれ」という電話が入りました。

友人がいうのには「息子が相場を行っていることは以前聞いたことがあるので、話をすっかり信じてしまった」ということです。息子(と名乗る男)は「すぐにでも自宅にお金を取りに行きたい」と言ったのですが、友人は「手元に大金はおいていないので、銀行から振り込む」と言って、押取り刀で銀行に出かけたそうです。

銀行の窓口で大金を送金しようとすると窓口の女性が「オレオレ詐欺の可能性がありそうですね。再度息子さん(と名乗る男)に電話して、本人でないと分らないことを尋ねてみてはどうでしょうか?」とアドバイスしてくれました。

そこで友人は息子さん(と名乗る男)に電話をして「生年月日を確認」したところ、プチと切られてしまったということです。こうして友人は被害を免れることができました。

幾つかの教訓があると思います。

第一に「携帯電話を通して、息子さんの声を識別することはできない」ということです。

第二に「人間はヒューリスティクスの影響で、合理的な判断ができなくなる場合がある」ということです。ヒューリスティクスHeuristicsとは「発見手法」「経験則」という意味ですが、行動経済学では「不確実なことがらに対して判断を下す必要がある時、明確な手がかりがない場合に用いる便宜的な方法」という意味で使われます。

もう少し説明すると、人間は二つの情報処理システムを持っていて、システムⅠは「直観的、感情的、迅速で労力のかからない」判断システムです。もう一つのシステムⅡは「分析的、統制的、労力を要する」判断システムです。

私が想像するに、この時友人は「息子さんが相場を行っている、という一つの情報に依拠して、損をして会社のお金に手を着けることもありうる」と直感的な判断を下したのではないか?と推測しています。

私自身はオレオレ詐欺的なものに遭遇したことはありませんが、山道を歩いている時などに、「若い時に較べて、道迷いをするリスクが高まっているな」と感じることがあります。幸いなことに今のところ直ぐに気がついて余り大きな問題には至っていないのですが、脳が疲れることを嫌がって、統合的な判断システムではなく、直観的な判断システムを使うため、このようなことが起きるのではないか?と考えています。学問的根拠はありませんが。

仮に私の仮説が正しいとすると、中高年登山者に道迷いが多いことと中高年がオレオレ詐欺に遭うことが多いということには、共通点があるということになります。

何か難しい判断を行う時には「今自分はシステムⅠを使っているのかシステムⅡを使っているのか?」と自問すると良いかもわかりません。もっとも傍目(おかめ)八目的な話でその場で自分が冷静は判断ができるという自信はありませんが。

 

 

 

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「みちのくの仏像」特別展を見て

2015年03月12日 | うんちく・小ネタ

ワイフと上野の国立博物館で「みちのくの仏像」特別展を見てきました。一番のお目当ては会津・勝常寺の薬師如来像に再会することでした。勝常寺は数年前の夏、尾瀬から安達太良山にドライブ旅行に行った時、たまたま立ち寄った会津盆地の中の古刹です。事前予約をして置かないとご本尊の拝観はできないと聞いていたので、携帯電話で連絡をとり、拝観がかないました。堂守をされていた年配の女性の方が懐中電灯の光を薬師如来のご尊顔に当てられたので、お顔をよく見ることができたのですが、多少違和感を覚えたことを記憶しています。

その薬師如来像(国宝)は穏やかさと威厳を備えられ、改めて素晴らしいと感じました。勝常寺が建立されたのは、平安初期の頃。当時の感覚でいえば、都から遠く離れた会津盆地の中にこのような素晴らしい仏様が拝まれていたことに少し感動します。立派な伽藍が建立され、素晴らしい仏像が作られたことは、会津に相当な経済力があったことと都との太い交流パイプがあったことを意味します。

さてもう一つ今回の特別展で印象に残ったのは、秋田・小沼神社の「聖観音菩薩立像」でした。「なぜ神社に観音様?」と疑問に思ったので、今朝インターネットで調べてみると大変参考になるブログに出会いました。http://kanagawabunkaken.blog.fc2.com/blog-entry-74.html

そのブログによると「小沼神社はもともと小沼観音堂と呼ばれた神仏習合のお寺」で、土地の人々から「カミとしてホトケとして」信仰されていたようです。そして村人達の必死の努力により、廃仏毀釈の嵐の中、守り抜かれたそうです。

廃仏毀釈運動とは、元々「カミとホトケを分ける」神仏分離令(慶応4年の太政官布告)に端を発します(明治維新以前にも廃仏毀釈の動きはありましたが)。

しかし仏教で「カミとホトケ」を分けることは元々無理があるような気がします。なぜなら広い意味での仏様は、如来・観音・明王・天に分けることができますが、天(帝釈天や吉祥天など)は、明らかにヒンドゥー教の神様だからです。さらに日本の神様の一部が取り込まれたのが、日本の仏教体系です。これらの神様達は如来様のように悟りを開いていませんから、仏教では一段下に見られていますが、身近なところで私たちの暮らしと仏法を守護する役割を与えられていたと昔の人は考えていたのでしょう。

宗教=Relegionというキリスト教的な枠組みで考えると日本の仏教の境界線は非常に曖昧に見えますが、たとえばヒンドゥー教的な定義で宗教を考えると明治以前の日本の仏教の違った輪郭が見えます。

正月は神社に初詣、お彼岸はお寺に墓参りというと、宗教的に無定見だと感じる人がいるかもしれませんが、初詣・墓参りをひっくるめて日本教(ヒンドゥー教はインドの宗教という意味だそうです)と言ってしまえば、日本人もちゃんとした宗教を持っているという見方ができるのではないか?などと考えています。

 

 

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昨日の日本株予想、見事に外れました

2015年03月12日 | 投資

昨日(3月11日)朝、ブログで「今日は日本株は下げるだろう」と書きましたが、見事に外れました。日本株が下げる、という予想は前日米国株が政策金利引き上げ懸念等から大幅下落してので、日本株も下げると判断したのですが、見事に外れました。

オープニングではTOPIXは、9.23ポイント下げたのですが、その後上昇に転じ、結局前日比0.92ポイント高の1,525.67ポイントで引けました。

上昇原因はよくわかりませんが、昨日は日銀のETF買い入れはありませんでした。過去のデータを見ると、日銀がETFを購入しているのは前日に較べ、寄りつきの株価が下がっている日に買っている割合が76%を占めています。

3月に入って日銀は、3月3日、4日、9日に各々352億円づつETFを購入しています。その内4日と9日は寄りつきが前日比マイナスとなった日でした。

証券会社のエコノミストの間では、2%の物価上昇目標の達成が遅れているため、更に積極的なETFの購入を進めるという観測が広がっていて、株式市場の需給に強いインパクトを与えているということです。

しばらく日本株は米国株との連動を離れ、堅調に推移するのでしょうか?

ところで昨日の私の判断の誤りは、行動経済学的で「ヒューリスティック」(便宜的な方法)による誤りだったといえるかもしれません。

ヒューリスティックは、不確実なことがらに対して判断を下す必要がある場合、明確な手がかりがないので、過去の経験等便宜的な方法によること、と説明されます。

もっとも日銀が過去に例のないETF買い増しに向かうことが、中期的に経済全体にとってプラスなのか?どうかはわかりませんが、事実は事実として素直に受け入れるべきなのでしょうね。個人投資家としては。

そんな初歩的な過ちをしながら、厚かましくも最近「インフレ時代の人生設計術」ASIN: B00UA2T3VK

という電子本をKindleで出版しました。本の中で行動経済学的に見た犯しやすい過ちについても説明しているのですから汗顔の至りと反省している次第です。

 

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