前のブログでアメリカのインフレ問題の焦点はコモディティ価格の上昇から賃金上昇問題に移っていくのではないか?と書いた。
勤労者の賃金が上昇するのは、雇用市場で求人数が求職者数を上回っているからである。端的にいうと企業が高い賃金を払ってでも必要な人材を確保しようと考えるからである。一方労働者もこの流れを利用して、少しでも実質賃金が高い雇用先に転職する傾向を強めている。
Rew Research Center のHPにMajority of U.S. Workers Changing Jobs are seeing Real wage Gainsという記事がでていた。多くの転職者は実質賃金の上昇を得ているという内容だ。
記事によると「大辞職時代」は2022年も継続し、辞職率は1970年代並みに高い水準に達している。今年1月から3月の平均離職率は月2.5%頭数にして約4百万人だ。単純に年率換算すると離職率は年30%に達し、その数は48百万人になる計算だ。
2021年4月~2022年3月の間に転職した人の60%は実質賃金が上昇した。一方この間に転職しなかった人で実質賃金が上昇した人は47%に留まった。もっともその前の1年間(20年4月~21年3月)については転職組で賃金が上昇した人は51%で転職しなかった人は54%と若干ながら転職組が不利だったが。
いつまでこのような傾向が続くか分からないが、パンデミックを理由に労働市場から出ていく人もいるので、当面求職者側有利なマーケットが続く可能性が高そうだ。
ところで日本の正社員の転職率については2021年で7%というデータをマイナビが示している。6年間で過去最高ということだ。
賃金もモノの値段やサービス価格と同様、基本的には需要と供給で決まっていく。ある会社が非効率な経営の結果、従業員の賃金を上げることができない状態にあったとしよう。そこに新しく参入してきた会社が効率的な経営や画期的なマーケッティングを行うため既存の会社から優秀な社員を高い給料で引く抜くような動きをすれば、賃金の上昇と業界の生き残り競争が激しくなるはずだ。
これがアメリカの社会。一方転職リスクを取らない社員が多く、賃金も上がらず、業界の競争も激しくならないのが日本の社会だ。賃金水準の引き上げと競争による経済活性化を推進することを是とするならば、転職を容易にする各種の施策を講じるのが良いということになるだろう。