日本の金融は何年か遅れで米国を追いかけている。米国で発達していて日本で遅れていたものが、クレジットカード決済だったがようやく拡大に兆しが見えてきた。ウオール・ストリート・ジャーナルは11月6日に「日本で銀行と消費者がプラスチック(クレジットカード)に傾いてきた」という記事を書いている。
実は私は12月にある雑誌に「電子マネーの離陸」(仮題)という記事を掲載する予定である。この小論文の一つの論点は「JR東日本・ドコモ・大手銀行などは電子マネーを尖兵としてカードビジネスの拡大を図る」というものだ。カードビジネスを巡っては銀行VS銀行よりも、銀行VS巨大顧客データベース会社(ドコモ・JR東日本)あるいは巨大顧客データベース会社間の戦いが始まろうとしている。
ところで私が評価しているクレジットカード(イシュアー)は、シティバンクとJR東日本だ。何故かというと前者はもしフルに使うと返済に困る程にクレジット・リミットを勝手に引き上げて連絡してくれる。その思いっきりの良さがいい。それと最近は海外出張や旅行が減ったが海外で何かと心強いカードである。後者はスイカと一体になっているので毎日携帯している。貯めたポイントも電子マネーに振り返ることが出来るのでとても経済的だ。
さて記事のポイント。
- 日本の銀行は長い間カードビジネスを無視してきたが、今その拡大に力を入れている。このためクレジットカードの利用が拡大している。アメリカン・エクスプレス社によれば、米国では消費支出に占めるカード決済の比率は約25%で日本では8%である。またVISAカードによれば昨年米国では平均して4,135ドルのカード支払請求があったが、日本では1,500ドル相当だった。
- しかし今カードビジネスは日本で離陸しつつある。政府データによると2006年3月期に日本の消費者は24.3兆円のカード支払を行なったが、これは前年比14%の増加である。増加率は05年3月期が10%で04年3月期が6.4%だった。
- この成長は部分的には消費者の習慣の変化による。オンラインショッピングの人気が高まり、若者層がクレジットカードを歓迎している。また日本の従来低かった犯罪率が増加しているので現金の携行リスクが高まった。
- もう一つの理由は三菱UFJやみずほといった大手行が不良債権の処理を終え、成長の資源を求めだしたことである。企業与信が伸びないことで、銀行はかっては預金取引しかしなかった個人客に焦点をあて始めている。そして住宅ローンや投資信託、クレジットカードをシャワーのように投入している。クレジットカードが日本の銀行の収益に占める割合は小さい。三菱UFJでクレジットカードを含む消費者金融ビジネスの総収入に占める割合は7.8%である。これに較べてバンクオブアメリカでは、総収入の17%がクレジットカード関連業務から得られている。(2005年度)
- 日本の銀行がクレジットカードビジネスを推進するので、VISAやマスターカードといった米国のクレジットカード会社(正確には「ブランド」)が利益を得ている。アメリカンエクスプレスは昨年全世界で消費者の支出が16%増えた。日本の成長率について同社は正確な数字を公表しないが、経営陣によると年率20%から25%で拡大している。
- みずほはクレジットカード事業拡大の先端を行く。みずほは過去2年間でATMカードと一体化したクレジットカードを約2百万枚発行した。これは顧客の反対がない限り新ATMカードにクレジットカード機能を付加したもので、基本的サービスについて年間手数料は無料である。銀行の一つのゴールはクレジットカード発行のサインをしたがらない高齢者層の手にクレジットカードを滑り込ませることにある。みずほ銀行は「クレジットカードがATMカードと一緒になると、高齢の顧客でもサイフの中にカードを入れて携行し始める」「これは我々に新しい市場を開く」と言う。またみずほはカード利用の頻度を高めるため、顧客が最低月一回カードを利用すると、ATMにおける幾つかの取引手数料(送金等か?)を免除している。三菱UFJは電子マネーと一体化したATMカードの発行を始めた。
- もっともチャレンジは続く。それはリボルビング決済が日本では低いことだ。米国や他の幾つかの国ではリボルビングが銀行の主な収入源になっているが、日本ではリボルビングの利用は1割よりかなり低い。
ということだが、消費者の観点からいうとリボルビングは金利が高いので出来れば避ける方が賢明である。高額の買い物や海外旅行をする場合、リボルビングが便利に見えるができればそれ以外のファイナンスソース(例えば定期預金を崩すとか金利の低い担保付借入を使うとか)を使う方が賢明だろう。
それはさて置き『使われる一枚』のカードになるべく、銀行やその他カード会社が工夫をし始めた。消費者が賢い選択をするチャンスは広がっている。そして旧態然としたサービスしか提供できないカード会社や銀行にとっては厳しい淘汰の時代が始まろうとしている。