金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

クレジットカード事業、日本で拡大中

2006年11月07日 | 金融

日本の金融は何年か遅れで米国を追いかけている。米国で発達していて日本で遅れていたものが、クレジットカード決済だったがようやく拡大に兆しが見えてきた。ウオール・ストリート・ジャーナルは11月6日に「日本で銀行と消費者がプラスチック(クレジットカード)に傾いてきた」という記事を書いている。

実は私は12月にある雑誌に「電子マネーの離陸」(仮題)という記事を掲載する予定である。この小論文の一つの論点は「JR東日本・ドコモ・大手銀行などは電子マネーを尖兵としてカードビジネスの拡大を図る」というものだ。カードビジネスを巡っては銀行VS銀行よりも、銀行VS巨大顧客データベース会社(ドコモ・JR東日本)あるいは巨大顧客データベース会社間の戦いが始まろうとしている。

ところで私が評価しているクレジットカード(イシュアー)は、シティバンクとJR東日本だ。何故かというと前者はもしフルに使うと返済に困る程にクレジット・リミットを勝手に引き上げて連絡してくれる。その思いっきりの良さがいい。それと最近は海外出張や旅行が減ったが海外で何かと心強いカードである。後者はスイカと一体になっているので毎日携帯している。貯めたポイントも電子マネーに振り返ることが出来るのでとても経済的だ。

さて記事のポイント。

  • 日本の銀行は長い間カードビジネスを無視してきたが、今その拡大に力を入れている。このためクレジットカードの利用が拡大している。アメリカン・エクスプレス社によれば、米国では消費支出に占めるカード決済の比率は約25%で日本では8%である。またVISAカードによれば昨年米国では平均して4,135ドルのカード支払請求があったが、日本では1,500ドル相当だった。
  • しかし今カードビジネスは日本で離陸しつつある。政府データによると2006年3月期に日本の消費者は24.3兆円のカード支払を行なったが、これは前年比14%の増加である。増加率は05年3月期が10%で04年3月期が6.4%だった。
  • この成長は部分的には消費者の習慣の変化による。オンラインショッピングの人気が高まり、若者層がクレジットカードを歓迎している。また日本の従来低かった犯罪率が増加しているので現金の携行リスクが高まった。
  • もう一つの理由は三菱UFJやみずほといった大手行が不良債権の処理を終え、成長の資源を求めだしたことである。企業与信が伸びないことで、銀行はかっては預金取引しかしなかった個人客に焦点をあて始めている。そして住宅ローンや投資信託、クレジットカードをシャワーのように投入している。クレジットカードが日本の銀行の収益に占める割合は小さい。三菱UFJでクレジットカードを含む消費者金融ビジネスの総収入に占める割合は7.8%である。これに較べてバンクオブアメリカでは、総収入の17%がクレジットカード関連業務から得られている。(2005年度)
  • 日本の銀行がクレジットカードビジネスを推進するので、VISAやマスターカードといった米国のクレジットカード会社(正確には「ブランド」)が利益を得ている。アメリカンエクスプレスは昨年全世界で消費者の支出が16%増えた。日本の成長率について同社は正確な数字を公表しないが、経営陣によると年率20%から25%で拡大している。
  • みずほはクレジットカード事業拡大の先端を行く。みずほは過去2年間でATMカードと一体化したクレジットカードを約2百万枚発行した。これは顧客の反対がない限り新ATMカードにクレジットカード機能を付加したもので、基本的サービスについて年間手数料は無料である。銀行の一つのゴールはクレジットカード発行のサインをしたがらない高齢者層の手にクレジットカードを滑り込ませることにある。みずほ銀行は「クレジットカードがATMカードと一緒になると、高齢の顧客でもサイフの中にカードを入れて携行し始める」「これは我々に新しい市場を開く」と言う。またみずほはカード利用の頻度を高めるため、顧客が最低月一回カードを利用すると、ATMにおける幾つかの取引手数料(送金等か?)を免除している。三菱UFJは電子マネーと一体化したATMカードの発行を始めた。
  • もっともチャレンジは続く。それはリボルビング決済が日本では低いことだ。米国や他の幾つかの国ではリボルビングが銀行の主な収入源になっているが、日本ではリボルビングの利用は1割よりかなり低い。

ということだが、消費者の観点からいうとリボルビングは金利が高いので出来れば避ける方が賢明である。高額の買い物や海外旅行をする場合、リボルビングが便利に見えるができればそれ以外のファイナンスソース(例えば定期預金を崩すとか金利の低い担保付借入を使うとか)を使う方が賢明だろう。

それはさて置き『使われる一枚』のカードになるべく、銀行やその他カード会社が工夫をし始めた。消費者が賢い選択をするチャンスは広がっている。そして旧態然としたサービスしか提供できないカード会社や銀行にとっては厳しい淘汰の時代が始まろうとしている。

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中国は本当に過剰投資なのか?

2006年11月07日 | 国際・政治

エコノミスト誌は最近「中国は一般に信じられている程過剰投資ではない。それは統計数値が間違っているからだ」という小論文を発表した。ここで展開されているロジックは一般に公開されている数字とごく基本的なマクロ経済理論だけで組み立てられている。こういうすっきりした論文を読むと気持ちが良い。

  • 多くのコメンテーターは中国の設備投資は過大で、早晩、資本投資の急激なスランプが経済をクラッシュさせると信じている。政府の統計によると中国の設備投資はGDPの45%以上になる。これは先進国の平均値21%に較べるときわめて高いし、1997年の東アジア危機以前の同地域の平均に較べても高い。
  • しかし統計数値に関する推理を行なうとこれらの数値が正しくなく、もし正しく計測するなら、設備投資は相当低くなることが分かる。従って中国の設備投資のGDPに占める割合は他の大部分の国に較べると高いものの、警告のレベルは低くなる。
  • 中国の公式数値は以下のようなことで精査することができる。

     * GDP成長率と固定資産投資に使われる数字の互換性がない。もし設備投資がGDPの45%を占め、設備投資の年間増加率が25%とすると、設備投資だけでGDP成長率を11%押し上げることになる。(45%×25%=11%) しかし政府統計によると、この他に消費と純輸出が6%貢献している。ということはGDP成長率は現在の10%ではなく、17%ということになる。しかしこれはGDPに対する設備投資の割合が過大に計算されている可能性の方がはるかに高い。

  * 理論的に投資と貯蓄の差は経常収支であり、昨年中国の経常収支はGDPの7%だった。もしGDPに対する設備投資率を45%とすると貯蓄率は52%になる。しかし多くの研究はもっと貯蓄率を低く見積もっている。世界銀行の最近の白書は中国の貯蓄率を44%と示唆している。もし、この数字が正しいとするとGDPに対する設備投資比率は37%になる。

  • これらのことからゴールドマンザックス香港のエコノミストは中国の設備投資の水準と成長率は過大に計上されていると結論付けている。これは本来設備投資に含まれない土地の売買代金が参入されていることによる。これと同時に消費支出は過小計上されるが、恐らく消費の過小計上は投資の過大計上より多いだろう。このことはGDP自体が過小計上されていることを示唆する。もし投資が少なくGDPが大きいとすれば、設備投資の実態はGDPの36-40%程度だろうと前述のアナリストは言う。
  • この水準にしても他国と比較すると相当高い。もし中国が莫大な過大投資を行なっていたとするならば、資本に対するリターンは低下するはずである。しかし世界銀行が最近指摘している様に投資ブーム中、中国の企業の利益率は上昇している。
  • もう一つの投資効率を図る尺度は、限界資本生産性比率(ICOR: Incremental Capital-Output Ratio)である。これは追加的な1単位の生産を得るためにどれだけ投資を行なう必要があるかを示すもので、年間設備投資額をGDPの年間増加額で除して算出する。この数値は中国では1990年初頭以来3%から5%に急速に上昇している。言い換えると中国では今追加的な1ドルの生産物を得るために以前は3ドルで済んだ設備投資を5ドルにする必要があるということだ。多くのコメンテーターはこれをもって投資はより低いリターンしか生まないし、中国のICORはインドよりも高いと言う。
  • しかしICORは時系列的なあるいは異なる国の投資効率を測定する上で、不十分な尺度である。まず既に述べたとおり中国の投資が過大に計上されている。第2の問題は経済が発展し、資本集約的になると経済成長を支えるために、より多くの投資が必要になるという点だ。更に中国の急速な経済成長は道路、港湾、住宅への多額のインフラ投資を必要としていることだ。これは短期的な投資リターンを低下させる傾向がある。インフラ投資は工場への投資に較べて効果の発現に時間がかかるからだ。
  • 最後に比率は減価償却を無視したグロスベースで計算されていることだ。中国の投資の大きな部分は計画経済時代に創設された質の低い産業基盤をリプレースするものである。前述のゴールドマンのエコノミストによれば中国の近年のネットベースの平均ICORは他の国より低い3.1だという。
  • これは中国のあるセクター、例えば鉄鋼とか自動車が過剰投資であるということを否定するものではない。幾つかのプロジェクトは上手く機能しないファイナンスシステムや政府の干渉のため利益がでない構造になっている。しかし中国の投資ブーム全体を「やがてはじけるバブル」として簡単に片付けることは恐らく間違っているだろう。
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