今朝(11月17日)コンサル会社に勤めている会社のOBから電話があり「日本進出を考えているドイツの銀行から聞かれたのだけれど、外銀が邦人スタッフを雇う相場はどれ位だろう?」と聞いてきた。最近私の友人が外銀に転職したので情報を持っているのではないか?と思ったとのこと。転職した友人とは極親しい仲でもペイの話はしていないので、余りお役に立てなかったが少し雑談をして電話を切った。その後「まだこれから日本に進出する外銀があるのだろうか?これから来てまだオイシイ商売があるのだろうか?」と疑問に思った。そして今銀行を出すなら中国だろうと思いながら、シティバンクが広東発展銀行(GDB:Guangdong Development Bank) に出資するディールを勝ち取った記事を読んだ。
ウオール・ストリート・ジャーナルとエコノミスト誌の記事のポイントをまとめると次のようなことだ。
- 16日の夜、シティバンクとIBMを含むパートナーは、広東発展銀行(GDB)の株の85.6%を31億ドルで取得する合意に至った。この中国史上最大の企業買収は1年の交渉を要した。GDBは中国27州に500の支店を持っているのでシティは中国のリテイル市場に大きな足がかりを持つことになる。
- GDBの資産内容は悪い。会計監査を受けている2003年の会計報告書によると不良債権は22%だが、チャイナ・デイリィによると2005年には不良債権は25%になっている。これは資産の一層の悪化を示唆している。現実的にはGDBは資産価値がないか負の価値しかないだろう。GDBのビッドで初期の段階で負けた買い手の弁護士は「これは銀行の買収ディールではない。中国のディールだ」と言う。シティバンクとそのパートナーは「資産ではなく機会」を買った訳だ。
- このディールでは「買収後GDBの帳簿から予想外の不良資産が発見された場合売り手にリコースする(損害を請求する)」という規定が入っていない(これは新興国のディールでは通常入る)
これを読んで私はこの裏にある中国政府とシティとの交渉を色々想像した。中国政府は自国の銀行に対する外資の投資を合計25%以下、一株主最大20%以下に規制している。このディールでもシティは20%、IBMは4.7%の保有比率で、残りは中国側のパートナー中国国家電力公司などが持分を保有する。しかしシティがマジョリティを握りたいと考えていることは確実でこれらの契約条項の裏には色々な駆引きがあったのだろう。また今後シティが中国側パートナーの持分を買取ることがあるかもしれない。中国政府にとっては現在価値のない株を高く売りかつシティの力で傷付いた銀行の修復を行なうことができるのでプラスの多いディールを引出たと思うがどうだろうか?
5年前にWTOに加入した義務として中国政府はこの12月に外銀に対して市場開放する。12月11日には「外国銀行管理条例」が発表される予定だ。中国の銀行には2兆ドルの預金があるがこれを狙う外銀が外貨預金や色々な運用商品を売り込もうと今必死になっている。中国への進出方法は色々でバンクオブアメリカは30億ドル出して中国建設銀行に9%の出資を行なっている。
余談になるが、中国の外銀への門戸開放がプラスに働いたのか私が小金を投資している香港の東亜銀行の株価が好調だ。数ヶ月前に一株32,3ドルで購入していたが最近40ドルを越えてきた。これはABMアムロが東亜のターゲット株価を45ドルに引き上げたこともプラスに働いている様だ。これはうれしい話なのだが、この間にはるかに大きな投資を行なっている日本の銀行セクターは三菱UFJを筆頭に滅茶苦茶に下落しているのでポートフォリオ全体としては大変なマイナスになり意気消沈気味だ。私がもしもう少し大胆であれば邦銀株を叩き売り香港や中国の銀行に賭けて一儲けしたかもしれないのだが。
いや、すっかり余談になった。しかし邦銀大手の株価が下落している理由の一つには中国という世界最大のポテンシャルを持つ市場へ参入できる時期が来ているのに有効な戦略が立てられない邦銀の不甲斐なさに対する苛立ちがあると思われる。10年後20年後の世界の金融機関の収益を左右するのは中国とインドであることは間違いないが、邦銀はその入り口で決定的な遅れを取ってしまったのではないだろうか?
さてシティが問題の多いGDBを建て直し中国進出のプラットフォームとすることができるかお荷物を背負い込むことに終わるか?エコノミスト誌は「ロングマーチ(長征)の始り」と書き、ウオール・ストリート・ジャーナルは「米銀が中国で最も弱い銀行を立て直すという気概をテストするものだ」と書いた。シティと組んだIBMは最新の情報技術を持ってGDBの建て直しに手を貸す(無論儲けも得る)だろう。
私はシティのチャレンジに声援を送りたい。金融とは市場で株や債券を売買したりM&Aで会社を売ったり買ったりするだけのものではない。町々に支店を作り、ローンや運用商品を効率的に販売してきちんとリスクを管理していく実態のある仕事なのだ。シティバンクが中国の中にこのような金融の秩序と規律を作る仕事を担うとするとそれは極めて意義のある仕事だ。シティのチャレンジを応援したい。