金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日経のFT買収は高い買い物

2015年07月24日 | ニュース

今日(7月24日)の日経新聞朝刊1面は同社のFT買収の記事だ。日経新聞によると同社はファイナンシャルタイムズFTを発行する会社を親会社のピアソン社から884億ポンド約1,600億円で買収した。

日経新聞には買収の裏話は出ていないので、まず裏話をブルンバーグの記事から紹介しよう。

  • 海外メディアの買収で多角化と英語圏における権威を得ようとする日経新聞は数年前からピアソン社にFTを買収したいとアプローチしていた。だがピアソン社はFTは売り物ではないとすげなく断っていた。
  • しかしピアソン社のファロン社長が方針を変えたことで、買収競争は急展開した。
  • FT買収には、日経、ドイツのメディア・アクセル・シュプリンガーなどが手をあげた。その中でトップランナーはアクセル・シュプリンガーだった。
  • ピアソン社が提示したFTの売却価格は8百億ポンドで、ピアソン社とアクセル・シュプリンガーの間で秘密裏に買収交渉が進んでいたが、今週月曜日にブルンバーグ社がそのことをすっぱ抜いた。
  • 昨日(木曜日)の朝までアクセル・シュプリンガーは最も有利な位置にいた。FTのジャーナリストたちはツイッターで、ドイツの習慣について冗談を飛ばしていた。
  • しかしアクセル・シュプリンガーがFTを買収するというニュースが報じられる1時間前に日経新聞は買収金額を約1億ポンド上乗せし、8億8千8百万ポンドとするオファーを出して、ディールを逆転した。

日経新聞側の買収アドバイサーはロスチャイルドのバンカーたちで、リーガル面をアドバイスしたのは、スカデン・アルプスだった。記事によると日経新聞は競争相手が誰かそしてどれ位いるのか知ることなく買収価格をしばしば引き上げてきたという。

企業の買収価格が高いか安いかは、買収価格が企業収益の何倍であるかで判断する。ブルンバーグによると日経新聞によるFTの買収価格は営業収入の35倍だった。アマゾンが2014年にワシントン・ポスト紙を買収した時の価格は企業収益の17倍だったから海外メディアの間では「高い買い物」という声が上がっている。

FTの買収価格の水準は概ねニューズコーポレーションが、WSJを2007年に買収した水準に匹敵するようだ。なおニューズコーポレーションは買収後数年で買収価格の半分を評価損として計上せざるを得なかった。

営業利益を買収価格で割ると利回りがでる。1÷35=2.8%だ。単純に考えても高い買い物に見える。

FTを売却したピアソン社の心理に立ち入ってみよう。

ピアソン社はFTを紙ベースの出版社からデジタル・ベースの新聞社に切り替えるために長年努力をしてきた。それでもなおFTを売却することを決めたのは、資源をより企業利益を上げやすい教育関連ビジネスに集中するためだという。ピアソン社は新聞ビジネスの将来性を危ういものと考えていたことは間違いない。そして彼等からすれば今がベストの売り時だったのだ。

そして彼等はM&Aを仲介する投資銀行などの力を借りて、更に最後に100億円を上乗せして売却することに成功した。

FTには約600名のジャーナリストがいる。彼等は英国の支配階級と深く結びついている。そして編集者としての独立性の維持という長い伝統を持っている。買収先が彼等の文化をコントロールすることは不可能だ。グリップを強めるとジャーナリストは去ってします。

買収価格の高さもさることながら、日経新聞がFT買収の具体的成果を刈り取るのは相当な困難が横たわっていることは間違いない。

それにしても日経新聞の電子版の購読料はFTやWSJに較べて非常に高い。FTの買収負担でこの高い購読料が維持されると思うと読者としてはあまり歓迎したくないニュースなのである。

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