金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

弱い雇用統計で株価は上昇したが、懸念も大きい

2019年06月09日 | 投資

先週金曜日(6月7日)発表された米国5月の非農業部門雇用者増は、エコノミストの事前予想(180千人)の半分に届かない75千人だった。5月の雇用者増が少ないだろう、ということはその前に発表された民間給与計算会社ADPのデータから推測できたが、市場は連銀の政策金利引き下げの可能性が高まると好感して株価は続伸した。ダウは263ドル(1%)上昇した。

しかし中期的に見ると懸念材料は多い。

第一に関税引き上げの影響が経済全体に大きな影響を与える前に企業が雇用に慎重姿勢を示したことを示唆するからだ。メキシコとの関税問題は難民対策で交渉の目処が立ち追加関税は見送られたが、一方中国との交渉は具体的目処は立っていないというムニューシン財務長官の発言が報じられている。

もし中国との関税問題が経済全般に大きな影響を与えるようになってくると、景気の鈍化は一層顕在化してくる可能性が高い。

雇用統計が景気の先行指標であるか遅行指標であるかは議論のあるところだろうが、仮に遅行指標だとすると景気は既に弱含みの局面に入っていたということができる。

一旦株価下落に歯止めをかけた米国市場だが、底入れするというよりは、色々な経済指標から足元の景気を確認する相場が続きそうな気がしている。

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「老後に2000万円不足」目新しい話ではないが・・・

2019年06月09日 | ライフプランニングファイル

金融庁が「公的年金だけでは老後資金が2千万円不足する」とした金融審議会報告書を発表したことが話題を呼んでいる。

話題を呼んでいるが内容自体は、不足金額に差はあるものの、すでに色々な調査団体から発表されているもので目新しい話ではない。また計算方法も簡単だ。

公的年金の平均的な受取月額は20万円だが、夫婦二人の老後生活費は月25万円なので毎月5万円不足する。年間では60万円の不足で30年間では18百万円になるという話だ。

だから公的年金に加えて毎月5万円程度の補填資金を確保しておきましょう、というのが金融庁の趣旨だ。

野党の一部からこの発表は政府がこれまで言ってきた「公的年金は100年安心」と異なり、国民に不安を抱かすと反発の声が上がっているが、これは年金の制度を理解していない議論である。

つまり「制度の安全性」と「給付レベルを維持する」ことを混同しているのである。制度の安全性とは定期的に財政計算を行い、将来必要な年金原資を確保するために、年金の掛け金や給付水準を見直すことが制度的に担保されていることである。

一方年金の給付レベルは、制度設計を行った時あるいは財政計算を行った時と現時点の「前提条件」で変わってくる。前提条件の主なものは「金利水準」「賃金上昇率」「物価上昇率」「平均寿命」などであるが、現在特に大きな影響を与えているのは「平均寿命」が伸びていることだ。

平均寿命が伸びているのに、掛け金が増えないと給付水準を下げざるを得ない。給付水準を下げるには、受給者一人一人の受給額を減らすとか支給開始年齢を遅らせるとか色々な方法があるが、とにかく全体として「掛け金+積立資産の運用益+積立資産の取り崩し+国庫負担(税金)」の範囲に支給額を抑えることが必要なのだ。「公的年金は100年安心」という意味は「マクロスライドで給付額を抑制していけば、100年間は公的年金を支給することができる」という意味で「公的年金だけで老後の生活費を賄う」という意味ではない。

公的年金だけで老後生活費を賄うとすれば、年金の掛け金を増やすか国庫負担を増やすしかない(日本の年金運用はリスク資産比率が高いのでこれ以上リスクを取って運用益を稼ぐのは困難)。給付水準は引き上げたいが、掛け金負担や増税は嫌だ、というのは単なる我儘に過ぎないのである。

公的年金については北欧の高福祉高負担型と自助努力を重視する米国の低福祉低負担型があり、日本はその中間といわれてきた。だが実態はむしろ米国型に近くなっているのではないだろうか?

ならば現実を直視して、勤労者の自助努力を助成し、年金資産の形成を促進するような税制優遇等の政策を強化するべきであろう。

 

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