日本では日銀の黒田総裁の「家計の値上げ許容度は高まっている」という発言に批判が高まっている。黒田総裁は少し前にも「買い物は家内がやっていて物価の動向を買い物で感じることはない」と発言し、一般市民との生活感覚のずれを批判されたところだった。
知能程度の低い発言を続けている黒田総裁だが、米国のイエレン財務長官に較べると議会からの圧力はそれ程感じていないだろう。何故なら日本の国会は与党が圧倒的な議席数を持ち、主要な法案を通す力を持っているからだ。
一方与野党の勢力が拮抗する米国で前連銀総裁だったイエレン財務長官はインフレ問題を巡って野党の激しい批判を受けている。物価上昇が目につき始めた頃、イエレン前連銀総裁やパウエル現総裁は物価上昇はtransitory(一時的な)と盛んにいっていた。一時的だからコロナ対策としての金融緩和を続けると主張したのだ。一方でイエレン財務長官は出版予定の自叙伝の中で民主党の1.9兆ドルのコロナ対策パッケージが物価上昇を加速するのではないか?という懸念を抱いたと述べている。
イエレン財務長官は物価上昇が一時的だと言ったのは間違いだったと述べているが、コロナ対策の巨額の給付金がどれだけインフレに結びついているのか定量的に分析するのは難しいかもしれない。少なくとも日本の場合、日銀はコロナによる外出制限等で貯蓄が50兆円積みあがった(日銀は強制貯蓄と呼ぶ)ということだ。その中には一人10万円配られた特別給付金など支援金も含まれるから目下のところ給付金がインフレ圧力を強めているということはなさそうだ。黒田総裁は家計に積みあがった50兆円を持って家計の許容度は高まっていると発言したのだろうが、それは完全に間違っている。
何故間違っているか?ということを一例を持って説明するならば、今年4月から国の年金が0.4%引き下げられたことだ。物価上昇を実感している年金生活者にインフレの中での年金支給額の引き下げは厳しい。それは現実に家計を圧迫するだけでなく、将来への不安をかき立てる。
インフレが日本より早いペースで進む米国だが国の年金social securityは物価上昇に完全にスライドする制度となっている。また米国では働いている人は高い給料を求めて転職する傾向を強めている。だからもしイエレン財務長官が「(米国では)家計のインフレ対応力はそこそこある」程度の発言をしたのであれば許容されると思うが、米国のようなインフレ対応力のない日本で「家計の値上げ許容度が高まっている」発言をした黒田総裁は生活感覚がずれているだけなく、経済政策の根幹に関する知識が欠如しているようだ。
さて話が脇道にそれていたが、イエレン財務長官は「バイデン政権は今年のインフレ予想を3月時点の4.7%から引き上げる」「予想値を固めてはいないが物価上昇トレンドは8%以上となっている」と述べている。
今週金曜日には5月の消費者物価指数が発表される。エコノミストの事前予想値は8.3%と過去40年の最高に近い数字だ。
物価上昇と経済成長の鈍化が併進する現状から1970年代のスタグフレーションに陥る懸念を抱く人もでている。個人的には直ちにスタグフレーションのリスクを感じる訳ではないが、財布の紐は少し締めようと考えている。この点からも黒田総裁発言は100%的外れだったと思う。