徒然草に双六(すごろく)の名人が勝負のこつをかたる話があります。
「勝たむと打つべからず。負けじと打つべきなり。いずれの手かとく負けぬべきと案じて、その手を使わずして、一目(ひとめ)なりとも遅く負くべき手につくべし」というくだりです。
双六の名人に、勝つためのこつを尋ねたところ、「勝とうと思って打ってはいけない。負けないように打つことだ。どの手でいったら、早く負けてしまうかを考えて、その手は避けて、少しでも遅く負けるような手を選ぶことが大切だ」と語ったということです。
この話を出した理由は、「負けないような手を選ぶ」ことがシニア時代の資産運用で大切な原則だと考えるからです。
古い資産運用の本を読むと、高齢者になると株式運用を止めて債券運用に切り替え、更に年を重ねると預金の比率を高めなさいと勧めています。
しかし我々の平均寿命が伸び、それに伴って健康寿命も伸びてくると、生涯を通じた支出額は増えていきます。以前は想定していたよりも寿命が伸びてくると、それに合わせて資産寿命も伸ばしてやる必要があります。
シニアになると大部分の人は金融資産の一部を取り崩して、生計費や突発的な支出に充当していくことになります。
この時ほとんど利子を生まない預貯金からの取り崩しとインカムゲインやキャピタルゲインを生む有価証券投資を行いながら資産の一部を行うのでは、資産寿命の長さに大きな違いがでる可能性があります。
最近ではかなりのファイナンシャルプランナーなどが、「資産を運用しながら取り崩す方法」を勧めていると思います。
ただし大切なことは「儲けようと思って資産運用を行わない」ことです。特に負けても取り返す機会があまりないシニアの場合は。
むしろ「負けないように資産運用を行う」という方針で良いと思います。
何に負けないようにするのか?それはインフレに負けないようにすることです。20年以上我々はデフレの世界に慣れてきましたが、いま世界のトレンドは変わりつつあります。ロシアのウクライナ侵攻のような動乱の発生、地球温暖化防止のための諸施策に伴うエネルギー等のコモディティ価格の上昇、発展途上国の経済成長に伴う食糧需給のひっ迫など物価押し上げ要因は目白押しです。
これからしばらくの間は物価上昇の一部を資産運用でカバーして資産寿命を少しでも伸ばすということが必要ですが、欲張りすぎて大きなリスクを取ると資産を棄損する可能性が高まります。勝とうと思わずインフレに負けない程度に資産運用を行うという程度で良いだろうと私は考えています。