金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米国住宅ローン問題の重さ

2008年02月24日 | 国際・政治

ニューヨークタイムズ(NT)の記事に一枚のグラフが付いていた。そのグラフは住宅ローン残高が住宅の価値を超えている人(以下ネガティブ・エクイティ)の割合を示すものだ。現在全米で約10%の人がネガティブ・エクイティの状態だが、このままの状態が続くと1年後には15%を越える。住宅価格の下落は地域によりばらつきがある。今ネガティブ・エクイティの状態が一番大きいのは中部地帯で約18%程度だが、グラフは今後西部で住宅価格が下落することを示唆していて、来年の夏には25%を越える見込みだ。

自宅の価格が住宅ローン残高を下回ると自宅を売却しても、住宅ローンを返済することができなくなる。このような状態はバブル崩壊後の日本では沢山発生しただろうし、今でもマンションを購入した後値崩れしてネガティブ・エクイティになることは良くあることだ。では何故米国でネガティブ・エクイティが(日本より)大きな問題になるかというと、雇用制度と貯蓄姿勢の違いからくるものだろう。

米国では高い給料を求めて、転居を伴う転職を行うことはそれ程珍しいことではない。不況になると企業は比較的簡単に解雇を行い、勤務員達は成長分野を求めて時には自宅を売却して遠い都市へ移動していく。これが米国のダイナミックな産業構造の変化を支えていた。ところがネガティブ・エクイティの状態で、解雇されても自宅を売却してローンを返済することができないので、人々は同じ町で次の職場を見つけざるを得なくなる。同程度の賃金を貰える仕事があれば良いが、さもないと今より低い賃金で働くことになり、住宅ローンの返済に行き詰まることが多い。

米国では不動産の担保余力(エクイティ)を使って第二抵当順位の不動産ローン(ホームエクイティ・ローン)を利用する人が多い。もしエクイティの価値がある、つまり不動産の値上がりが続いている状況であれば、解雇等により一時的に収入が減っても、ホームエクイティ・ローンを借りて凌ぐことができる。このため米国では働いている間は自宅の買替、ローンの借換でより大きな自宅を求める傾向が強かった。しかし一旦住宅価格が下落するとこれは逆回転し、人々を大変苦しめることになる。

このような状況に対して、今のところ政府は税金を投入して住宅ローン債務者やバブルに踊ってローンを貸した金融機関を救済する考え方をしめしていない。しかし民間側からは色々な提案がなされている。たとえば住宅金融大手のカントリーワイド社を買収中のバンク・オブ・アメリカは、返済遅延に陥っている住宅ローンを大幅に額面割する価格で新しく作る政府機関が購入するのはどうか?という提案を行っている(購入資金は連邦政府が保証する固定低金利の債券等で調達する)。

米国が住宅不況から抜け出すには、上記のような大胆な政策(バンク・オブ・アメリカ案など)を取る必要があるが、短期間に政府・与野党の合意に至るかどうか気になるところだ。

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明治神宮で野鳥を撮った

2008年02月23日 | まち歩き

2月23日(土曜日)明治神宮で行われた会社のOBの方々の野鳥観察会にくっついていく。当方写真を撮ることに多少の関心はあっても、鳥の識別など甚だ覚束ない。それでも専門家の話を聞きながら、春めいて来た都会の中の森を歩くことは楽しい。

代々木口から神宮の中に入っていくと池があり、鴨やおしどりが池の淵で並んで休んでいた。眼は開いている様に見えるが眠っているらしい。

Osidori

次にツグミの写真を撮ることができた。

Tugumi2

500円払って南池の方に入っていくと、野鳥の大ベテランのMさんが「カワセミの声がする」というので、楽しみにしたが姿は見えなかった。それにしても鳴き声一つで鳥の種類が分かるのはスゴイことだ。池の近くでジョウビタキを見た。

Jyoubitaki

「清正の井」に向かって歩いていくと途中でルリビタキ(メス)がいた。

Ruribitaki

写真らしい写真になったのこれらの鳥だが、他にもメジロ、シジュウガラ、ウグイス(声だけ)、ヒヨドリ、カイツブリなどを観察することができた。専門家の方々は観察会の後「鳥合わせ」というその日観察できた野鳥の照合を行う。今日は二十六、七種の野鳥(カラスなども入れてだが)が観察できたらしい。もっとも私には知らない種類の鳥が多くて何種類の鳥がいたか見当もつかなかったが。

神宮の中の立て札に明治天皇の御製の和歌が書かれていた。

うつせみの代々木の里はしづかにて都のほかのここちこそすれ

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裏に道ありFairfax

2008年02月23日 | 金融

ファイナンシャルタイムズ(FT)によると、クレジット・クランチの中で儲けた会社がある。それはカナダの保険会社Fairfax Financialだ。相場の格言「人の行く裏に道あり花の山」というが、Fairfaxはアセットバック証券華やかななりし2003年、04年頃「サブプライムローンやホームエクイティローンはトリプルAの格付に価せず」と判断して、これらの証券についてクレジット・デフォルト・スワップでショートポジションを作ってきた。

これによって2007年度に11億ドルという過去22年間で最高の利益を上げた。もっとも同社のWatas CEOは「相場は良い時もあれば悪い時もあるので、謙虚に受け止めたい」と話している。

クレジット・クランチの中で他にもうまく立ち回った会社はある。例えばヘッジファンドのPaulsonやゴールドマン・ザックスだ。大手邦銀の中にもサブプライムローンに手を染めなかったところや、比較的早めに手を引いたところがある。それが「過熱したマーケットに対する透徹な判断力」によるものなのか単なるHesitateによるものなのかは判断する材料はない。混乱した市場の中で勝ちを拾ったものは「運が良かった」と位に考え、損をしたものはバブルに踊ったことから何らかの反省を見つけるしかない。

だが今からでも「人の行く裏に道あり花の山」という相場の格言を思い出しても遅くはない。混乱を極めた市場の中にこそチャンスはある。もっとも同じ位リスクもあるかもしれないが。

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これで分かるモノライン問題

2008年02月21日 | 金融

モノラインという金融マン以外には馴染みのないモノが、米国の金融界を揺さぶり世界の株価を揺さぶっている。このモノラインとは一体何者でどうしてこんなに問題になるのか?ということを2月20日のFTの記事などを踏まえて簡単にまとめてみた。

ここ10年間程の金融システムは複雑になり過ぎて、投資家や政治家達の理解を超えている。日本の株式バブルの頃私は株式ファンドマネージャー達の隣にいたが、ファンドマネージャー達の投資行動は彼等の上司や投資家達~当時日本に本当の投資家がいたかどうかは別問題として~の理解を越えていた。バブルはいつも常識人の理解を超えたところで発生する。モノライン保険会社は30年程前に地方公共団体の発行する債券(以下地方債)のデフォルトリスクを投資家に対して保証する会社として発足した。この保証業務は平凡だが堅実な収入をもたらした。だが会社というものは平凡な収入では満足できないものらしい。過去10年の間にモノライン保険会社は新しい収入源を求めて、住宅ローン債券の保証などストラクチャード債券の保証という新しい領域に仕事を拡大していった。

最近までモノライン保険会社は「副業のストラクチャード・ファイナンス業務は本業の地方債の保証業務と同様安全な業務である」と主張してきた。しかし昨年サブプライムローンのデフォルト率が~エコノミスト達の推測によれば~2005年以降に引き受けたものについては25%に達している。これは先例のない不良債権の発生比率である。

サブプライムローンのデフォルトにより欧米の大手銀行は1,200億ドルを超える償却を行っている。アナリスト達はモノライン保険会社は最終的には保証履行の結果として、最終的には340億ドルの損失を被ることになると計算している。損失は将来の長い年月にわたると予想される。この損失に対してモノライン保険会社の手持ち資金は480億ドルである。つまり保証履行能力が疑わしいことがはっきりしてきた。そこで格付機関は規模の小さいモノライン保険会社の格下を既に行い、最大手のAmbacとMBIAについても格下の懸念が高まっている。

Creditsightという債務分析会社は「モノライン保険会社の自己資本は2003年から2006年にかけて29%増え220億ドルになったが、この間のストラクチャード・ファイナンスの保証は175%増え、1兆6千億ドルに達した。業界は貪欲になりすぎた」と言っている。簡単にいうと保証履行能力を超える保証を行ってきたということだ。昔日本では恒常的に預金不足に悩んでいた相互銀行が企業が他の銀行から借入を行う時の保証業務で利益を稼いでいたことを思い出させる。景気が悪くなると、企業倒産が増え相互銀行の損失は急速に拡大した。これがため寿命を縮めた相互銀行も少なくない。

モノライン保険会社の急激な業績悪化により、彼等の株価は急落して株主は損失を被った。しかしより大きな影響は銀行に出ている。モノライン保険会社の格付がリスクフリーと考えられていたトリプルAから急転直下格下されたことで、彼等保証していた債券を保有していた約20の大手銀行は、70億ドルから300億ドルの範囲で償却を強いられたとムーディズは推測している。

モノライン保険が機能しなくなったことで、米国の地方債市場は麻痺してしまった。米国の地方債市場の中心をなしているのはオークション・レート証券市場(ARS)だ。これは1988年にゴールドマンが作り出した商品で、期間の長い債券(10年~30年)を地方公共団体が発行するが、金利の更新(リセット)は一週間とか一月という短い期間で行うというものだ。この債券はトリプルA格のモノライン保険会社に保証されていたので、機関投資家にとっては信用リスク・金利リスクの面でリスクが極めて低く人気が高い証券だった。

ところが、モノライン保険会社の格付が低下すると、地方債の信用リスクが問題となってくる。投資家は今までのように低金利で入札しなくなるので、地方公共団体にとっては資金調達コストが跳ね上がったり、場合によっては資金調達が出来なくなる。このオークション・レート証券には、債券が発行出来なくなった時、銀行が短期的な資金融資を行う流動性補完が付いていないので、地方債の流動性リスクが高まる訳だ。これがモノライン問題の根幹である。

この救済策として出ているには、モノライン保険会社を「地方債を保証する会社」と「よりリスクの高い債券を保証する会社」に二分割するという構想だ。これは地方債の格付悪化を阻止するという短期的な効果はあるだろうが、ストラクチャード・ファイナンスなどリスクの高い債券については将来の損失が一層拡大することになる。

例えばモノライン保険会社は企業の倒産リスクをヘッジする手段であるクレジット・デフォルト・スワップの引き受けを行っている。ところが保険会社の債務履行能力に懸念があると、デフォルト・スワップ市場は大混乱に陥る。(国際スワップ・デリバティブ協会はスワップ契約は担保で保全されているので、大きな懸念はないと主張しているが・・・)

どうしてこのようなことが起きたのだろうか?ということについてバンクオブイングランドは「米国の住宅融資市場と企業融資市場は貸出基準が近年崩壊していた」という。崩壊・・・ユルユルになっていたということだ。融資姿勢がユルユルだったのは米国だけではなく、欧州・日本も同様だ。米国で特に問題が大きくなったのは「証券化によりリスクを多数の投資家にばら撒くことができたので、より多くの融資が実行された」ことである。

ゴールドマンザックスは「一年前にサブプライム問題が発生してから、総てのタイプの融資で貸出条件が引き締められている。このインパクトは第一四半期の成長率を1.25%減少させ、第二四半期の成長率を2.5%減少させる」という見方を発表している。

モノライン保険会社を二分割して地方債市場を救済するのは、現在では最良の作戦かもしれないが、ストラクチャード債券の問題を残すことになる。結局貸出バブルで儲けた人達がその儲けを吐き出す程の損失を出さないとこの市場混乱は収まらないのだろうか?

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ご指摘ありがとうございました

2008年02月21日 | 金融

先日ブログでみずほフィナンシャルグループのLBOローンの開示に関する記事を書いたが、私の調査不足をご指摘頂くコメントを貰いました。どうもありがとうございました。正確な記事を書こうと思っておりますが、時間不足等で至らないこともあるかと思います。今後とも皆様のご意見をお待ちしております。

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