金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

【書評】知的余生の方法・・・知は都会にありか?

2011年01月08日 | 本と雑誌

年末の新聞に渡部 昇一氏の「知的余生の方法」の広告が出ていたので、ついアマゾンで買ってしまった。「余生」というには少し早いが、余生を設計するのに早過ぎるということはない・・・というところである。

ものを考える上で一つ参考になったのは「余生を過ごす場所について」という一章である。その中で渡部氏は「老人だから、余生は静かでのんびりした場所で、というのは間違いで、年をとったからこそ、刺激のある便利なところ、というのが案外正解なのではないか。」と述べる。この説を傍証するために渡部氏は色々な例を紹介してる。渡部氏の故郷・山形の例を紹介と、年寄り夫婦でけで雪下ろし作業ができなくなったため、田舎の家を引き払い山形市のマンションに移り住む老人が多くなり、山形市のマンションは完売したという噂だ。

渡部氏は「テレビ番組や雑誌に登場する『田舎暮らし』は、ほんの一部の成功例だと考えてほぼ間違いない」と断言している。そして田舎暮らしをするより別荘を買うより、都会でエアコンをつけ、書斎を置くのが、知的な生活には必需なのだと主張する。

☆   ☆    ☆

この説が総ての人に当てはまるかどうかは分からない。ワイフの友人のご主人で退職後水上に居を構えて、野菜作りの精を出している人がいる。この人は東北出身で農業をやるのが夢だったので、長年強めた大手クリーニング会社をやめた後、水上に引っ越すことを決めた。我々夫婦が一度この方の家を訪ねた時は食べ切れない程の野菜を頂いたことを覚えている。

「田舎で農業をして余生を過ごす」というのも簡単ではない。何故なら夫婦二人で食べ切れない程の収穫になるが、人様に販売するには至らない・・・というのが大半の家庭菜園家の悩みではないだろうか?

その後水上のご主人は暇を持て余して、冬にはスキー場の駐車場でアルバイトをされているという話を聞いた。

☆    ☆    ☆

「知的余生の方法」の中の老後の交友に関する意見も興味深い。渡部氏は「年齢を経てくると、だんだん、基本的な考え方の違う人とはつきあいたくなくなる。我慢できなくなる。」という。この基本的な考え方は、基本的な思想・信条のことだ。

そして次に付き合いたくないのが「支払い能力が違う人」で、三番目が教養の差が大きい人だと渡部氏は述べる。

渡部氏の意見には反発を覚える人もいるだろうが、私は実感としてかなり共感するところが多い。

「サラリーマンは退職しても、昔の仲間と群れたがり、地域社会に融け込まない」と批判されるこことがあるが、長年一緒の職場で働いて来た仲間は「基本的な考え」が近い場合が多く、収入に関しても国や企業の年金支給額には現役時代の給与や賞与程の差がない。つまり支払能力が同レベルだから、それ程高いところに飲みに行くこともないし、かといっていきなり場末に行くこともない。

教養の差も同じサラリーマンなら似たようなものだという安心感がある。

このような職場の仲間やあるいは同じレベルの退職者が作っているサークルに入り知的な活動を続けようと思うとやはり「都会暮らし」をするという選択肢になるのだろうか?

☆   ☆   ☆

もっとも登山愛好家の私としては、退職後信州にでも本拠を移したいという夢がないわけではない。ただしワイフからは「私はついて行かないわよ」と言われている。もしワイフが「知的生活の方法」を読む時があると鬼の首でも取ったように言われそうだ。

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貯蓄の減少、フローからストックへ

2011年01月07日 | 社会・経済
今日の日経新聞によると、家計貯蓄.借金とも初めて減少に転じた。これはストックベースの話でフローベースではかなり前に家計貯蓄の減少が始まっていたので、ストックベースの減少は時間の問題だった。マッキンゼーのレポートによると、1980年に家計はGDPの16%を貯蓄していたが、08年には6.5%に低下している。家計、政府、企業合計の貯蓄率もピークの1990年の34.8%から08年の28.6%に低下。ただし投資も13%減少したので、日本はまだ米国、中国につぐ世界3位の貯蓄大国だ。だがこれはじり貧シナリオだ。GDPを1%引き上げるには、2.5%以上の投資が必要と言われているから、日本の名目成長率が伸びない訳である。

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中国のステルス戦闘機をどう見る?

2011年01月06日 | 国際・政治
ニューヨークタイムズによると、中国最初のステルス戦闘機が今週公開された。このステルス戦闘機は米国が誇るステルス戦闘機F22に対抗するものだ。ステルス戦闘機はレーダーの捕捉から逃れるように作られた戦闘機だが敢えて衆目を浴びる道を選んだ。
今週末にはゲーツ国防長官が訪中し、悪化している米中軍事交流の改善を図る予定だが、その前に武威を示す魂胆だったのだろうか?
武威というと、中国は来年にも旧ソ連の空母を修復した空母を配置する予定。覇権狙いを否定する中国だが攻撃的兵器の増強が気になる。
もっとも孫子の兵法は兵は詭道なり、能なるに不能を示す、と教える。その筆法にしたがうなら、中国の軍事力誇示は戦略的には正しくないと考えるべきかもしれない。
むしろ軍部の政治的意図などがあるような感じがする。ただし中国が確実に現代的戦闘能力を高めていることは軽視できない事実である。


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経済成長率トップ10・ワースト10、2011年予想

2011年01月05日 | 社会・経済

エコノミスト誌のデイリー・チャートに2011年の経済成長率予想でトップ10とワースト10が出ていた。

成長率第1位はカタールで15.8%。エコノミスト誌によると液化天然ガスプロジェクトとインフラに焦点をあてた財政拡大政策が成長のドライバーだ。2位がガーナ、3位がモンゴル、4位がエリトリア。エリトリアはエチオピアの北の国。エチオピアは5番目。このあたりは失礼ながら世界経済に与える影響は軽微だし、投資対象としてもエキゾチック過ぎると思う。6位と7位は本命の中国とインドで、エコノミスト誌の調査部門EIUは成長率をそれぞれ8.9%、8.6%と予測する。

一方一番成長率が低いと予想されるのはプエルトリコで-4%を超える。去年国債危機問題を賑わしたギリシアはワースト2で成長率予想は-3.6%。アイルランドは下から5番目で-0.9%。ポルトガルは下から3番目で-1.1%程度。イタリアは下から6番目でスペインは下から10番目。それぞれプラスの成長見込みだが、1%にははるかに届かない。

因みにこのデイリー・チャートのタイトルは「地に落ちたPIIGS」である。

ところで高い経済成長が予想される国は1位のカタールを除くと一人当たりGDPが相対的に低い国だ(カタールの1人当りGDPは12万ドルでルクセンブルグについで世界第2位)。

一人当たりGDPの低い国が大きな伸び代(のびしろ)を持っていることは容易に想像が付くところで、FTのコラムニストMartin Wolf氏はその原動力を「賃金の世界的な収束」と表現している。企業は安い労働コストを求めて発展途上国の労働力を使うので、究極的には世界の賃金は収束するという考え方と理解して良いだろう。

Wolf氏のエッセーIn the grip of a great convergence(巨大な収束の支配下で)の書き出しはConvergent incomes and divergent growthである。収入の収束と成長率の離散という意味だ。因みにcon(あるいはcom)という接頭語は「共に」という意味でdiという接頭語は「離れること」を意味する。Vergentは「方向に向かう」というvergeという言葉から来ているので「収束・収斂」あるいは「離散・発散」となる訳だ。

さて中国が経済成長で先行した日本や韓国の跡を追っているというのは衆目が一致するところだ。今日の日経新聞「経済教室」では青木 昌彦氏が「中国沿岸の1人当り実質GDPは日本の70年代後半、韓国の80年代なかばに近づいている」と述べている(Wolf氏は「中国の一人当たり実質GDPは日本の60年代半ば、韓国の80年代半ば」と述べている)。

先進国並みの豊かさを目指す発展途上国の活力が経済成長率の差を生み出すが、問題はその持続性とスケールではないだろうか?

スケールについてはFTの孫引きだがバーナンキ連銀議長が昨年11月に「2010年の第二四半期の新興国経済の生産高は2005年の始まりより41%大きかった(中国では70%、インドでは55%)が、先進国経済では僅かに5%拡大しただけだった。新興国にとって大不況は一時的な下落に過ぎなかった」と述べている。

だが急速な経済成長は色々なひずみを生む。今年ワースト成長率が予想されるPIGGSも少し前は好景気を享受していた。

2010年は賃金の収束と成長率の拡散という大きなトレンドが再確認された年だったが、2011年が無難にその軌跡をたどると考えるかどうかは議論のあるところだろう。インフレや社会的騒擾が一時的に成長の足かせになる可能性は排除できない。成長の持続性がテーマになるかもしれない。だが私は少なくとも10-20年という期間で考えると「賃金の収束」トレンドは続きそうだと考えている。

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うさぎは跳ねる、とりあえず好調そうなスタートだが。

2011年01月04日 | 株式

相場の格言では「兎年は跳ねる」そうだ。戦後5回の兎年の日経平均株価の平均上昇率は24.9%で子(ね)年の39.0%に次ぐ。もっとも最近の日本の株価は外国人投資家の影響を強く受けるし、日本経済は米国経済のみならず中国・インド等アジアの新興国経済の影響を強く受けている。干支(えと)文化圏以外の人々がどれほど「兎年は跳ねる」という格言に注意を払っているかどうかは分からない。

干支の格言はさておき、新年の世界の株価は好調なスタートを切った。株価を牽引したのは全米供給管理協会が発表したISM製造業景気指数など製造業の好調さを示すデータだ。

12月のISM製造業景気指数は17ヶ月連続して上昇し57ポイントに達した。FTはウエルスファーゴのエコノミストSilvia氏の「2011年の経済成長はコンセンサスの2.6%より早い可能性が高い」という言葉を紹介している。

アジアでは韓国と台湾の製造業指数が好調。FTによるとHSBCとMarkitによるPMI指数は韓国が53.9(11月は50.2)、台湾が54.7(11月は51.7)である。欧州でもドイツ、フランス、オランダが牽引して製造業指数は好調だ。

世界的に好調な製造業の影響と米国の寒波、オーストラリアの大洪水の影響で原油や石炭の値段が上昇している。JPモルガン調査部門のEagles氏によると「1バレル100ドル」の時代が不気味に近づいている。

新興アジアではインフレが加速している。インドネシアでは12月の物価上昇率は11月を0.3ポイント上回る6.9%となった。中国では11月の物価上昇率が過去28ヶ月で一番高い5.1%になったことを受けてクリスマスの日に人民銀行が金利を引き上げた。だが野村(香港)のエコノミストはエネルギーと食糧価格の上昇を政府がコントロールすることは困難なので中国でインフレが直ぐに沈静する見込みは低いと述べている(FTより)。

兎年に跳ねるのは株価だけではなく物価も跳ねる・・・ただし除く日本、ということになるかもしれない。順調な経済成長と株価の上昇は中国を中心としたアジア諸国の政府の舵取りにかかっているというのが今年前半のポイントのようだ。

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