金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

「相続学」の輪郭が見えてきた

2014年08月26日 | 社会・経済

名古屋の伊藤さんを中心とした数名の人間が「日本相続学会」を立ち上げて約2年が経った。私は当初から「相続は学問領域になりうるのか?」という疑問を持っていたし、今もなおその疑問は残っている。「相続」は、相続は人の生き方の終着点であり、財産を受け取る相続人の立場からは、一生に一度あるかないかのまとまった財産を手にする機会であり、人間の生活で大きな意味を持っている。しかし「相続」は民法や税法の中で議論・解決されるべき事案で、一つのまとまった「学問領域」足り得るのか?という疑問を持ち続けてきた。

しかし「相続」というものを「民法」の定義から踏み出して考えると、「相続学」の輪郭が見えてくるのではないか?とも今では考え始めている。

「民法」は「相続は(被相続人の)死亡により始まり、相続人は被相続人の一切の権利義務を承継する」と定める。仮にこれを「狭義の相続」と呼ぶことにしよう。

一方相続を「人間を含めた動物が生活基盤を子孫に伝える手段」(私の勝手な定義)と広くとらえるなら、「生前贈与」なども「広義の相続」と捉えて「学問領域」の射程範囲に入れることが可能だ。

実社会の中では既にそのような動きが起きている。たとえば一定の条件を満たす親子間や祖父母・孫の間の贈与に対する非課税措置だ。祖父母が孫に学校の授業料などの境域資金を贈与する場合、金融機関の専用口座を利用すると1,500万円まで贈与税がかからない。また住宅購入資金については、現在1千万円まで贈与税がかからない優遇措置があるが、この枠を3千万円まで拡大することが国道交通省で検討されている。

政府の狙いについて「高齢世代から若者世代に資金の移転を促進して個人消費を底上げする」といううがった見方もあるが、私は「高齢化が進む日本の社会において、子孫の繁栄を願う前世代として理にかなった動き」と判断している。というのは高齢化時代になり、被相続人の死亡年齢が高くなると、相続人である子どもの年齢も高まり、子どもが資金を必要とする時に「あてにしていた」親の財産を使うことができないという現象が起きているからだ。

例えば親が70歳で死亡することが普通だった時代を考えてみよう。親が死んだ時、40歳(世代間の年齢差30歳として)の子どもは親の財産を相続して、その財産を自分の子ども(10歳程度)の教育費や住居費に充当することができる。しかし仮に親が90歳まで生きるとすると子どもの年齢は60歳で、孫の年齢は30歳だ。子どもは一番お金が必要な時に親の財産をあてにすることができないのだ。

「相続学の一つの領域は、人間社会の健全は発展のために、高齢化社会の中で世代間の財産移転スキームを考える」ことにあるといって良いだろう。

次に「円満かつ円滑な相続」を標榜する相続学会として、考えないといけない問題は「財産配分の原則」の見直しだと私は考えている。

これは全くの私見なのだが、私は歴史的にみて相続財産の配分原則には「資本財(あるいは生産財)維持の原則」と「(子どもの間の)平等の原則」と「(相続人間の)公平の原則」があると考えている。「資本財維持の原則」とは、家業(農業であれ商業・工業であれ)を維持し、家業で扶養される人間の生活基盤を維持するために、家業を引き継ぐ人間が財産の太宗を引き継ぐという考え方だ。戦前までの長子相続はこの考えに立脚すると見て良いだろう。遊牧民の中には「末子相続」を原則とする民族もあると聞くがこれも「資本財維持の原則」に立脚していると考えてよいと思う。

これに対して戦後の民法は「(遺言書による定めがない限り)子ども間の相続分は相等しい」として「平等の原則」を示している。

しかし高齢化に伴い「介護」の問題が脚光を浴びている。「介護」については民法904条2で「療養看護等に対する寄与」が認められているが、実際には介護による寄与分が認められることは多くないようだ。

「介護」問題について私は門外漢なので、深入りは避けたいが敢て感じるところを述べると「介護は個人で行う時代から社会で行う時代に変わるべきだ」ということだ。あわせていうと「育児も個人の問題から社会で考える問題」に変わるべきだと私は考えている。

話を相続財産の配分原則に戻すと「(相続人間の)公平の原則」をもう少し全面に押し出す必要があるのではないか?と私は考えている。

これらの「配分原則」の間の調整を総て法律で行うことは不可能だろう。相続を巡る個別の事情は千差万別だからだ。

私は相続を巡る争いを少なくする方法は被相続人・相続人が「相続財産の配分原則」には「民法が定める同一地位にある相続人間の平等原則」だけではなく、「資本財維持の原則」や「相続人間の公平原則」があることを理解することだと考えている。

公平原則を敷衍して考えると、相対的に経済的に余裕のある兄弟が余裕のない兄弟に譲歩することも可能になるのではないだろうか?

そして「平等原則」以外の原則で財産を配分することが望ましいと考える被相続人はその考えを遺言書で示すべきだし、なぜそう考えるか?という理由を相続人に分りやすい形で伝えるべきだと考えている。

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S&P500、ザラ場で2,000ポイントを超える

2014年08月26日 | 金融

昨日(8月25日)の米国株式市場の一番の話題は、S&P500が一時的に2,000ポイントを超えたことだ。引け値は前日比9.52ポイント上昇の1,997.92ポイントだったが、心理的な節目である2,000ポイントに一時的せよタッチした意味は大きいと指摘する人は多い。

2,000ポイントという数字に特にファンダメンタルな意味はないが、行動経済学でいうところの「アンカーリング効果」(係留効果)があるからだ。もし株価が引け値で2,000ポイントを超えていくことになると、その数字は投資家にとって下値抵抗線として意識されていくからだ。

昨日米国商務省が発表した7月新規住宅販売戸数は、前月を2.4%下回る41.2万戸で、エコノミスト予想の中央値43万戸を下回り、3月以来の低水準だった。つまり若干市場に失望を与えるものだったが、株価が上昇したのはECBの金融緩和策に対する期待が大きかったからだ。

ECBのドラギ総裁は先週ジャクソンホールでのスピーチで、金融政策を「倹約型」から「成長重視」に方向転換することを示唆し、デフレ対策として、ABSの購入等が行われると市場は判断したからだ。

私ごとだが、先週末には若干「ユーロショート・ドルロング」「円ショート・ドルロング」のポジションを作ってみた。結果はどちらも若干の利益を上げることができたが、パフォーマンスはユーロショートの方が良かった。ドラギ総裁が明確に金融緩和を打ち出したのに対し、黒田総裁は当面現状維持的と思われる発言をしたことの差によるものだろう。

S&P500については、2009年3月に683ポイント強という底値を付けてから、5年間で1,300ポイント上昇した。つまり価格は3倍になった。

アメリカの株式市場は底力がある、と思う。しかし総ての株価が等しく上昇した訳ではない。そこには強力な牽引車があった。代表的なものはアップルや製薬会社のアラガン、PDFで有名なアドビシステムズなどだ。

もしこれらの銘柄をポートフォリオに持っていたなら、かなり「お金持ち」になったことは間違いないだろう。

先ほど2,000ポイントという株価水準が下値として意識される可能性があると述べたが、簡単に橋頭堡を築けるかどうかは私には分らない。恐らく何度か後戻りを強いられるだろう。特に市場が連銀の政策金利引上げは予想より早いと判断した時は、かなり押し戻される可能性がある。

しかしもし世界のどこかの国の株を買うことで、経済成長の分け前に預かろうと考え、一つの国を選ぶとすれば、それは米国だとという思いを新たにするS&P500の2,000ポイント超えだった。

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晩夏の日光、B級スポットの旅

2014年08月25日 | 旅行記

8月23日(日)-24日(月)、ワイフと日光に出かけた。ここ2,3年は8月の終わり頃奥日光のアストリアホテルに泊まり、温泉に浸って夏の疲れを癒すことを年中行事にしている。何度も日光に足を運び、有名な、つまり東照宮など世界遺産に指定された観光スポットはほとんど見てしまったので、今回はそれほど有名でない所を回ってみることにした。

1日目朝8時半に自宅をマイカーで出発し、最初に向かったのが鹿沼の古峯(ふるみね)神社だ。約2時間で到着。

Huruminejinnjya

茅葺の大拝殿の上に天狗の面が飾られている神社の拝殿に上がると神楽が奉納され、熱心な信者の方がお祈りする姿を目にすることができた。日本武尊の神を祀るこの古い神社は日光を開いた勝道上人が修行を積まれたことでも有名だ。

お昼ご飯を神社の中茶寮で頂くことにして、受付で11時半の予約を済ませてから、神社の向かい側にある「古峯(こぶ)園」という庭園を散策した。

Garden1

僅かに一部の楓が色づき始めている。昼食時に茶寮のおばさんに聞いた話によると「ここの紅葉は素晴らしい。わざわざ人でごった返す日光まで出かけることはありません」ということだった。

Komain_2Komainu2

古峯神社の狛犬は中々面白いポーズを取っていた。

古峯神社から鹿沼の方に少し戻り、県道14号で日光に向かった。14号に入った頃から雨が強くなってきた。この県道は鹿沼と日光の間の山を越えていく狭い道だが、対向車がほとんどなかったので、助かった。

激しい雨が降り続ける中、車を田母沢御用邸に向けた。ここは大正天皇のご静養のために建てられたものだ。

Tamozawa

 

この御用邸には現在の天皇陛下が第二次大戦の末期に疎開されていたそうだ。写真中央のくぼ地のあたりに防空壕が掘られていたと解説員の方から説明を受けたが、雨が激しいので、庭の散策は見合わせた。

田母沢御用邸の後は中禅寺湖畔に登り、中禅寺湖の東岸(立木観音側)のイタリア大使館別荘記念公園を訪れた。いろは坂を登るにつれて雨が上がってきた。記念公園の駐車場として、パンフレットは立木観音の少し先の「歌ケ浜駐車場」を示しているが、そこから500mほど先に行った駐車場の方が記念公園に近いのでそちらに車を止めた。ただし駐車スペースが10台分ほどで狭い。混み合う時は「歌ケ浜」の方が良いだろう。

Italy2

Italy1

イタリア大使館別荘は中を見学することができる(入館料は志で100円程度)。

湖畔に出てみると対岸の山が雲間に現れた。

Italy3

ひと時の雨に切れ間が見せてくれた美しい景色に感動する。

この建物は昭和3年に建てられ、平成9年まで歴代の大使が別荘として利用していた、ということだ。

恐らく多くの大使の方がこのような素晴らしい景色を何度か楽しんだことだろう、などと思いをはせるのも楽しかった。

2日目8月24日は朝から雨。車で10分ほどの湯元に行き、「温泉寺」を参拝。

Onsendera

その後は改修工事中の輪王寺を見学し、宇都宮に近い道の駅「ろまんちっく村」で蕎麦を食べてから帰宅した。 この道の駅には宿泊施設がある。周辺には日光街道の宿場町として見どころの多い徳次郎宿などがあるそうだ。

日光周辺にはまだまだ色々楽しむことができるスポットがあるようだ。

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私がセゾン・バンガード投信を勧める理由

2014年08月23日 | 金融

「セゾン・バンガード・グローバル・ファンド(セゾンバンガード投信)を勧める、などと書き出すと広告料を貰った「記事広告」ではないか?と思われる人がいるかもしれないので、最初にお断りしておくとこれは記事広告ではない。

また私はあまり個別の金融商品をブログで推奨していないが、たまたまWSJで「バンガード投信に投資家の資金の流入が増えている」という記事を目にしたので、投資家の皆様(特に余り投資に詳しくないが、少しリスクを取って金融資産のリターンを増やしたいと考えている人)に一度は推奨した方が良いのではないか?と思った次第である。

WSJの記事のポイントを見てみよう。

  • (インデックス運用を行う)バンガード投信の運用資産は初めて3兆ドル(約310兆円)を超えた。
  • 背景には、投資家の間で、もうかる投資商品の予想をファンドマネージャーに頼る(いわゆるアクティブ運用)のではなく、市場に連動する商品を選ぶ傾向が強まっているという潮流変化がある。
  • バンガード投信への資金流入を加速したのは、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が今年3月に「お墨付き」を与えたことが大きい。660億ドルの純資産を保有するバフェット氏は遺言書で「資産の1割を短期国債に、9割を極めてコストの安いS&P500指数に連動するバンガード投信に投資する」ことをアドバイスしたという。

バンガード投信の魅力の一つは経費率が0.1%と極めて低いことだ。WSJによると他の同様のパッシブファンドの経費率は0.7%で、アクティブファンドの経費率は1.3%である。

低金利時代には実は経費率が運用成績に与える影響は大きい。このことを理解している米国の投資家はバンガードのような低コストのインデックスファンドを先行するのだろう。

このバンガード投信を比較的低コストを日本の一般の投資家が比較的低コストで簡単に買う方法が、セゾンのバンガード・グローバル・ファンドを買うという方法なのだ。

そのセゾンのバンガード投信のパフォーマンスをモーニングスターの資料で見てみよう。

Saison

写真のグラフは「セゾン・バンガード」と「日本株(TOPIX)インデックス投信」の過去1年間のトータルリターンを比較したものだ。トータルリターンとは「価格増減+配当額」を投下資本(購入額)で割ったっものだ。過去1年間のトータルリターンについては「セゾン・バンガード」は15.56%、「TOPIX」は15.44%でほとんど差がない。

過去3年では「セゾン・バンガード」16.01%に対し「TOPIX」17.03%とTOPIXが若干上回るが5年になると「セゾン・バンガード」9.15%「TOPIX」7.82%とセゾン・バンガードが上回っている。

ただしこのことよりも私が強調したいことは「セゾン・バンガード・グローバル・ファンドの方が日本株インデックスより、リターンのばらつきが少ない」ということだ。簡単にいうと基準価格のブレの度合いが低いということである。

やや専門的にいうとシャープレシオ(「ファンドの平均リターンー安全資産利子率」÷標準偏差」が、セゾン・バンガードの方が日本株インデックスより高いということだ。

より直観的にいうと、「何らかの理由で資金化したい」と思った時にセゾン・バンガードの方が元本割れを起こしているリスク(ならびにその度合い)が、日本株インデックスファンドより小さいと考えて良いだろう。

その理由はセゾン・バンガードは株式・債券の運用比率が半々、株式・債券はそれぞれドル・ユーロそして一部円という具合に分散投資されているからである。

つまりリスクを分散した分散投資をしながら、日本株インデックス運用と同等のリターンを上げているということなのである。

ところでセゾン・バンガード・グローバル・ファンドの信託報酬は年0.74%だ。本場のバンガード投信に較べると相当高いが、日本のファンドに較べると私はかなり良心的だと思っている。

さてあなたが、ウォーレン・バフェット氏を凌ぐ運用能力の持ち主であるのなら、私の説明から得るものは何もないだろう。だがもしそうでないと考えるのであれば、バンガード投信に多少は魅力を感じたのではないだろうか?

★   ★   ★

 

最近出版した電子本

 

「英語の慣用表現集」 http://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00LMU9SQE/

「人生の山坂の登り方・降り方」 http://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00LYDWVPO/

 

 

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イエレン議長がタカ派に見える日

2014年08月22日 | インポート

ドルがユーロや円に対して強含んでいる。ドル指数は昨年9月以降で最高値だ。ユーロは1.33を割り込んで1.328レベル、これは昨年9月来の安値だ。円は103円後半レベルまで売り込まれている。

ドルが強含んでいる理由は、日米欧の景気動向と中央銀行のスタンスの差が明確になってきたことによる。

市場参加者が注目しているのは、今日ジャクソンホールで行われる中央銀行総裁のスピーチだ。一番注目されているのは米連銀のイエレン議長だが、彼女の話は後に回して、イエレン議長の後に発言する予定のECBのドラギ総裁については、景気が低迷して、インフレ率が危険水域と思われる0.4%まで落ち込んでるユーロ圏でどのような金融緩和策を取るかが注目ポイントだ。今月初めにドラギ総裁は、デフレ対策としてABSの購入や量的緩和など非伝統的な政策も視野に入れるといっているので、市場参加者は更に踏み込んだ話を期待している。

そして更なる緩和策が打ち出されるとそれはユーロ安の材料になる可能性が高い。

日銀の黒田総裁の発言も注目されている。日銀は4月の消費税引き上げの影響は、一時的なものだと言い続けているが、第2四半期のGDP成長率が年率1.7%の収縮を示したことで、市場参加者は黒田総裁が景気の弱さを認めるような発言をするかどうかを注目している。日銀総裁が景気の弱さを認めると追加的な金融緩和が行われると判断されるので、円売りの材料になるからだ。

米連銀については、先日発表されたFOMC議事録などからハト派と目される人もタカ派と目される人も米国の労働市場については相当改善が進んでいる、という点では認識が共通していることが明らかになってきた。もっともタカ派は金利の正常化(ゼロ金利の解除)について今すぐに話を始めるべきだと主張するのに対しハト派は時期尚早だという違いはある。ただその違いはそれほど大きくないかもしれない。

その中で注目されるのがハト派と目されてきたイエレン議長の発言だ。もしイエレン議長が大方の予想よりもタカ派よりの発言をする場合、ドルは相当強含む可能性があると私は考えている。もっとも同議長が予想よりもタカ派寄りの考え方を持っているにしても、今日のスピーチでそれを占めすかどうかは分らないが。

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