金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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「女性の活躍」のネックは、総合職のオプション売り構造

2014年08月21日 | うんちく・小ネタ

安倍政権が成長戦略の中核に掲げる「女性の活躍」。政府は2020年までに指導的立場にある女性の割合を3割程度に引き上げることを目標に掲げている。

現実はどうか?というと今週日曜日のNHK討論を見ていると、女性で課長職以上を目指すという人の割合は1割少々だった(男性は6割)。討論者の意見を聞いていると女性が管理職を希望しない理由は、管理職になると際限なく仕事を押し付けられることを警戒しているようだ。

私はこの問題の根幹には、「総合職のオプション売り構造」にあると見ている。総合職のオプション売りという言葉は私が勝手に作った言葉なので、まず意味を説明しよう。

ここでいうオプションとは「会社が総合職に転居を伴う転勤を命じる権利」「会社都合で担当職務を変更する権利」などを指す。オプションを売るということは、それらの権利を会社に与えるということで、オプションを売る側は対価としてプレミアムを受け取る。仮に地域限定型総合職と全国型総合職の区分がはっきりしている会社があるとすれば、このオプションプレミアムは「全国型総合職の年収ー地域限定型総合職の年収」と同程度となるだろう。

会社はオプションプレミアムを払うことで、業務の必要に応じて迅速に担当職務の変更や転居を伴う権利を確保しているから、柔軟に業務の拡大(場合によっては業務の縮小)に対応できた訳だ。もっともこのような制度により、長期雇用契約が維持されてきた面があるので、勤務者側にもメリットはあった。少なくとも右肩上がりの時代や大きな構造改革が起こるまでは。

このような「総合職のオプション売り構造」は、かなり日本固有のものだろう。たとえば米国では「会社に就職する」のではなく「ある特定のポストに就職する」から、オフィサー(総合職)に対して、違うポストへの移転を命じることはできない(相談することは可能だが本人の同意が必要)。まして日本の会社のように辞令一つで海外まで転勤を命じることなど全く不可能である。

このような「総合職のオプション売り構造」は、経済が拡大している時は企業の競争力を高める効果があった。総合職側にしても、オプションプレミアムとして高い給料を得るというメリットに加えて、転勤・担当職務の変更を経験しながら組織の階段を昇っていく(可能性がある)というメリットがあった。

しかし当然マイナス面もある。まず専業主婦が多かった時代は一家そろってダンナの転勤先についていくことが可能なケースが多かった(子どもの学校によっては無理なことも多いが)。しかし共働きが増えてくると妻がダンナの転勤先について行くことは不可能になってくる。また共働きの女性が「指導的立場」に立つと転勤を命じられることもあるだろう。この場合もダンナが妻の転勤先について行くことは普通は不可能だろう。

このように考えると「総合職のオプション売り構造」は女性の活躍の一つのネックになっていると思われるのである。

ある時代に強みの源泉となった仕組みは世の中のパラダイムが変わると足かせになる場合がある。

会社としては命令一本で「どこへでも転勤する社員」を確保しておきたいところだろうが、コスト面や人材確保の観点から見直す必要があるのかもしれない。

オプションを売る総合職側にとっても、転居や単身赴任の経済的・非経済的負担が受け取るプレミアムに見合うものかどうか見直す必要があるだろう。

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中国製は安いはもはや過去の話

2014年08月20日 | 社会・経済

昨日(8月19日)ボストンコンサルティング・グループBCGがリリースしたレポートによると、中国の生産コストが上昇する一方、米国とメキシコのコスト競争力が改善し、中国はコスト面の競争力を失いつつある。

米国労働省労働統計局等の資料に基づいて米国を100とした時の中国のコストは96だ。このBCGグローバル工業コスト競争力指数によると、米国より指数が低い国は、インドネシア93、インド87、メキシコ91、タイ91、中国96、ロシア99だ。

一方米国より指数が高い国はドイツ121、日本111、ブラジル123などだ。

この指数のコスト構成要因は「賃金」「電力」「天然ガス」「その他(為替レート)」となっている。アメリカが競争力を回復している理由としては、シェールガスの産出拡大効果が大きい。北米では天然ガス価格は過去10年間で25-35%ほど低下しているが、中国とロシアの天然ガス価格はそれぞれ138%、202%増加している。また産業用電力価格も同期間に中国とロシアでそれぞれ66%、132%上昇した。賃金については中国では過去10年で5倍弱上昇している。

企業が生産拠点を定める決定要因は生産コストだけではない。ロジスティクスや品質管理も大きな要因だ。

生産コストの差が数ポイントまで縮まり、更にトレンドとしては中国では賃金やエネルギーコストの上昇が見込まれる一方、米国やメキシコではエネルギーコストや賃金の上昇が緩やかなことを考えると、製造業の北米回帰がシフトが遠くない将来起きる可能性があるだろう。特に製造コストに占める人件費の割合が低く、輸送コストの割合が高い輸送機器部品等については、米国に製造拠点を戻す動きが起こりそうだ。

もし製造業の米国回帰が進むとすると、米国の労働市場は改善し、さらに貿易収支の変化や国際的な資本収支の変化が起こり、政治地政学的な風景も変わってくる。現時点でそこまで予想することは不可能だが、少なくとも「中国製は安い」という話は過去の常識に過ぎなかった、と米国人が感じる日はやがて到来しそうである。

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【イディオム】The devil is in the detail

2014年08月19日 | 英語

The devil is in the detailは「悪魔は細部に潜む」という意味で「落とし穴は細部に隠れている」という意味だ。

昨日(8月18日)米国株はダウ・S&P・ナスダック3市場揃って大幅に上昇した。理由は「ウクライナ=ロシアの緊張緩和」「全米ホームビルダー協会とウエルスファーゴ銀行が発表した住宅市場指数の3か月連続の上昇」「小売業ダラー・ジェネラルの同業買収提案への好感」などだった。ただし商いが薄い中での上昇だったので、昨日の動きが市場の方向感を出すには至っていないと思われる。

市場参加者は今週木曜日に始まるジャクソンホールで行われる世界の中央銀行総裁が参加する経済フォーラムを注目している。経済フォーラム自体は無風状態で終わるだろうが、市場参加者が注目しているのは、金曜日のイエレン米連銀議長のスピーチだ。

WSJはBesemer Trustのチーフ・インベストメント・オフィサーの声を紹介していた。

It is not what the FED is going to do, it's the speed and the exact timing. The devil is in the details with FED.

「それは(関心事は)連銀が何をしようとしているかではなくて、そのスピードと正確なタイミングである。落とし穴は連銀の細部に隠れている。」

市場参加者にとって10月に債券購入プログラムを終了する連銀が次に金利引上げに動くことはほぼ織り込み済みのことだ。問題は金利引上げがどれ位のスピードでいつ行われるか?ということに関心は移っている。だから連銀議長のスピーチからそのヒントを見つけようと耳を澄ましているのだ。悪魔のささやきは少しでも早く聞いたものの勝ちだからだ。今後の鍵となる経済データは労働市場とインフレ率だ。連銀議長がこれらの指数の動きから何を引き出すか?に米国の株式・金利・ドル相場はかかっている。

★   ★   ★

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黒人青年射殺事件、「典型」の罠の例

2014年08月18日 | 社会・経済

米国ミズーリ州で武器を持っていない黒人青年が白人警官に射殺された事件に対して、抗議デモが起こり、周辺の商店が襲われるなど緊張が高まっている。ミズーリ州知事はセントルイス郊外のファーガソンに非常事態を宣言した。

このニュースを見て私は最近読み始めた「リスクにあなたは騙される」(ダン・ガードナー 早川書房)のある一節を思い出していた。

・・・「西欧諸国、特に米国に不幸にも普及している典型性にまつわる迷信の一つは、黒人にかかわっている。つまり、典型的な黒人は犯罪者であり、典型的な犯罪者は黒人であるというものだ。・・・自覚的であろうとなかろうとこのことを信じている人が、都会の歩道を歩いているところを想像するといい。黒人が一人近づいてくる。瞬間的に、この人の「腹」は「典型的なものに関する規則」を用いて、この黒人が犯罪者である見込みが高いと判断するだろう」

射殺された黒人青年は近所で起きた強盗事件の容疑者と疑われたという話や道路の真ん中を歩いて交通妨害していたので、射殺した警官と口論になり、警官が発砲したとという話が流れている。

事実がはっきりするには少し時間がかかるだろうが、射殺した警官の頭の中、いや「腹」の中に「典型的な黒人は犯罪者である」という固定観念があったことは間違いないだろう。

「リスクにあなたは騙される」によると我々は「典型的なものに関する規則」でしばしば騙される。「典型的ないくつかの出来事で構成されている詳しいシナリオの方が、それらの出来事の部分集合より起こりそうに思われることがある」

心当たりがあるのは、将来のリスクに関する経済予測本だ。予測本は少数のシナリオをついてかなり詳細な予測を述べるので、読み手は「リアリティ」を感じて、シナリオを対する信憑性を高めてしまうようだ。

ファーガソンの警察当局は、黒人青年に発砲した警官のWilsonは「優しくて静かな男で優秀な警官だ」と述べている。

しかし優しくもの静かな男が固定観念にとらわれている場合は大いにありうるのである。

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電子本「英語の慣用表現集」割引キャンペーン

2014年08月16日 | 本と雑誌

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Idiom

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