ニューヨーク・ダウが一昨日高値を更新し、昨日も又高値を更新した。しかしこの様な中ヘッジファンドのパフォーマンスは余り上がらず、閉鎖するファンドが続いているとウオール・ストリート・ジャーナルは本日(10月4日)報じている。
「幸せな人間は同じように幸せだが、不幸な人間はそれぞれの理由で不幸である」とトルストイはアンナ・カレーニナの中で述べているが、パフォーマンスの悪いファンドはそれぞれの理由でパフォーマンスが悪いとこの箴言を言い替えても良いだろう。
ウオール・ストリート・ジャーナルが実名を上げて大きく取上げているパフォーマンスの悪い運用会社はベガ・アセット・マネジメント(以下ベガ)である。同社の場合の不幸の状況を見てみよう。
- ベガは数年前は世界最大級のヘッジファンドの一つだったが、米国債への拙い投資で損失を被り、資産残高は2年前のピークの75%30億ドルにまで縮小している。ベガはここ数年色々な市場で損失を出しているが、最近は米国、欧州、日本の債券相場で大きな損失を出した。ベガは米国債等の価格が下落すると思い、大きな賭けに出た(つまりショートポジションを取った)が、世界的に景気が減速するという兆候が出て債券相場は上昇した。ベガの最大のファンド、ベガ・セレクト・オポチュニティ・ファンドは9月に~しかもその大部分は最終週に~11.5%の価値を失った。又年初来17.5%価値が下落している。
- ベガ社はオペレーションを止める計画はないといっているが、同社がたどった判断の誤りは多くの閉鎖したファンドがたどった道筋である。
- ヘッジファンドリサーチ社によれば、2005年1月以来2,622の新しいヘッジファンドが誕生しているが、同時期に1,071のファンドが閉鎖されている。2005年だけで848のファンドが閉鎖されているが、これは年初存在したファンドの11.4%に相当する。これは2004年に閉鎖されたファンドの数(296)の倍以上である。
- ヘッジファンド業界ではここ数年多くのファンドが限られた投資アイディアを追い求め、リターンを低下させる傾向にあった。ヘッジファンドのリターンは2004年と05年が9%強で今年は8月までのところ6.9%である。
なおこの新聞記事では説明がないが、ヘッジファンド指数のリターンというのは十分注意して解釈する必要がある。何故なら現在生き残っているファンドをベースにリターンを求めると、成績が悪くて閉鎖したファンドのパフォーマンスが反映されないからである。
- JPモルガンの経営責任者ダイモン氏は「ファンドの合併やファンドの閉鎖があるので今後ヘッジファンドの数は減少するだろう」と言っている。
ベガファンドの話を見るとヘッジファンドと言っても、その名前の由来のようなヘッジつまり売り買い両建のポジショニングをしている訳ではなく、相場観から買い持ち・売り持ちにポジションを傾けていることが良く分かる。ちょっと前に大損をしたことが明らかになったアマランチ・ファンドなども随分荒っぽい賭けをやっていた様な気がする。
ウオール・ストリート・ジャーナルは「やけどした投資家の中にはヘッジファンドに懐疑的になっているものもいる」と書いているが、日本の年金基金等機関投資家の中にもヘッジファンドに投資して背筋を寒くしている人がかなりいるのではないだろうか?
今日クイックに「高利回りを約束した利殖商法で個人の被害が急増」という記事が流れていた。騙す人間が悪いことはいうまでもないが、騙せる方もそんな上手い話はないとちょっと疑う必要があるだろう。
機関投資家についても同じである。年金基金等の機関投資家といっても運営しているのは個人である。まずは担当理事達が美味しそうな話に対して世の中にそんなうまい話はないのじゃないか?といった見識を持つことが肝心であろう。