金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

原油価格低下の影響

2008年10月22日 | 社会・経済

自分自身を含めて人間はホトホト先が読めないものだと思う。特に今年の原油価格の動きを見ているとその思いを強くする。今年2月に原油価格が1バレル100ドルを越えた時はOPEC諸国は原油価格の高騰は投機家の責任だと文句を言っていた。夏前には原油価格は200ドルに到達するというアナリストの意見も真剣に受け止められていた。ところが世界的な金融危機から景気減速が鮮明になってくると、原油価格は下落し始め今週火曜日には70.89ドルまで下がった。これはほぼ14ヶ月振りの低価格だ。

原油価格の低下に慌てているのはOPEC諸国だ。OPECは今週金曜日にウイーンで会合を持つ予定で、多くのアナリストはOPEC諸国は1日100万バレルの減産を決めると予想している。100万バレルの減産は世界の一日の消費量の1%以上だ。

ニューヨーク・タイムズによるとJPモルガンのアナリストEagle氏はOPECは原油価格が1バレル70ドル以下に落ちることを望んでおらず、80ドル当たりが座り心地が良いと見ている。しかし国によりターゲットとする価格は異なる。イランやベネゼラは国家予算を均衡させるにはバレル95ドルは必要だと言われている。原油価格の高止まりを狙うイランは一日250万バレルの減産を主張している。しかし原油価格が高止まりすると、世界の景気回復が遅れ、石油消費量が減少し産油国の外貨獲得額が減少するという問題がでる。

私は原油価格が低下して、イランやロシアのような産油国が少しおとなしくなることは世界の治安安定のためにプラスになると考えている。治安が安定すると米国の軍事支出が減少し、景気回復にプラスとなる。これは世界経済に組み込まれた一種のホメオスタシス(恒常性維持機能)といえるかもしれない。

ところで原油価格が低下したことで、大きな損害を被った業界がある。それは米国のバイオ燃料業界だ。2005年に議会がバイオ燃料をガソリンに添加することを求める法律を可決したことで、バイオ燃料業界に投資が殺到した。ところが原油価格の低下でバイオ燃料業界の株価は大きく下がっている。ファイナンシャル・タイムズによると業界の公開会社6社の時価総額は2006年中頃のピーク時に較べて87億ドルも減少している。このためヘッジファンドなど多くの投資家が損失を抱え込んでいるが、その中にはマイクロソフトのビル・ゲーツ氏もいるということだ。

バイオ燃料で損をしたのは投資家だけではない。米国政府はバイオ燃料業界に112億ドルの税制優遇措置を与えているのでこれは国民の負担だ。一時ガソリン代替燃料として人気が高かったバイオ燃料だが、今では「穀物価格高騰の犯人」としてすっかり悪役になっている。

だが冷静に考えると石油が有限な資源であり、いつか枯渇することは間違いない。それがいつかということについては色々な見方があるが。

我々はこの世界的な経済成長の減速時期を石油資源の点からは代替エネルギー開発の好機ととらえてその努力を加速するべきだろう。代替エネルギーはバイオ燃料や水素電池だけではない。例えば自転車の安全利用を促進するべく、専用道路を整備したり、通行の邪魔になる電柱の撤去(電線の地価埋設)を行うなどということもこの時期やるべきことではないか?と私は考えている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする