世界的な金詰りの中で日本の海外企業買収が目立ってきた。日本は過去に2度大きな海外投資を経験している。一度目は1980年代の後半から90年代の初期、日本の不動産バブルの時代に海外不動産投資を活発に行った。次の波は10年後の2000年頃、IT企業への投資が活発化する。だがこの二つの海外投資は失敗に終わっている。今度はどうだろうか?
エコノミスト誌によると今年前半に日本企業が関与した海外買収案件は6兆円を越える。これは過去最高に海外買収案件が多かった06年を上回るハイペースだ。日本の上場企業は60兆円という現金を持っているので、まだまだ買収は続きそうだ。
エコノミスト誌は世界最高レベルの経済誌だが、皮肉もまた第一級だ。同誌は日本企業が現金を貯め込むことができたのは、企業統治と予算管理が下手だからだという。つまり株主の力が強ければ、企業は現金を配当に回すか自社株買いに回して株主価値を高めることになったが、日本では株主の力が強くないので、企業は現金を蓄えることができたという論法だ。
もっともエコノミスト誌によると、日本勢が海外企業のオーナーになることは被買収企業からは歓迎されている。何故なら日本企業は長期的に買収した企業を保有し、企業価値を高める努力をするし、雇用も大切にするからだ。
世界的な信用収縮と株価低迷は、キャッシュリッチな日本企業に世界への飛躍のチャンスを与えてくれる。それはそれで良い。しかし日本企業が海外投資を高めるということは、日本国内に投資対象がないということの裏返しでもある。電子機器メーカーTDKは2千億円を投じてドイツのEpcos社を買収した。武田薬品は88億ドルを投じて抗がん剤メーカーのミレニアムという米国の薬品会社を買収した。資金や雇用は海外に移るのである。そして優れた研究者やノウハウもまた海外に移るのである。競争相手がグローバル化しながら、力をつけると対抗上同業者のグローバル化も進む。世界的な信用収縮回復に2,3年時間がかかるとすると日本企業の海外M&Aはかなり進むかもしれない。
ただし「禍福は糾(あざな)える縄の如し」という言葉があるように、活発化する日本のM&Aが国民経済の観点から見ると良いことばかりでないことは頭に入れておいた方が良い。