金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

コラテラル・ダメージ

2008年10月28日 | 金融

エコノミスト誌に「コラテラル・ダメージ」Collateral damageという記事があった。昨今の邦銀の株価急落を取り上げたものだ。表題のCollateralという単語を見た時「担保のことか?」と思ったがどうもしっくり来ないので、少し考えたところ、シュワルツネッガー主演の「コラテラル・ダメージ」という映画があったことを思い出した。テロに巻き込まれて妻子を失った主人公が犯人を捜すという内容だったと思う。調べて見るとコラテラル・ダメージとは「テロや武力行使に巻き込まれて生じる間接的な被害」という意味だ。Collateralには「担保」の他に「平行して」という意味がある。いやむしろこちらの方が一般的に使われるのかもしれない。

エコノミスト誌の記事の最後は、They are victims not of contagion,but of collateral damage.と結ばれていた。「彼等(邦銀大手行)は、サブプライムローンや証券化商品の汚染の犠牲者ではなく、その巻き添えで犠牲になった」という意味だ。

巻き添えの経路は次のようなものだ。

① サブプライム関連商品や信用リスクの高いハイイールドな金融資産のデフォルトリスクが高まったので、円を借りてそれらの資産に投資していた「キャリー・トレーダー」達は、円高を恐れて急速に手仕舞いを始めた。

②このキャリー・トレードの巻き直しや円への逃避のため、急速な円高が進んだ。急速な円高は輸出企業の業績悪化見通しにつながり、日本株が急落した。

③「株式持合い」で取引先の株を保有している邦銀は、急速な株安で評価損が資本勘定を圧迫する懸念が出てきた。(含み損の約6割をコア資本から控除する必要がある)

④昨日三菱UFJが1兆円(金額はラフ)の資本増強を行うというニュースが流れたが、これが銀行の脆弱さを想起させたり、希釈化が敬遠されたりで、邦銀大手株に激しい売りがでた。時価総額の大きい銀行株の下落は日経平均の急落につながるという負のスパイラルが起きた。

これがコラテラル・ダメージに至る流れだ。改めて世界の色々な市場が一つの船に乗っていると思う次第だ。

これからの銀行のリスク管理は正面の敵だけではなく、予期せぬテロや武力騒動に巻き込まれるリスクもシナリオの中にいれなくてはならない様だ。

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いつキャリートレードは終了するのか?

2008年10月28日 | 金融

昔銀行で金利や為替に携わっていたが、その頃から為替相場を予想することは金利に較べて難しかった。今はヘッジファンドなどプレーヤーが増えているし、「ミセス渡辺」という日本人個人投資家も増えているので、益々為替相場の予想は困難になっている。

ニューヨーク・タイムズにMartin Fackler氏が次のような記事を書いていた。

  • 多くの為替アナリスト達は最近の円高は円キャリートレードの突然の終了によるものが大きい。
  • だが円キャリートレードでどれ位の円が流出したか?は誰も分からない。何故なら円キャリートレードは当局の監視の目が届かないオプションやその他のデリバティブの形でも行われているからだ。大部分のアナリストは円キャリートレードの残高は数千億ドル規模という点で一致している。中には5千億ドル以上という者もいる。JPモルガンの佐々木氏が3年前に計算した時は4250億ドルだったが最近もっと大きくなっているだろうと彼は言う。
  • しかしハイリスクな資産からの逃避と円以外の通貨の金利引き下げ(および予想)でキャリー・トレーダーは手仕舞いを大急ぎで手仕舞いを始めている。
  • 佐々木氏は円キャリートレードの巻きなおしで円はドルに対して87円までいくとJPは見ているが、80円を超えることもありうると述べている。
  • またドイツ銀行のフクヤ氏は円高は1ドル90円付近で落ち着くまで11月に入っても続くだろうと予想している。彼は大部分のキャリートレードはポジションの整理がついているが、後数週間円買いは続くだろうと述べている。

ところでキャリートレードのような「美味しい話」が続いたということは「金利平価説」のとおり市場が動いていなかったということだ。「金利平価説」とは金利の高い国の通貨は先物為替が安くなるという説である。

計算しやすいように1ドル=100円、円金利1%、ドル金利3%とする。円で1年間運用すると元利金は101円、ドルで1年間運用すると元利金は1.03ドル。裁定が働くならば1年後の為替レートは、101円÷1.03ドルで98.06円になる。つまり1年に2円程度円高が進むというのが平衡説である。もし平衡説のとおり円高が進めばキャリートレードの妙味がないので誰もキャリートレードを行わない。ところが色々な要因で円安が続いた~例えば円を売って外貨を買う日本人個人投資家の動きもある~ので、キャリー・トレーダー達は円高を恐れず続けることができたのだ。

それがにわかに円高模様となったので、参加者全員が円買いに殺到して円を押し上げているというのが現状だ。

それにしても円が80円半ばまで行けばドルを買おうか?なんて考えているので私も懲りない投資家の一人である。

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Head off (イディオム・シリーズ)

2008年10月28日 | 英語

Head off (something)とは「(何か)悪いことを避ける」「人や動物の動きを止める」という意味だ。ニューヨーク・タイムズに次の文章が出ていた。That was not enough to head off another sharp slide in Tokyo.「それは東京(の株式市場)の次の下落を止めるには十分ではなかった」

Thatの中身は「麻生首相が金融機能強化法を改正して公的資金枠を10兆円に拡大すると言ったこと、空売り規制をすると言ったこと」だ。10月27日には韓国中央銀行が政策金利を0.75%引き下げ4.25%にする、あるいはオーストラリアが豪ドル防衛のため通貨介入を行うなど各国政府・中央銀行が株価・通貨防衛に動いたが功を奏さなかった。

最近の株価の動きを見ていると実に安定感がない。日中少し上昇しても場が終わる前の短い間に急速に値を下げることが多い。昨日の東京もニューヨークもこのパターンだった。株価下落をHead offすることはしばらく困難かもしれないという気がしてきた。

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