今日(10月8日)日経平均は952.58ポイント、率にして9.4%下落した。1987年10月以降最大の下落だ。この下落を経済合理性で説明することは難しい。優良銘柄も押しなべて売られているので、投資家から資金返還を求められているヘッジファンドが投売りしているということも一因だろう。マーケット・ニュートラルと呼ばれる株の買い持ち・売り持ちポジションを取ることが出来なくなったヘッジファンドが手仕舞いするので、買い持ちしていた株を売っているということもあるだろう。だがこの程度の原因ではこの異常なマーケットを説明することは難しい。
ニューヨーク・タイムズはこれを「恐怖心理が支配する市場」だと説明を経済学や投資理論ではなく、心理学や行動ファイナンス理論に求めている。要点は次のとおりだ。
- 平常時において市場は「恐怖」と「欲望」のバランスで成り立っている。だが今は「恐怖心理」が市場を支配している。もともと「恐怖」は「欲望」よりも強い力を持っているだろうとMITのLo教授は言う。
- 「恐怖」をつかさどるのは小脳扁桃で、認知機能をつかさどる大脳よりも早く反応するので、恐怖の感情の方が強い力を持っている。
例として挙げられているのは、行動ファイナンス学者カーネマンの実験だ。彼は学生に「ノーリスクで3000ドル貰える選択か80%の確率で4000ドル貰える(20%の確率でなにも貰えない)選択かどちらを選ぶか」と学生に聞いたところ、大部分の学生は3000ドルを選択した。期待値でいうと4000ドル×80%=3200ドルで後者の方がリターンは大きいのだが。
またカーネマンは学生に「確実に3000ドル失うという選択と80%の確率で4000ドル失うという選択とどちらを選ぶか」と聞いたところ、大部分の学生は後者を選択した。
これは「人は金を失うことを恐れてより大きなリスクを取る」ということを示している。
今日市場で起きていることは、このようなことだというのがニューヨーク・タイムズの説明だ。この状態を難しい言葉では「ネガティブ・フィードバック・ループ」と呼んでいる。フィードバックとはある体系において出力結果が入力原因に戻って制御することだ。簡単な例ではサーモスタットだ。温度が一定レベルに達するとスイッチが切れるので温度が下がるという装置だ。
住宅価格が下落し始めると人々は自宅の価値がローン残高より下がることを恐れて、家を売りに出す。すると売りが売りを呼んで住宅価格が又下がる。これがネガティブ・フィードバック・ループだ。ニューヨーク・タイムズは「一般にこれをパニックと呼ぶ」と書いている。
アメリカのマズローという社会心理学者は人間の欲求を五段階に分けて説明している。それによると一番下位つまり一番動物的な欲求は「食べ物・睡眠などに対する生理的欲求」で、その次の欲求が「安全欲求」だ。彼の分類では「財産形成の欲求」は明示されていないが、この一段か二段上にくることは間違いない。つまり彼の学説からも安全=恐怖回避の欲求が強いことが分かる。