金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

恐怖心理が支配する市場

2008年10月08日 | 株式

今日(10月8日)日経平均は952.58ポイント、率にして9.4%下落した。1987年10月以降最大の下落だ。この下落を経済合理性で説明することは難しい。優良銘柄も押しなべて売られているので、投資家から資金返還を求められているヘッジファンドが投売りしているということも一因だろう。マーケット・ニュートラルと呼ばれる株の買い持ち・売り持ちポジションを取ることが出来なくなったヘッジファンドが手仕舞いするので、買い持ちしていた株を売っているということもあるだろう。だがこの程度の原因ではこの異常なマーケットを説明することは難しい。

ニューヨーク・タイムズはこれを「恐怖心理が支配する市場」だと説明を経済学や投資理論ではなく、心理学や行動ファイナンス理論に求めている。要点は次のとおりだ。

  • 平常時において市場は「恐怖」と「欲望」のバランスで成り立っている。だが今は「恐怖心理」が市場を支配している。もともと「恐怖」は「欲望」よりも強い力を持っているだろうとMITのLo教授は言う。
  • 「恐怖」をつかさどるのは小脳扁桃で、認知機能をつかさどる大脳よりも早く反応するので、恐怖の感情の方が強い力を持っている。

例として挙げられているのは、行動ファイナンス学者カーネマンの実験だ。彼は学生に「ノーリスクで3000ドル貰える選択か80%の確率で4000ドル貰える(20%の確率でなにも貰えない)選択かどちらを選ぶか」と学生に聞いたところ、大部分の学生は3000ドルを選択した。期待値でいうと4000ドル×80%=3200ドルで後者の方がリターンは大きいのだが。

またカーネマンは学生に「確実に3000ドル失うという選択と80%の確率で4000ドル失うという選択とどちらを選ぶか」と聞いたところ、大部分の学生は後者を選択した。

これは「人は金を失うことを恐れてより大きなリスクを取る」ということを示している。

今日市場で起きていることは、このようなことだというのがニューヨーク・タイムズの説明だ。この状態を難しい言葉では「ネガティブ・フィードバック・ループ」と呼んでいる。フィードバックとはある体系において出力結果が入力原因に戻って制御することだ。簡単な例ではサーモスタットだ。温度が一定レベルに達するとスイッチが切れるので温度が下がるという装置だ。

住宅価格が下落し始めると人々は自宅の価値がローン残高より下がることを恐れて、家を売りに出す。すると売りが売りを呼んで住宅価格が又下がる。これがネガティブ・フィードバック・ループだ。ニューヨーク・タイムズは「一般にこれをパニックと呼ぶ」と書いている。

アメリカのマズローという社会心理学者は人間の欲求を五段階に分けて説明している。それによると一番下位つまり一番動物的な欲求は「食べ物・睡眠などに対する生理的欲求」で、その次の欲求が「安全欲求」だ。彼の分類では「財産形成の欲求」は明示されていないが、この一段か二段上にくることは間違いない。つまり彼の学説からも安全=恐怖回避の欲求が強いことが分かる。

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不況は健康に良いか悪いか?

2008年10月08日 | うんちく・小ネタ

世の中には変なことを真面目に研究している人がいるものだ。「不況と健康の関係」などもその一つだろう。ニューヨーク・タイムズによると2000年5月のクオータリー・ジャーナル・オブ・エコノミクスに「不況はあなたの健康に良いか?」という論文が発表された。その論文によると1974年と1082年の景気後退期に死亡率が低下し、1980年代の景気回復期に死亡率が上昇している。失業率が1%上昇すると、死亡率が0.5%低下するという相関関係があるとその論文は述べている。死亡率を低下させる原因は心臓病と自動車事故の減少だ。

スタンフォード大学のミラー助教授は、南米コロンビアでコーヒー価格と健康・幼児死亡率の関係を調べている。それによるとコーヒー価格が下落して作付けが落ちると、両親は子供の面倒を見る時間が増えて清潔や飲料水を用意したり、ワクチン注射を受けるために遠くの医者まで連れて行くことができるので幼児死亡率が低下する。一方コーヒー価格が上昇すると仕事が忙しくなり子供の世話が手薄になり、幼児死亡率が上昇する。

ミラー助教授は米国の景気と健康についてこう述べている。「景気が良くて忙しい時は健康に良いことを横において、仕事に勤しむ。そして更にストレスを感じる。だが景気が悪くなり仕事量が減ると、自宅で料理を作ったり、運動をする時間ができる。また忙しいと先延ばしにしていた医者通いもできるので健康にプラスの面が多い」

無論長期的にみれば経済発展が国民全体の健康水準や長寿化に寄与していることは間違いない。国民所得の水準は衛生状態や医療の充実度に密接に関係している。

だが短期的に見れば、景気が悪化したり、ガソリンや諸物価が上昇することは健康面でプラスに働くことも多い。例えば車に乗ることを抑えて歩くことや自転車に乗ることを増やすことが、健康促進にプラスであることは明らかだ。脂分の多い外食やテイクアウトを減らし、カロリーに注意して自分で食事を作ることが体に良いことも明らかなことだ。

私は不景気と健康の関係を「絶食療法と健康」の関係に似ているのではないか?と考えている。私はやったことがないけれど、数日間の絶食(無論正しい指導が必要だ)は健康改善にプラスだという話を聞く。つまり適当な期間の不景気はライフスタイルを見直し、健康な生活を行う上で上手く利用するとプラスに生かすことができる。

しかしもし絶食が長く続くと死んでしまう。同様に不景気が長く続くと、失業者などは十分な医療サービスを受けることができなくなり病気を悪化させるだろう。また長引く不景気が人々のストレスを高め健康悪化につながることも容易に推察できるところだ。

今私達に出来ることは不況が余り長引かないことを祈りつつ、不況を利用して健康な生活を送ることだろう。

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「空売り規制」に効果なし

2008年10月08日 | 金融

9月22日に米国のSECは金融関連株の空売りを禁止した。当初の規制対象銘柄数は799銘柄で後に190銘柄が加えられた。追加銘柄にはGEやGMのように明らかに金融と関係ない銘柄も含まれている。関係者の間では「業績の下方修正見直しを発表すると空売り規制銘柄リストに入る」という冗談ともつかない噂が流れている。

空売り禁止は今日から解禁になる。解禁を前にしてニューヨーク・タイムズは「空売り規制で何か違いがあったか?」という記事で空売り効果に疑問を投げかけている。

空売り禁止の9月22日以後金融株は23%下がった。もっともこれをもって空売り規制の効果があったかなかったかを判断することは困難だ。相場は他の経済現象と同じく一度限りの事象だからだ。

ただし次のような専門家の意見は傾聴に値する。一つは空売りは単にショートオンリーの戦略から行われるのではなく、ロング・ショート戦略で使われる。つまり将来値上がりしそうな銘柄を買い持ちして、値下がりしそうな銘柄を空売りする戦略だ。従って空売り規制がかかると買い持ちもなくなる。買い需要が落ちるので株式市場全体が下落するという理屈だ。

もう一つは転換社債の発行が困難になったことだ。トレーダーは転換社債の引受ポジションをヘッジするために、発行会社の株をショートする。ところが空売り規制があると、ヘッジができないので転換社債の発行が難しくなるという理屈だ。

以上のようなことを見ると空売り規制で金融株の下落を食い止めることは不可能で、空売り規制は市場を不活発にしたというマイナス面が大きかったかもしれない。

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