金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

補助金不正経理と員数合わせ

2008年10月23日 | うんちく・小ネタ

「員数合わせ」とは旧日本軍の弊風で、部隊の備品の数を他所の部隊から盗んででも揃えるようなことを指す。旧日本軍では装備の数の点検が非常にうるさく、軍靴・毛布といった備品の数が規定数より少ないと体罰を加えられる。そこで不足を生じると、他所の部隊からかっぱらってきて数を揃えるようなことを員数合わせといった。

この弊風は今日の日本の官僚社会に脈々と生きている。旧社会保険庁において年金の掛け金額を間に合わせるため、加入者の標準報酬を低く改竄(かいざん)するなどは今日の員数合わせの好例である。

今話題になっている地方自治体の補助金不正経理にも員数合わせの悪習が残っている。不正経理の内職員による横領などは犯罪以外のなにものでもない。しかし制度的な問題から員数合わせを行っているケースもあるようだ。

今日(10月23日)の日経新聞朝刊によると「不正経理が横行する背景には、国の補助金制度と単年度予算に基づく国や自治体の会計制度が抱える問題点もある」ということだ。「補助金事業は自治体の判断では繰り越せないので、必要ないものを購入したり、業者への『預け』という形で不正に繰り越す手法がまかり通ってきた」(同紙)のである。

私は全体としては日本人は非常に優秀な人種だと考えているが、大きな弱点は役人を中心に(旧日本軍の中枢も戦闘員というより官僚だろう)、マニュアルや規則の改定を非常に嫌い、規則を現実に合わせるのではなく、現実を規則に合わせようとする点だ。

10月25日付の週間ダイヤモンドは「『歴史を知れば経済がわかる!」という特集を組んでいる。その中に「常時、継戦能力を維持した第二次大戦期の米国最強の秘密」(著者 矢澤 元)という記事がある。そこで著者は米軍の強さの秘密は「可動率保証」が優れていたからだと述べる。「可動率」とは「動かしたいときに動く率」で、戦いたいときに戦える能力ということだ。

著者は米軍がこの可動率を維持できた理由を絵や図を満載した分かりやすいマニュアルに求めている。このマニュアルは実戦の変化に対応できなくなれば、即、改訂された。

著者によると「一方、日本の場合、作戦要務令などのマニュアルを改訂する際は、天皇陛下のご裁許を必要とした」のである。

今回の不正経理の一つの原因である「補助金制度」の元になっている法律は昭和30年に定められた「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」で、その第三条に「関係者の責務」として「補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに特に留意し、補助金等が法令及び予算で定めるところに従つて公正かつ効率的に使用されるように努めなければならない。 」という規定がある。

ここでちゃんと「効率的に使いなさい」という法の精神が示されているが、実行段階になると「事業が予定の九割で終わり国に返還しようとしたら『(予算をつけてくれた)大蔵省(当時)に顔向けできない』と怒られた」(日経新聞)といったことになる。これが員数主義である。

我々は遺伝子のどこかにこの「員数主義」を持っているのだろう。これは農耕民族である日本人の宿命なのだろうか?・・・・とも思えてくる。科学的判断ではなく直感的洞察だが。

我々は常に「員数主義に陥っていないか?」と自問する必要があるだろう。

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円高が進む理由

2008年10月23日 | 金融

ユーロの下落が激しい。今朝(10月23日)125円を切っている。9月始め頃は1ユーロ160円だったから22%程下落している。もっとも下落しているというのは、日本円の立場からユーロを見たもので、ユーロの立場から円を見ると22%上昇しているのである。円が上昇しているということは、欧州の投資家は過去の円安(対ユーロで)時に買っておいた円資産(株や債券)を売却すると、為替で大きな利益がでることを意味する。日本の内需株も世界的な株安の中で売られる理由の一つは欧州投資家の為替益出しがあると考えられる。

ところで世界的な金融危機や不況の中でどうして円高が進むのだろうか?新聞等には「安全資産としての円の選好」という表現が見られるが、もう一歩踏み込んで考えてみた。その手がかりになるのは少し前まで「何故マイナー通貨が高かったか?」ということを考えることだ。

ファイナンシャル・タイムズにJohn Authers氏がマイナー通貨が過大評価された理由として次の3つのことを書いている。第1に「コモディティ(原材料や食糧など)価格が急騰していたこと」だ。このため資源国の貿易収支が大幅に改善するので通貨高が想定された。ところがコモディティ価格の下落でこれらの通貨は大幅に下落している。例えば豪ドルは過去1年間(先週終わり頃の概算値)で102.2円から69.9円に32%近く下落している。南アフリカ・ランドは16.9円から9.9円に41%強の下落だ。

第2に「資産価格のボラティリティの急騰」である。ヘッジファンド等は円などの低金利通貨を借りて高金利通貨の資産に投資するキャリートレードを行っていた。キャリートレードで利益を得るには、投資対象資産の価格が安定していることと為替が安定していることだ。しかし世界的な株安で資産の価格の変動幅が大きくなると投資家はキャリートレードを手仕舞う。この時借り入れた円を返済するため、高金利通貨を売って円を買う動きが起こり円高が進む。

第3に「経済の健全性」である。Authers氏は外貨準備や自国通貨建てによる外部負債の程度等を上げているが、私はもっと幅広く以下の点を加えたい。

第一に経済規模である。次に内需・輸出のバランス、輸出産業の幅広さ、国際競争力、対外債務依存度、財政収支等である。財政収支を除けば日本は非常に優秀な国だ。これに較べて高金利通貨国は経済規模やバランス面で問題を抱えている。第二にレバレッジや市場性資金への依存度の低さだろう。欧州の銀行で国家支援を仰ぐようになった先は押しなべて、預金に較べて市場性資金への依存度が高い。日本の預金好きな国民性がプラスに働いたということだろう。

以上のように見てくると「次の円安がくるのはこれらの条件が変わる時」と考えられる。この中で第3の「経済の健全性」とくに経済規模等は急速には変わらない長期的な前提条件である。これにこれに較べて第1のコモディティ価格は一番早く動くだろう。もっともコモディティ価格は世界の経済成長率に強く連動していたので、経済成長が鈍化している間は供給面の大きなストレスがない限り低位安定だろう。また経済と金融が安定するまでキャリートレードが大きく息を吹き返すとは考えにくい。と考えると世界経済が安定して成長過程に向かうまで円高傾向を続くと考えるべきなのかもしれない。

だが持続的な円高は日本の輸出競争力を弱め景気を悪化させる面がある~円高のメリット・ディメリットは別の機会に論じたい~ので、少し円安に戻るという一種のビルトイン・スタビライザー機能が働くかもしれない・・・ことは考慮しておく点だろう。

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