金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

デクシア、看板と中身の違いの一例

2008年10月01日 | 金融

デクシアDexiaの名前を聞いて直ぐ分かる人はかなりの金融通だ。最近でこそ日本の地方公共団体に長期融資を行うようになってきたので、日本でも知る人は知るようになっているかもしれない。少し説明をしておくと、デクシアは12年前にベルギーとフランスの地方政府が持っていた金融会社を合併して設立された地方公共団体向け与信を専門とする特殊な銀行で、ファイナンシャル・タイムズによるとこの分野で世界一だ。

ところが一連の金融危機がこの銀行をおそった。月曜日にデクシアの株価は30%急落した。その前にデクシアの資金調達コストは急激に上がっていた。デフォルト・スワップ市場におけるデクシアの信用スプレッドは625bpに達していた。これは市場金利に6%以上の調達コストを上乗せしないと資金が取れないことを意味する。地方公共団体向け融資という利鞘の薄い融資を行う銀行にとっては死活問題だ。

600bpを越す信用スプレッドは破綻したリーマン・ブラザースよりは低いが、かなりヤバイ水準である。この状態を見てベルギー・フランス・ルクセンブルグの政府は機敏に動き合計90億ドル(64億ユーロ)の資本注入を決定した。これをうけて会長とCEOが引責辞職することになった。

デクシアが信用危機に陥った直接の原因はリーマン・ブラザースへの巨額与信だ。同行は5億ユーロの無担保融資の他15億ユーロのレポ取引を行っていた。

問題債権はそれだけではなく、デクシアの米国法人Financial Security Assuaranceというモノライン保険会社が、モーゲージの保証で3億ドルを超える損失をだしていた。

リーマン・ブラザースへの融資やモーゲージの保証で損をすることは、よく目にする話で目新しさはない。私に目新しかったのは「地方公共団体融資専門銀行」という看板を掲げているデクシアが、米国の住宅ローン・リスクや投資銀行リスクをたっぷり抱えていたことである。看板と中身は大違いなのだ。

デクシアの投資家や預金者も同じような驚きをもったのではないだろうか?

金融機関についても○○専門銀行などといった最中(もなか)の皮だけでなく、ポートフォリオという餡子(あんこ)にも毒物が混じっていないかどうかチェックする必要があるということだ。餡子のチェックは簡単ではないが。

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危険と困難

2008年10月01日 | 金融

私は登山家である。○○家というとその道の大家である意味合いを持つので面映いが、他に適当な言葉が見当たらないのでやむなく登山家と自称しよう(登山者というと「登山者の方は熊に注意してください」などというように現在進行形的に山に登っている人を指すのでこれも相応しい言葉でない)

さて登山家の観点から今日の金融や株式の市場を見てみよう。私は登山における事故原因は「危険」と「困難」にあると考えている。「危険」とは雪崩・落石・鉄砲水・土砂流・落雷のようにその中に巻き込まれると、いかに優秀な登山家・クライマーといえども助かることができない絶対的な「死地」である。これを避ける方法は「危険」な場所に立ち入らないことしかない。

一方の「困難」というものは「豊富な経験や鍛錬された肉体や優れた技術あるいは装備」などを備えたものは回避できる相対的なチャレンジである。垂直の岩壁や寒風吹きすさむ冬の北アルプスの稜線は、未経験者や不十分な装備の登山者には「危険」以外の何者でもない。しかし十分な経験と装備を持ちプルーデントな登山家にとってはチャレンジングな目標であるが必ずしも「死地」ではない。もっとも幾ら経験を積んでも自然には予測不可能ということがあるので「危険」要素を完全に排除することは出来ないが。

話を金融に戻すと金融や資産運用というものは、市場環境による程度の差はあれ「困難」なものである。困難ということはスキルと経験のあるプルーデントな参加者が努力をすれば、妥当なリターンを得られるということだ。そのベースには過去の経験や金融・経済理論に基づく合理的判断が機能するということだ。

一昨日米国では下院が「金融安定化法案」を否決するという事態が起こった。それに先立ってリーマン・ブラザースのような大手金融機関が倒産するという事態が目立っている。これを登山に例えるならば、市場は雪崩・落雷など人間の努力や装備で避けられない「危険」地域に入っていることを意味する。「危険」地域からはいち早く脱出する以外に危険を回避する方法がない。これを金融用語では「質への逃避」と呼ぶ。現在ヘッジファンドのように「困難」を好む運用者が大量の資金をMMFに待機させているのは、償還準備をしているだけではない。市場を襲う雪崩・土砂流に立ち向かう術(すべ)を失っているのだ。

今日(10月1日)の日経新聞にオリックス会長宮内 義彦氏の言葉が出ていた。「いまの経営環境で無理してまで成長路線を続けようとは思わない。当面は自らを守るために堅実性を重視する。」「手堅くやれば収益は落ちるのはやむを得ない。むしろいまは収益を伸ばそうとしてはいけない状況だ。・・・・全体が悪いときに自社だけ良くしようとすれば会社に無理がかかる

幾多の修羅場をくぐってきた人の名言だ。再び登山を例に引けば雷が鳴り響く時は山小屋でじっとしていることである。吹雪の日はテントか雪洞の中で寝袋に包まり、文庫本でも読んでいることだ。止むことのない吹雪というものはない。やがて晴天がくる。

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