金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

デリバティブ問題はこれからだ

2008年10月02日 | 金融

今日(米国時間では10月1日)米国上院で金融安定化法案が可決された。金曜日に下院で可決すると不良資産化した住宅ローン等については買取先の目処がつく。しかしこれは問題解決のスタート点に過ぎない。住宅価格が安定しないと国民の負担増や金融機関の追加損失は避けられない。これら実体経済の問題は別の機会に論じるとして、金融上の大きな問題を先にみるとクレジット・デリバティブの問題が次の大きな問題である。

半月程前連銀はAIGを救済するため850億ドルの救済融資を行った。これはAIGが410億ドルの償却を行ったことに端を発する。AIGの損失の一部はオンバランスで保有していたCDOの価格下落に起因する。しかしそれだけではなく、AIGの損失は4千億ドルを超えるクレジット・デリバティブの引受にも起因する。AIGは他の投資家が保有しているCDOの信用リスクを引き受けていたのだ。もしAIGが破綻するとクレジット・デリバティブは履行されず、AIGに「保険料」を払っていた他の投資家は不測の損失を被る。連銀はこの信用リスクの負の連鎖を恐れたのだ。

今分かりやすい説明として「保険料」という言葉を使った。たしかにクレジット・デリバティブは保険と同じ経済効果がある。しかし重要な違いもある。それは保険は当局の監督下にあり、保険会社の資本つまり保険引受能力が監督されていることだ。一方クレジット・デリバティブの引受者は銀行・保険会社・ヘッジファンド等様々で監督する当局がないという違いがある。この違いは大きい。何故ならクレジットの引受手が保険事故(対象クレジットのデフォルト)を補償してくれるかどうか・・・ということが問題になった時、当局が規制・監督しているかどうかということは極めて大きい。

クレジット・デリバティブ問題は昔の相互銀行の「保証」問題を想起させる。当時資金力がなかった相互銀行は他の金融機関が企業に対して行う融資の保証を行うことで、資金を使わずに保証料という形で収入を得ていた。ところが不景気で企業の破綻が続くと相互銀行は予想外の保証履行を迫れら、それが相互銀行を破綻に追い込んだのである。

クレジット・デリバティブ問題は相互銀行の保証問題のアナロジーという面を持っている。スケールは違いすぎるが。

モーゲージ問題に解決の糸口をつけることができたら、次はクレジット・デリバティブの問題である。クレジット・デリバティブのプレーヤー達は投資銀行がステータスを捨て商業銀行に看板を書き換えたように、自由を捨て当局の監督下に入るべきだろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バフェット、金持ちが更に金持ちになる

2008年10月02日 | 金融

先頃ゴールドマンに出資することを決めたウオーレン・バフェットが又動いた。今回は米国を代表する指標銘柄GEの永久優先株(株は期限がないので「永久」というのも変だがPerpetual preferred stockを直訳した)を30億ドル購入することに決めた。配当は10%で3年後からGEは買戻し可能だが10%のプレミアムを支払わなければならない。またバフェット氏率いるバークシャー・ハザウエィ社はGE普通株を向こう5年の間に22.5ドルで買うワラント権を受け取る予定だ。GEの株価は昨年10月には40ドル半ばで取引されていたが、その後下落が続き現在は22.5ドル前後だ。つまりワラントの行使価格は完全にインザマネーだ。

GEのように分散された複数業種を営むコングロマリットは、米国経済そのものを代表するのでベルウエザーBellwetherと呼ばれる。Wetherは去勢された羊でBellwetherは羊の群を先導する鈴付き羊のことだ。このことから市場の趨勢を代表するような銘柄をベルウエザーと呼ぶのだ。

GEがバフェット氏に示したパッケージは、通常であればAAAの会社が示すものではない。GEといえども資金確保の観点からバフェット氏の資金と名声が欲しかったのである。

かくしてバフェット氏は又金のなる大きな木をつかんだ。金持ちはかくのごとくして又金持ちになるのである。そして恐らく勇気のある人達が、バフェットという羊の後についてこの不透明な株式相場に資金を投じて、リターンを得るのであろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

金融安定化法案が一度否決された理由

2008年10月02日 | 金融

9月29日に米国下院で「金融安定化法案」は否決された。このことは既にブログに書いた。今「一度否決」と書くのは、かなり高い可能性で今日(10月1日)上院が修正法案を可決してそれを下院に諮り、最終的には下院が承認する可能性が高い・・・と私は予測しているので「一度」という言葉を使った次第だ。

昨日毎月寄稿しているある小さな雑誌社の編集長から電話がかかってきた。「頂いた来月号の原稿の冒頭に『金融安定化法案』は可決されるだろう・・という文章がありましたが、修正されますか?」と編集長。「いや、大丈夫でしょう。きっと修正案はパスしますから」と私は答えた。これ程米国を中心に市場が激しく動くと朝の日本の新聞記事すら時としてニュース性を失うのに月刊誌の記事など意味があるのかしらん・・・などと感じる時がある。

月刊誌の記事は事象の底流を汲み取らなければならないと思う。その面から安定化法案が「一度」否決された理由を考えて見よう。第一に一般人には「法案はウオールストリートの救済にしか見えない」という点だ。少し前までゴールドマン・ザックスの会長を務めたポールソン財務長官が「金融危機は実体経済に深刻な悪影響を及ぼし恐慌につながる」と力説しても「昔の仲間の証券会社を救済するのだろう」と聞こえる点だ。選挙民は合理的な判断より高給を取っている者への「嫉妬の感情」に左右されることは洋の東西を問わない。

次に日本のバブル崩壊より問題を複雑にしているのは、クレジット・デリバティブの問題だ。クレジット・デリバティブの想定元本額は巨大だ。サブプライムローンの残高は約1兆ドルで、デリバティブの残高は62兆ドルだ。ところが一般の人にはデリバティブは博打にしか見えないだろう。「何でそんなもので損した金融機関まで救済する必要があるのか?」というのが偽らざるところだろう。

クレジット・デリバティブについて一般の人が分からないのは当然である。日本の金融機関に長年勤めてそこそこの地位についた人でも、デリバティブの計算はおろか概念の理解すらおぼつかない人が多いのだから・・・・。

少し前まで日本の金融通ぶった人は「日本人はアメリカ人に較べると金融リテラシーが低い」という主張を行っていた。(私もそのようなことを書いたことがある。)これは正確にいうと半分は正しく、半分は正しくないのである。正しい方の半分は何か?というと金融や企業財務など金融リテラシーを必要する業務についている人に関してはアメリカ人は日本人よりリテラシーが高いということだ。特にトップレベルの人について。しかし金融を生業としないような人にとって本当のところリテラシーにそれ程差はないのではないか? これが誤りの部分だ。 

 金融不安が高まれば、預金保険があっても銀行取付騒ぎが起こり、高給を取っている一部のバンカー(この言葉は投資銀行マンという意味で使われることが多い)に対して強い不満を持って時として感情が優先した政策選択を行うのが大部分のアメリカ人であり、日本人と変わりがないのである。

デリバティブの市場や金融市場は一般人や普通の国会議員には見えない。しかし株式市場は見える。株価の大きな下落の向こうに恐慌の影を見た時、彼等も嫌々ながら、修正版金融安定化法案に合意すると私は見ている。答は数日ででる。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする