エコノミスト誌は「日本の株式持合いが問題を悪化させている」という主旨の記事を掲載している。記事によると日本の株式持合いは1952年の三菱地所の買収防衛に始まり、1960年代に外資が日本企業の買収を始めた頃から買収防衛策として活用されてきた。1990年頃には生保を含む持合株は5割に達した。その後低下傾向にあり2割程度まで下がったが2004年からまた上昇傾向を示している。
エコノミスト誌はこれが昨今の株価下落時に日本企業の株価下落を加速しているという。つまり本業はしっかりしていても、保有している株価が低下すると評価損などにより当該企業の最終利益が悪化するという訳だ。
同紙は特に銀行への悪影響が大きいという。先月三大メガバンクは保有株式約12兆円の1割に当たる1.2兆円の評価損を出した。これは自己資本比率を約0.5%低下させる。自己資本比率を回復するためには増資か貸出を含む資産の減少を行う必要がある。モルガンスタンレーへの出資を決めている三菱UFJは1兆円の増資を計画していたが、この噂が市場に出ると希釈化を嫌う投資家の売りを浴び、株価は急落した。
仮に自己資本が5千億円減少した場合、増資せずに10%の自己資本比率を維持するとすれば運用資産を5兆円圧縮する必要がある。
エコノミスト誌はJTPという買収アドバイザーのBenes氏の「日本企業では50%近い議決権は2.1%の株主によって押さえられている」という見解を引用し、企業は株式持合い状況を開示して透明性を高めよと主張している。
このエコノミスト誌の見解について総てが正しいかどうかよく分からない。というのは株式持合いが高く株式の流動性が低い企業の場合、売買の出会いが少ないため、市場の下落時に大きく売り込まれることは少ないからだ。
また欧米でさかんなマネジメントバイアウトなどによる公開会社の非公開化というのも、株主の短期的な要求を避け、企業の長期的戦略を推進する策として実施される。株式持合いというのも、実質的な非公開化と言えなくもない。もっとも株式持合いの実態を知らない他の投資家の利益が損なわれることは問題なので、持合状況の開示を求める意見には賛成だ。
また銀行の貸出姿勢が持合株式の時価動向に左右されるというのも問題だ。話は少し飛躍するが、銀行は色々な企業の株式を保有する結果「貸出も行う株式投信」のようになっている。つまり銀行株はレバレッジが効いて(ベータが高くなって)、市場全体の動きよりも激しい動きをとる。また時価総額の大きい銀行株の株価が相場にフィードバックを起こすということが考えられる。
銀行の株式保有というのはこの点からも考える必要があるかもしれない。これは全くの私権だが。