金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

中国の景気減速リスク

2008年11月28日 | 国際・政治

不況のリスクは「人々の夢や希望を奪う」ことである。夢や希望を失った人が直ちに犯罪に走るとは思わないが、失うもののない人が犯罪や暴動に走る可能性が高いことは確かだ。

中国の国家友展和政改革委員会National Development and Reform Commissionの張平Zhang Pion氏が、ニュース・カンファレンスで「世界的な金融危機の影響で、中国で工場閉鎖が起こり失業者が増え、社会的不安が増加する危険性が高まっている」と警告を発していることをファイナンシャル・タイムズで読んだ。

彼の警告は中国最大の輸出基地である深セン市の市長が「今年682の工場が閉鎖ないし操業停止を行った結果5万人の職が失われた」と発表した翌日行われた。中国の景気悪化の度合いは90年代後半のアジア通貨危機の時よりも深刻な様相を示している。

張平氏は4兆元(約5,860億ドル)の景気刺激対策の内訳の概要を始めて示した。ファイナンシャル・タイムズによると、4兆元の4分の3は向こう2年間でインフラ整備に使われる。内1.8兆元は鉄道・道路・空港などの交通施設へ、1兆元は四川省の地震復興へ投資される。

彼はこの政府投資は来年の経済成長を1%押し上げる効果があると述べたがこれは多くの民間エコノミストが予想するよりも低い数字だった。

不況はマイナス面が多いが、プラス面があるとすれば建設資材等の価格が下落していることと労働コストが低下していることである。中国がこの機会に大規模なインフラ整備を行い、景気を刺激しながら、国民生活の質の向上を図るならば、災い転じて福となすことができる。しかし舵取りを誤ると各地で大規模な暴動が起きる可能性を否定できないだろう。

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農林中金と公的資金

2008年11月28日 | 金融

日経新聞によると農林中金が昨日発表した08年9月中間期の純利益は前年同期比92%減の104億円。有価証券の含み損は国内金融機関で最大の1.5兆円に膨らんだ。農林中金は資本強化のために1兆円の増資を計画していたが、正式に発表を行った。

一昨日ファイナンシャル・タイムズは農林中金の増資を記事にしていた。興味深い点は農林中金を日本最大のヘッジファンドと呼んでいたことだ。今日の日経新聞では「日本を代表する機関投資家」と呼んでいる。ヘッジファンドと呼ぶか機関投資家と呼ぶかは見る角度の問題として、農林中金は58兆円の資産の15%だけを貸出に回し、7割を有価証券運用に回している。

貸出に較べて有価証券は時価評価の対象となるので、信用リスクや流動性リスクが高まると、時価の下落分が含み損を直結する。ついでにいうともっとリスクに敏感なのが、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)だ。CDSは平たくいうと「倒産保険」だが、企業や「仕組みもの」の債権について債務不履行リスクが高まると、市場参加者が感じ始めると急速にリスク・プレミアムが急騰(価格の暴落)が起きる。これがAIGの破綻の大きな原因だ。

話を農林中金に戻すと参院で審議中の金融機能強化法改正案で農林中金への公的資金注入の是非が焦点となっている。議論の詳細をフォローしている訳ではないが、気になるところは「理事の退職金が多い」などという感情的な議論が横行しているのではないかという点だ。

11月15日にG20は声明を発表しているがその中に「規制政策における景気循環増幅効果を緩和する努力をする」という項目がある。これは何を言っているかというと、「景気後退期に政府は金融機関に資金を投入して金融機関の貸出を促進しないと一層景気が悪化する」ということだ。

景気循環増幅効果は英語ではプロシクリカリティProcyclicalityという。景気後退期は倒産が増えたり、金融機関が保有する株式の価格が下落して自己資本比率が悪化する。そこで金融機関は自己資本比率を維持するべく、保有資産の圧縮を図ろうとする。これが景気の悪化を増幅させる。これは日本が1990年代に経験したことだ。

今欧米の金融機関には積極的に公的資金が投入されている(金融危機の初期の段階で米国政府は金融機関の自助努力を求めていたが)。この評価については「欧米の金融機関はそれ程傷んでいるのか?」と見るだけではなく、政府が積極的にプロシクリカリティの緩和を図っている面も見るべきである。

話を戻して総資産の15%しか融資に回していない農林中金に公的資金を投入しても国内の景気刺激には余り効果がないという考え方にはかなり理があるように聞こえる。極論をすると農林中金を巨大なヘッジファンドと見た場合、ヘッジファンドに公的資金を投入するのか?という議論にもなる。なおヘッジファンドの場合、ファンドの出資者はハイリスク・ハイリターンの投資を行っているという自覚があるが、農林中金の元手は系統預金や個人の金融債であり、預金者には「ハイリスク・ハイリターン」の認識はない。

話は長くなったが、今後世界的に大手金融機関の新しいビジネス・モデルが形成されていく中で、時価評価というブレの大きなポートフォリオを主体とする農林中金のビジネスモデルの可否が問われそうだ。

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