金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米金融業、社長連は2010年に回復を予想する

2009年08月19日 | 金融

つまらない小話から始めよう。「タープ」(TARP)という言葉を見て、読者の皆さんは何を思うだろうか?私のブログの読者は証券会社など金融機関の方が多いから(素人のブログなんか読んでないで、マーケットを見ていて下さいね。笑)、米国の問題債権買取プログラムのことを思い出す人が多いだろう。だが、たまに立ち寄ってくれる山好きの人は、テントの代用品として使う防水布のことを思い付かれるのではないだろうか?こちらの「タープ」もスペルはTARP。語源はTar(タール)を塗って防水性を出したPall(幕)、つまり防水布のことだ。この防水布を屋根のようにすると簡易なテントができる。スソや両脇が開いているので、尾根筋であまり使えないが、夏の沢登りでは重宝する野営道具だ。

問題債権買取プログラムTroubled Asset Relief Programを命名した人は、防水布のTARPを意識して「金融機関の防水布」という意味をこめて命名したのだろうか?それともたまたまの附合なのだろうか?前者だとすると中々ユーモアのセンスのある命名だが、確かめるすべもないまま時間が足ってしまった。

さてニューヨーク・タイムズによると、会計事務所のKPMGは米国130の金融機関のトップに調査をかけて、業況の回復見通しを調査した。それによると7割のトップが「2009年に業況は底を付け来年は回復に向かう」と回答している。ただし金融機関の業況回復が経済全般の回復に先行するか遅行するかについては意見が半々に分かれている。

調査によると半分以上のトップは、景気の悪化局面で資本調達やオペレーションに必要な資金調達を行うことがより困難だったことを認めている。昨年の金融危機の最中に政府は7千億ドルのTARPを発動させて、金融機関に緊急ファイナンスを行った。

KPMGの調査によると今なお金融機関のトップの最大の懸念は「問題債権の取扱」と「新しい収入源を見つけること」「資本調達」である。またトップ連中は住宅市場安定、消費者信任の改善、雇用創造の兆しを探し求めている。

私見でいうとこの中で一番遅れるのは雇用市場の改善だ。多くの金融機関は他業界と同様雇用削減で収益改善を図っている。そして金融機関のトップ自身金融機関の雇用状況が大きく改善するとは期待していない。金融機関トップの3分の2は雇用削減は終わったと回答し、4分の1は金融機関の雇用は更に悪くなると予想している。来年金融機関の雇用状況が良くなると考えているトップは3割に過ぎない。

金融機関が防水布を払いのけて新しい歩みを始めるには、もう少し時間がかかるということだろうか?

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民主党の世界観の問題

2009年08月19日 | 政治

昨日(18日)総選挙が告示され30日に投票が行われる。世論調査では民主党が相当リードしている。私も日本の民主主義が発展するためには政権交代の必要があるのではないか?とも考えている。だが今民主党の掲げている政策を見ると目先に人気取りに走り過ぎているといわざるを得ない。例えば「少子化対策」として一人2.6万円の育児手当を支給するという政権公約があるが、どうして高額所得者にまで育児手当を支給する必要があるのか理解に苦しむところである。

だが本当の問題は個別の政策ではない。党が持つ世界観が問題である。今日の日経新聞「大機小機」は「リーダーがどんな世界観や問題意識を持っているかを見極めることが需要になる」と冒頭に述べた後、鳩山由紀夫民主党代表の世界観を批判する。日経新聞は鳩山代表がVoice9月号に発表した「私の政治哲学」http://www.hatoyama.gr.jp/masscomm/090810.htmlの中の一節「グローバルエコノミーが国民経済を破壊し、市場至上主義が社会を破壊してきた過程と言っても過言ではない」を引用して、「より深く思索するリーダーならば、グローバル化や市場機能は唾棄すべきものではなく、繁栄のための武器になりうると考えるのではないか。」と批判している。

なお公平のために言うと「私の政治哲学」を丁寧に読むと、鳩山代表はグローバル化を一概に否定しているとも断言しにくい。鳩山代表は別の箇所で「経済のグローバル化は避けられない時代の現実だ。」と述べ、「グローバル化する経済環境の中で、伝統や文化の基盤としての国あるいは地域の独自性をどう維持していくか。・・・これからの日本にとっても大きな課題である。」と結んでいる。

従って鳩山代表が「グローバルエコノミーが国民経済を破壊し」と言ったのは、グローバル化と構造改革を推進した自民党攻撃の勇み足と取れない訳ではない。

だが問題は民主党の党員や連立政権を目指す連中の中に本気で「グローバル化は悪」と考える人がいるのではないか?と懸念されることだ。

そもそも戦後日本経済が高度成長を遂げ、色々な問題はあるものの、今なお日本が世界有数の経済大国であることの最大の要因は日本がグローバル経済の果実を最大限に享受したからである。もし日本が世界に向かって本気で「グローバルエコノミーが国民経済を破壊した」などというと、狂気の沙汰と思われるだろう。

確かに今日の日本の社会や経済は色々な問題を抱えている。その中には中国、インド等の新興国から安い商品・労働力(アウトソーシングを含めて)が、大量に流入することで日本の非熟練労働力が厳しい競争に晒され、若年層の失業率が高まるなどの問題が起きていることなどが上げられる。しかしこれは歴史の必然なのである。日本の製造業がアメリカ社会を席巻し、多くのメーカーを破綻・廃業に追い込んだように、コストの低い国が先進国市場に進攻することは歴史の止めがたい流れなのである。「先進国のように豊かになりたい」というのは新興国の権利であり、それを止めることはできない。

この潮流の中で私は日本がやるべきことは2つであると考えている。一つは「グローバル化の流れの中で競争力のある分野」を育て、競争に勝ち抜くことである。もう一つは「グローバル化の中で競争に負けた人々」に人間としての尊厳を保ちながら転進する道を作るということだ。

問題は民主党とその同盟軍が、このような世界観を持っているかどうかという点である。

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