毎月寄稿している雑誌に今回は「少子化問題」を書いてみた。直接の動機は民主党がマニフェストに掲げる「年31.2万円の子ども手当」が少子化対策と有効かどうかを論じたものだ。
小論文を書くに際して先進国の事情を概観した。先進国は大きく分けて3つのグループに分けることができる。第1は北欧・フランスなどのように「高福祉型で少子化に歯止めをかけているグループ」、第2は米国・英国のように「高福祉型ではないが、流動性の高い労働市場により女性が容易に職に就ける機会を提供することで少子化に歯止めをかけているグループ」そして第3は日本、イタリア、ドイツなどのように「少子化に歯止めがかかっていないグループ」である。なお日本の特殊出生率は3年連続でプラスに転じているが、特殊出生率というクセの強い統計データの性質を考慮すると日本は少子化に歯止めがかかっていないと判断している。
山田正弘氏の「少子社会日本」(岩波新書)を読んだ時、疑問を感じる一節にであった。「アメリカでは結婚が盛んであり、北欧やフランスでは、結婚に踏み切らないまでも、同棲という形で共同生活を送ることが一般的となる」
どこに疑問を感じたか?というと「今でも本当にアメリカで結婚が盛んなのか?」という点だ。そこでインターネットで米国の婚外児をサポートする団体の資料を読んでみた。そうすると全く違う事実が見えてきた。
「米国では毎年新生児の3分の1に相当する125万人の婚外児が誕生している。婚外児の41%は同棲する両親から生まれている。かなりのカップルはずっと結婚しないか、子どもが誕生した数年後に結婚する」
同団体のホームページは更に婚外児は、米国で増えているだけでなく、欧州でも新生児の3分の1は婚外児だと紹介している。婚外児が多いのはスウェーデン56%、フランス48%、英国42%だ。
このことから「少子化に歯止めがかかっている国では婚外児が多い」という事実が見える。ではどうしてこれらの国で結婚しないで子どもを生むカップルが増えているのだろうか?
これについて私は大きく3つの理由があると考えている。第1は「両親から若者の自立と女性の精神的・経済的自立が進んだ」という点だ。第2は「結婚と離婚に関する法的な壁」の問題だ。詳しくは後ほど説明する。第3は「結婚をカップルのスタート点ではなく、ゴールと考える結婚観が広がってきた」ということだ。
「結婚と離婚に関する法的な壁」について、東洋大学の棚沢直子教授はフランスの例で次のように説明している。「日本だったら、結婚も離婚もふたりの署名のある紙切れ1枚ですみます。フランスは大違い。・・・・市町村の庁舎に医師による健康診断書を提出し、庁舎に10日間掲示する。・・・市町村長による公開の挙式を経て、はじめて婚姻手続きにはいります。離婚はもっとエネルギーが必要で、合意離婚でさえ裁判所に1回は行く必要がある」
また「婚姻のあとに得た財産は共同で負債も連帯責任」という点も日本と大いに違う。
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このように考察を進めてくると、「子ども手当て」は両親の経済的負担を軽減する一つの方法であるが、少子化対策の決め手となるものではないように思われる。では何が日本における少子化対策の決め手になるかというと「女性の経済的自立を高めるような労働政策や福祉政策」と「多様化する両親のあり方を許容する社会的寛容さと政策支援」ということになるだろう。
民主党の提案している「子ども手当て」は婚外子にも支給されるということだ。また民主党は財源捻出のため、配偶者控除を廃止する予定なので、民主党が政権を取ると婚外子が増えるとうがった見方をする人もいる。だが手当てや税制の変更で結婚しないカップルが増えるというのは本末転倒だ。北欧やフランスなどでまず「若者と女性の自立」が「同棲」や「婚外子」の増加につながったということを認識することが肝心だ。
自分達の暮らしに希望が持て、それを自分の子どもに伝えたいという気持ちになる両親が増える時はじめて少子化に歯止めがかかるのだろうと私は確信している。つまるところ若者に希望を持てるような社会を作ることが、少子化対策の本筋なのであるが、今の各党のマニフェストを読んでも、それが切実に伝わってこないことが残念である。