金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

少子化対策、金よりも女性に優しい社会作りを

2009年08月12日 | 社会・経済

今度の総選挙では年金問題などと並んで、少子化対策が各党のマニフェストの目玉になっている。民主党は「所得にかかわらず子供手当て26,00円」自民党は「3歳から5歳までの幼児教育の無償化」などだ。支給対象や支給総額は異なるが、これらの政策は子育てをする家計に経済的援助を与え、出生率を高めようとするものだ。

しかしこのような経済支援よりも「夫の長時間勤務を減らし、夫婦が家庭で満足して過ごす時間を増やすことができる」ような政策を取る方が、少子化対策として有効だという主張がある。私は最近ニッセイ基礎研究所の天野研究員の「少子化政策マニフェスト、経済支援のその前に。」http://www.nli-research.co.jp/report/researchers_eye/2009/eye090805.htmlというレポートをインターネットで読んだが、このような主張の論拠が簡潔に述べられている。

ポイントを紹介すると以下のとおりだ。

最も注目される研究成果として、2人目までの妻の出産意欲には「妻の夫婦関係満足度」が大きく影響し、「妻の夫婦関係満足度」には夫婦の「共有主要生活活動数」が最重要である、というものがある。「共有主要生活活動」とは、休日の「くつろぎ」「家事・育児」「趣味・娯楽・スポーツ」、平日の「食事」「くつろぎ」をともに行うことを指す。

つまり夫の長時間労働や休日勤務を減らし、妻と過ごす時間を増やすことが一番の少子化対策であるということになる。

ところで少子化は日本だけが抱える問題ではない。多くの先進国に共通の悩みなのだ。だが日本とカナダを除く先進国では出生率の上昇が起こり始めている。最近エコノミスト誌にThe best of all possible worlds?というタイトルで、先進国の出生率改善に関する記事が出ていた。

記事はペンシルバニア大学のMyrskyla教授がネイチャー誌に発表した論文のポイントを紹介している。同教授は1975年から2005年にかけて、「合計特殊出生率と人間発達指数」の相関関係を調べ、両者が逆相関関係にあることを明らかにしている(そして最近のこの傾向が逆転~つまり日本・カナダ以外の先進国では人間発達指数が高くても出生率が序章し始めている)。「人間発達指数」というのは、国連が「どれだけ人間らしい生活をおくることができるか?」を指数化したもので、「出生時平均余命」「初・中・高等学校の合計就学率」「一人当たりGDP(ドル・購買力平価ベース)」で測定される。ゼロが最低で最高は1だ。因みに2005年度の日本の指数は0.953で世界第8位である。

一般に生物は環境が良くなると、子孫を増やすために繁殖率を高める。20世紀最大級の英国の生物学者リチャード・ドーキンスは「生物は遺伝子の乗り物である」という至言で、生物の自己増殖本能の強さを表現している。ところが人間の繁殖パターンは生物一般のパターンの逆だ。何故このようなことが起きるのだろうか?

私はこの問題を自己保存本能と自己増殖本能の観点から解釈してみようと思っている。

医療や食糧事情・衛生環境が悪い社会では、人は多産により子孫を維持しようとする(生物に共通する繁殖パターンである)。ところが環境が改善し、幼児死亡率が低下すると人は少ない子供を大事に育てることで子孫の維持・繁栄を図るようになる。これは一般的な傾向だが、これに加えて戦後日本では「少子化政策」を取ることで、教育や社会インフラ(学校等)に要する費用を抑えて、浮いた資源を生産に再投資することで高度成長を達成した。日本の成功パターンを模倣した韓国・中国も同じ政策を取った結果、高度成長を達成した。そして日本と同じ少子高齢化問題を抱えている。

現在の日本で「出産意欲が低下している」ということは、子供を生む(あるいは増やす)と「自己保存」が危うくなると本能的に感じる人が増えていることを意味するのだろうと私は考えている。つまり「自己保存本能」が「自己増殖本能」を上回っている状態が続いている訳だ。生物界においても、異常気象などの極限状態ではこのようなことが起きるのだろうが、これは異常な状態である。

出生率が回復しつつある先進国では「女性に優しい従業員政策」が取られ始めている。つまり私流にいうと女性の「自己保存本能」を満たすことで、「自己増殖本能」を引き出そうとしている訳だ。

人間の「自己保存本能」というものは、単に「安全であれば良い」「衣食が足っていれば良い」というものではあるまい。マズローの欲望段階説によると人間には生理的欲求,安全の欲求,親和の欲求,自我の欲求,自己実現の欲求の5つの欲望がある。かなり高い段階の欲望が満たされて初めて人の自己保存本能は満たされ、自己増殖に向かうのではないだろうか?

もし私の仮説が正しいとすれば、女性の自己実現をサポートする政策こそ、少子化政策の本道であるということになる。

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Gather steam (イディオム・シリーズ)

2009年08月12日 | 英語

Gather steamとは「速度を増す」という意味だ。Steamは蒸気で、機関士が速度を上げるため蒸気圧を高めたことが語源だ。ニューヨーク・タイムズにRecovery in Asia begins to gather steamという文章が出ていた。「アジアの景気回復は速度を上げ始めた」という意味だ。

今週火曜日にシンガポール、フィリピン、オーストラリア、中国で発表された経済データは、アジアが米国や欧州を上回るペースで景気回復基調にあるという希望を抱かせる。回復基調が特に鮮明なのは中国だ。6月の鉱工業生産は前年比10.8%上昇し、小売り売上高は15.2%上昇した。

オールド万・ザックスは中国の今年の経済成長見通しを前回の8.3%から9.4%に引き上げ、来年には10%を越える成長を予測している。

オーストラリアでは企業信頼感指数が過去2年間で最高レベルに達し、中央銀行は金利引き上げの可能性を示唆している。

もっともアジア諸国の景気回復には格差があり、日本はまだ深いリセッションの最中である。日本の景気がGather steamするのはいつのことだろうか?

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