台風9号の影響で現在日本では死者12名行方不明者10名という大きな被害がでている。お隣の台湾・中国では台風8号(日本以外ではモラコットMorakotと呼ばれている)の影響で大きな被害が出ている。台湾の洪水は過去半世紀で最大規模だ。一方インドでは雨が降らずサトウキビが不作というから、昨今の気象状況は異常だ。
ところで台湾海峡で波が高くなっているのは台風のためだけではない。中国が台湾海峡に短距離ミサイルを着々と増強させているからだ。9日のファイナンシャル・タイムズは政治・国際問題シンクタンク・ランド社が最近リリースしたレポートのサマリーについて報じている。ランド社のレポートは料金を払うと全文を読むことができるが、取りあえず無料でダウンロードできるサマリーを読んでみた。
レポートによると中国は台湾海峡にCSS-6,CSS-7などの短距離ミサイルを増強させ、2013年には台湾の空軍力を一時的に麻痺させる規模にまで高める予定だ。ランド社がモンテカルロ・シュミレーションで試算したところ、90発から240発のミサイルで、台湾の地上空軍基地から戦闘能力を奪うことができるが、この規模のミサイルを実装するということだ。これはもし中国がミサイルで先制攻撃をかけた場合沖縄・嘉手納の米軍基地から米空軍が反撃に出る前に台湾海峡の制空権が奪われることを意味している。
台湾(中華民国)の現馬英九政権は三不政策(統一しない・独立しない・武力行使をしない)を掲げているので、近未来に台湾と中国が武力衝突することは考え難い。しかし台湾の世論調査によると「自分達を純粋な台湾人と考える人の割合が51%」「台湾人であるとともに中国人であると考える人が41%」「中国人とだけ考える人が5%以下」という状況だ。
このことから経済的・言論的圧力だけで台湾をコントロールできない懸念を持つ中国が軍事的圧力を高めるため、近距離ミサイル配置を増強していると判断できる。もっともランド社のレポートによると、中国が制空権を制圧しても地上部隊が台湾に侵攻することは極めて困難だと述べている。
台湾の海峡問題の専門家George Tsai氏は「長期的に見ると、たとえ米国が台湾に対し軍事的に全面的な支援を行ったとしても、台湾を防御することはできない」というとFTは報じる。このことは極東地域における米国の関与を弱めることを意味しない。「現在の問題はいかに中国と米国が戦争回避を確実にするかという政治的なものになっている」と前述のTsai氏は述べている。
台湾海峡の軍事バランスの変化は日本にも大きな影響を与える。まず日本にとって必要なことは個別断片的な外交政策や軍備議論ではなく、アジア諸国の実情を冷静に把握し、それを共有する風土を作ることではないだろうか?本当のところは北朝鮮のミサイルなど恐れる程のことはないが、中国のミサイルは日本にとって潜在的な脅威である。北朝鮮のミサイルは通り雨程でもないが、中国のミサイルは台風クラスの風圧があるのではないか?と私は考えている。